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ほんのしょうかい:水谷雅彦『共に在ること――会話と社交の倫理学』〈『思想の科学研究会 年報 やまびこ』より〉

水谷雅彦『共に在ること――会話と社交の倫理学』(岩波書店、2022年)



 本書は、(著者も述べているように)「人間的コミュニケーションの基底と実相を倫理学という観点から論じようとするもの」といえるだろう。テーマとしては、(副題にもあるように)「会話と社交」である。そして、本書で最も強く打ち出されているのは、(本書のタイトルでもある)「共に在ること」=「共在」(さらには、「共在感覚」)であろう。以下、本書の内容を要約することは別に譲り(たとえば、オンライン上でも読める工藤和男「〈書評〉水谷雅彦『共に在ること――会話と社交の倫理学』」参照)、この主題についてみてゆくことにしよう。
 著者は、「終章 共在の倫理学へ向けて」において、第一部「会話の哲学」で主に論じられている「コミュニケーション」にかわって、「現在では「共生」という語がその座を奪っているかの感がある」という。そして、「本書も「共生」について何事かを言うべきなのであろう」としつつも、「しかし、…ここではその大前提に立ち戻ることを試みたい」と述べ、「「共生」の大前提として提示したいのは「共在」ということである」という。このような「共に在ること」=「共在」、さらには、その基底にあるとされる「一緒にいるという感覚」である「共在感覚」(文化人類学者・木村大治の議論)をもとに、これまでの倫理学や法哲学などで問われてきた「共生」論に一石を投じようとする姿勢には共感するところが多い(例えば、本書でも先の「共生」論の一つとしてとりあげられている井上達夫『共生の作法――会話としての正義』(増補新装版、勁草書房、2021年)に対して、「ケア(注意、配慮、世話)」を中心に据えた「共生の技法(アート)」を提示した(この研究会の会員の一人である)川本隆史『〈共生〉から考える:倫理学集中講義』(岩波現代文庫、2022年)を本書と読みあわせてみることも興味深い試みとなるだろう)。
 最後に、(本書でも簡単にふれられているが、)「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の流行」後、さまざまに変化した「会話」や「社交」のあり方(そこでの「違和感」)を含め、本書でとりあげられている理論や議論を検討しつつ、(サークルなどで)会話の「楽しさ」を味わいたいと思った一冊である。                                    (宮城 哲)

https://www.iwanami.co.jp/book/b599118.html


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