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【画廊探訪 No.027】迷いをかきたてる粧いを前に ――中川知美展作品に寄せて――

迷いをかきたてる粧いを前に
―――中川知美展作品に寄せて――
襾漫敏彦
 そこに見るのは、縫い糸を失ったパッチワークのような構図である。それは包みが破れて散らばった千代紙のようでもあり、逢瀬の前に脱ぎ散らかした衣装のようでもある。人は、そこに意図を見出して語ることはできない。しかし、その背後にあるものを考えてしまうのである。

 中川知美氏は服飾の仕事をした後、美を表現する世界へと踏み出した。木の板を画布として、布切れや紙を散らかすように貼り合せる。線や色を加えたり、コーティングをかけたり、ひきはがしたりして、情感を湧きたたせる。

 薄絹のとばりを霧のように重ねた作品は、形をもつ世界を、想念の世界に移しかえていく。それは、粧って別の何かに化すことに通じる仕草でもあり、内に秘めた何かの、表側に出でた現れのようでもある。とりとめもない存在、数えきれない想像、それは襖の向こうの座敷の世界のようでもあり、重ねられたレースの帳の奥にたたずむ斎宮の溜め息のようでもある。

 飾りたてるものと、飾られるもの、その狭間には、漠とした情感が浮き沈みする。中川知美氏は、薄紙を合わせたり、引きちぎったりして、印象の霧の中に現れる自分の幻影の粧いの内側に、それを映し出そうとしているのであろう。

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中川さんのWEBSITEです。

本来は、関西方面の方ですが、東京での個展でお会いしました。こうやって人が人の媒介、メディアにもなっていくんだなと思います。

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