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健全な社会だから笑える不道徳なジョーク

「俺んちの周りに壁を作ってくれ。皆のことが大嫌いなんだ」

こんなプラカードを掲げていた男性の写真をネットで見付けてアハハと笑ったことがある。どういう状況かと言うと、トランプ大統領の「メキシコとの国境に壁」案に賛成とか反対とか書かれたプラカードを持った人々が集まり声を挙げていたところで、彼はこのプラカードを掲げて周囲の人を笑わせ和ませていた。

先日はこんな投稿を目にしてまた笑った。
「うちの爺ちゃん、生涯に渡って共和党支持者だったんだけど、死んだ後は民主党に投票したみたいだよ」

現在、選挙の件で不穏な空気が流れているアメリカ。私はこの国に移住して20年ちょっとになる。亡くなった人にも投票用紙が来たのかどうか、その他大規模な不正があったのか無かったのか今も揉めている。メキシコとの間の壁問題にせよ、選挙問題にせよ、特定の誰かを傷つける事なく笑いに代えちゃう人ってすごいな。笑っている間は嫌な空気をクリアにしてくれる。そういう人が多いのはアメリカのいいところの一つだと思う。

ショートショートで有名な故、星新一氏が多くの歳月を費やして収集したアメリカの一コマ漫画とそれにまつわるエッセイが盛りだくさんに書かれたこの本「進化した猿たち」にはそんなアメリカのユーモアが溢れている。

死刑、犯罪、浮気などダークなテーマのものも多い。例えば電気代が2倍になったので節約のためにと一つの電気椅子に押し込まれている2人の死刑囚の画。納得いかないよなぁって顔をしている。

銃殺刑の場から走って逃げる死刑囚に「止れ、さもないと撃つぞ」と執行人。

収監されている夫との面会で「子供たちについては安心よ。みな少年院に入ったから」と誇らしげに告げる妻。

夫に銃を向けられ「引金をひいたら二度と口をきいてあげないから」という妻。

不道徳で、場合によっては悪趣味で、倫理的に微妙だけど、とにかくシンプルでストレートでアハハと笑えるアメリカンなジョークたち。これらは
「俺んちの周りに壁を作ってくれ」とプラカードを掲げた人のように
「爺ちゃんが死後も投票した」と言う人のように空気を和ませてくれる。

進化した猿たち(3)のあとがきで星新一氏は書いている。洗練さは欠けていても、分かりやすく面白いこのような漫画は、健全な社会を前提にしているからこそ可笑しいのだと。モラルが崩壊して、実際にこれらの一コマ漫画のような比率が高い社会になったらこの種の漫画の面白さは成立しないと。

確かに。こういう漫画に笑える限り、難しい問題もジョークにして和ませてくれる人たちがいる限り、社会はきっと大丈夫。





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