COVID-2119④

連続ブログ小説 COVID-2119
第4話 
ついに見つかったウイルス解明の手掛かり
そこに隠されていた謎解きが始まる
そして、地球と火星の関係とは

#小説 #SF #ショートショート #COVID -19


第四話「結」

黒曜石の分析が始まった。素材こそ黒曜石ではあるが、明らかに人工的につくられた形だ。長方形で大きさは手のひらほど。地球でかつてスマホという情報端末が使われていたそうだが、ちょうどこの石のような形だったと聞いている。今、情報のやり取りはナノチップコンタクトレンズを目に装着するだけで済む。
透視装置による分析により、石は薄い板が数百層以上に重なった構造で表面と裏以外は細かく数字が刻まれていることがわかった。数字は1と0の羅列、つまりデータだった。黒曜石はまさにメモリをもったスマホのようだ。グリーンタウンのスーパーAIはフル回転でデータを取り出した。
そしてブルータウンによる驚くべき分析結果が報告された。

データはゲノムであるという。
レッドタウンの評価を待たずとも誰もがすぐにピンときた。
それはCOVID−19の遺伝子データであった。さらに別の層に刻まれたデータにはワクチンの設計図と思われるものや、変異の条件などウイルスに関するあらゆる情報が含まれていた。すぐさまレッドタウンを通じて地球統合医療本部にデータが送られ、人類は新たなワクチン開発に着手した。治験段階ではあるが、地球でのあらゆる変異型のウイルスにも効果が認められている。火星は地球の希望の星となった。

ただ、気がかりな疑問が残っている。かつて火星に暮らしていた知的生命体はなぜ地球にCOVID−19というウイルスを仕込んだのか。それも人類が誕生する前に。

仮説を立ててみよう。
彼らは予測していた。いずれ地球に知的生命体が生まれることを。さらに、その進化発展の過程で環境を破壊し、星そのものの生命力を奪ってしまう愚かな道を辿ることも。なぜなら自らもその道を歩んできたから。

そう考えると、アフターコロナの地球環境は格段に改善された。2020年のコロナショックと言われたパンデミックを境に石油の消費量が極端に落ち、CO2排出量はあっという間に下がった。残酷なことに、ウイルスによる命の選択は否応なく人口の適正化を図り食糧危機も去った。一方で世界が医学に注力したためウイルス以外の病気での致死率は格段に下がり、健康寿命は今や90歳だ。人類共通の目標ができたことで国家間の争いはなくなり様々な価値観を認め合えるようになった。COVIDー19との闘いは、結果として地球の寿命を伸ばすことになったのだ。

つまりCOVID−19は、火星人からの手紙だったのだ。タイムカプセルのように仕込まれた手紙は2020年に開かれた。ちょうど地球が悲鳴をあげ、瀕死の重症になりかけていた時に。感染者が自分で息ができず人工呼吸器をつける状況は、まさに地球の姿を表していたのではないだろうか。温暖化により上がった熱は下がらず、CO2に溢れた肺は炎症を引き起こしていた。それは警告の手紙であり、また人類と地球を救う処方箋でもあった。

しかしながら手紙の送り主は、絶滅してしまったようだ。このシールドの外の世界に今はもう生命体が息をしている気配は全くない。地下100mまでの調査でも文明的な建造物の痕跡も発見されていない。数億年前にウイルスという形で地球にメッセージを残した彼らは、今の人類の姿をどう見るだろうか。

ナノチップコンタクトに速報が入ってきた。「COVID−2119から新たなデータ検出」
あの黒曜石はCOVID−2119と名付けられた。新しいデータは遺伝子データではない。分析にあたったのはブラックタウンの研究チーム。地理的分析を得意とする彼らによると、どうやら地図データらしい。ブルータウンに住む僕のところに連絡がきた。ドロイドを連れて研究室に至急来いという。八咫烏のような3本足のドラム缶型ドロイドと共に研究室へ向かった。ドロイドのソケットにCOVIDー2119が差し込まれた。するとホログラム装置が作動し、映像が投影された。それは太陽系を中心とした宇宙地図だった。さらにそこには目的地が示されていた。300光年先にある惑星X。
これはいったいなんなのだ。

つづく 
(次回ついに最終章)


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