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【画廊探訪 No.126】二つの極の間で、ボールを足し引きして ―――「sphere」五十嵐朋子 日本画展に寄せて―――

二つの極の間で、ボールを足し引きして
 ――表参道画廊・MUSEE F「sphere」五十嵐朋子 日本画展に寄せて――


襾漫敏彦

 新型コロナウイルス感染症の流行による混乱の最中、トンガ沖で海底火山が噴火した。そして原因のわからぬ津波の警報に、ひと昔前の人類と文明の脆弱さを思い知らされた記憶がよみがえった人もすくなくないだろう。

 五十嵐朋子氏は、日本画の作家である。彼女は、今回、球――「sphere」――を中心に作品を制作した。風船、雪玉、ボール、回転遊具。彼女は、個別の情動を表情と共にとりのぞいて、無垢な存在として動きだけとなった子供達の姿を、単色を基調とした背景に描いていった。
 水平線、垂直にかかる重力、そういう方向性を運行の磁場のように絵筆を走らせる淡く薄い塗りは、クレヨンのような乾いた印象でもあり、濃霧のスクリーンに映しだした幻燈のようでもある。


 球、円、人類は進歩していると信じているが、いつも同じところに戻っている。コロナの名称は、その丸い姿を王冠に喩えたものである。そして、地球の中心からのエネルギーが溢れて火山が噴火した。人類は足踏みする。
 しかし、生命が進化するのにウイルスは大切な役割を果たしてきた。地球に命があふれるのは、プレートや火山活動によって物質を循環させているからだ。反復を先にすすめるのは、巨大な球と微小な輪の力なのだ。


 五十嵐は、日の沈まぬ白夜と日の昇らぬ極夜をテーマに一対の絵を描いた。出口のない時を舞台に踊る少女は、大自然の極大と極小の間(はざま)で生かされる人類の象徴のようでもある。
 絵は足し算でもあり、引き算でもある。五十嵐の技法は引き算の技法である。引いて引いて引いた先に残るのは何か。彼女は残る何かをあらためて足していくために、もう一度、引くのだろう。

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公式サイトは見当たらなかったのですが、五十嵐朋子 画家で検索するとこれまでの活動等がでてきますので、参考にしてください。



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