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【画廊探訪 No.113】うつしだす現代の表具 ――表参道画廊・矢尾伸哉個展“I go to the river”に寄せて――

うつしだす現代の表具
――表参道画廊・矢尾伸哉個展“I go to the river”に寄せて――
襾漫敏彦

絵画は、様々なものを取り集めて組み上げられる。写真は要らぬものを切り捨てることでフレームがきまる。例えれば、絵画は足し算であり、写真は引き算である。だからこそ、絵画にはとり落とした主観があり、写真には、紛れこんだ世界がある。

 矢尾伸哉氏の写真のフレームからは、時の流れが引かれている。表参道画廊での今回の展示は、撮影した河口付近の隅田川の風景を、三幅組みあわせてコンクリートの壁面に投影する。パノラマ、連続写真、いや、むしろ色彩を抑えた襖絵。左から右への展開は、時の位相のずれをつくりあげ、僕等はその時の幅の中に放り込まれる。

 超越者の住まう永遠と無限の世界で、人は過去から未来へと追いやられる。未来への不安は、心を過去へと引きとめていく。しかし、過去には戻ることはできず、未来はまだ訪れない。瞬間の画像は、部屋の襖絵のように組みあわせられて幅をもつ時の領域を作り出す。それは、永遠の中に切りわけられた時の牢獄であろう。

 絵画は作者の主観を表した建築物である。それは昔日が用意した<美の単語>を集めて組みあげられる。写真は、構図を決めることで、選ばぬことを選ぶのである。僕らは、宮殿の中で調度を眺めるように埋められていない隙間で主観をほどき、窓から外を見るように選ばれなかった場所から外へと眼をやる。
“I go to the river”
今回の展示は、外側の風景で控えめな宮殿が作られている。
“I go to the river”
そして時が流れるところに向かうことは、永遠の現在が奏でる音を今一度、聴き直すことなのでもあろう。

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