おやすみ私_ヘッダー2

おやすみ私、また来世。 #15

 僕らは新木場の駅前まで戻り、目についたカフェで一息ついていた。スタンディングのライヴ参加に、二人とも疲れてしまった。久しぶりということもあってか、普段はステージ前で観ることはなかったが、今日は二人揃って前方でステージを観ていた。
 実質ツーマン・ライヴであり、『正しい相対性理論』に参加していたアート・リンゼイを退屈と思うかどうかで、今日のライヴの評価は割れる。僕はアート・リンゼイのサポートギターとして参加したコーネリアスこと小山田圭吾を母親の代わりに観るという使命を受けていた。その小山田圭吾も『正しい相対性理論』に参加しており、彼の出演が告知されると、フリッパーズ・ギターを神と崇める母親が行きたいような素振りを見せた。しかし、オールスタンディングという会場に気がつくと、もう年齢的に立ちっぱなしは辛いという理由から、参加をあっさりと諦めた。その代わりに、どんな感じだったか報告せよ、という話に落ち着いた。
 ステージに、かの小山田圭吾がゲストで登場しても、オーディエンスは相変わらずの地蔵っぷりだった。そのことから彼目当ての客はいないように思った。最終的に小山田圭吾とアート・リンゼイが相対性理論と絡んだのは、アンコールの「ムーンライト銀河」だけで、若干の物足りなさはあったもの、母の信仰する神のギタープレイを間近で観る使命は果たすことができた。
 終演後、僕がしきりに母親に感想のメールを送りつけているところを見た彼女も、『オヤマダケイゴ?』──“誰それ?”という反応だった。実際、会場ではその程度に思う人ばかりだったのだろう。途中、後ろにいたオジサンが倒れるというハプニング(その後、自力で復活)もあったりしたが、全体的に良いライヴだった。何より会場限定で発売される『正しい相対性理論』のアナログ盤を入手する目的が果たせたので、個人的には満足だった。
 ──いつもなら、もう少し饒舌に感想を語るはずの彼女も、今日はどこか上の空だった。浪人生活が上手くいっていないのか、最近は少し元気がないように見える。新曲がリリースされれば、すぐに何かしらの反応をしていた彼女だったが、先週発売された新曲についても、何も呟いていなかったような気がする。そのことを訊ねると、「うん? 何も書いてなかったっけ?」と、はぐらかされてしまった。そして彼女は、アイスティーを一口飲むと、おもむろに語りだした。
「──ジン君、二〇一二年問題ってどう思ってる?」
「お、急にきたね──マヤ暦が終わる年だっけ? だから世界も終わるみたいな、そんな話?」
「うん。それが来年の一二月二一日。その日マヤ暦は〈新しい太陽の時代〉を迎えることから、それが世界の終わりになると言われてる。でもこれに関しては、新しい時代を迎えるのだから、決して終わりではなく、終末論者が歪曲してそう言い始めただけな気がする。そもそも研究者によってマヤ暦の計算方法が違っていて、何通りもの最終日があるのがすでに怪しい」
「あ、そうなんだ。それは確かに怪しいな」
「他にも二〇一二年は、マヤ暦とは関係なく、様々なことが影響して世界が終わると言われてる。ここ何年かは、一九九九年の終末論に代わる新たな終末論として定着してる。ノストラダムスの大予言に代わってね」
「ノストラダムス……結局、何も降っては来なかったけど、一九九九年七の月、恐怖の大王が降ってくるって、子供の頃はめちゃくちゃ怖かったな」
「そうね。私は世代的に完全に後追いだから当時の空気感はよく知らないけど、あれはノストラダムスの散文詩であって、捉え方によっていろんな解釈ができるから。だから正解なんてない。その後に起こった出来事に近い詩篇を准えて、的中したって後世の人が言ってるだけ」
「なんか、珍しく懐疑的だね」
「そう? 予言に関してはもっと信憑性の高い人たちがいるから、そう思うだけかも。五〇〇年以上前の人が、遥か未来である現代を予言するより、近代に住む人が近未来を予言する方が信頼性が高いと思わない?」
「確かに……。今から五〇〇年後だと、二五一一年か──ドラえもんの来た世界よりも、遥か未来の世界になるな」
「うん。全く想像がつかない」
「だから、マヤ人が二〇一二年に世界は終わるって唱えても、あんまり信憑性がないっていうか……釈迦みたいに五六億七千万年後に復活するとか、もっと壮大な数字を言ってくれれば、『あ、そうですか』と納得するしかないんだけど」
「そうだね──他にも二〇一二年には太陽活動が極大期に入って、大規模な太陽嵐──スーパーフレアが起こって、それが終末の原因になるとも言われている。太陽嵐が発生すると地球の磁場が狂って、あらゆるインフラに影響が出るというのがその理由。それから五月には金環食が起こるのだけど、この時、太陽と月と同時にプレアデス星団──つまり昴が地球と一直線に並んで、天変地異が起こると言う研究者もいる。あとは惑星Xの接近」
「うーん、実際に何か起こるかは別として、太陽嵐は科学的だから何となくわかる。でも、金環食のときに昴が地球と一直線になったとして、そんな遠いところの影響って受けるものなのかな? あと、惑星Xって?」
「うん。まず太陽嵐については、私は規模によるかなと思う。一八五九年と同等のスーパーフレアが起きたとすると、GPSやネットワークといったインフラ全般に影響が起きて、社会に影響を及ぼす可能性はあると思う。昔と違って、電子機器が正常に作動しないと生活できない時代だからね。金環食についてはジン君とだいたい同じ見解。太陽系内の惑星直列ならまだしも、そんな遠くの星団が並んだとしても何の影響もないんじゃないかなと思う。宇宙には無限ともいえる星や星団があって、距離はともかく、地球は常にどれかと並んでるだろうしね。で、惑星X──惑星Xは太陽系に属されるとされる仮説上の惑星質量天体で、ニビルやマルドゥックと呼ばれることもある。海王星よりも外側を三六六一年っていう長い公転周期で回っていて、二〇一二年に地球に衝突すると一部で言われてる」
「衝突って……どれだけ大きな天体か知らないけど、そんなのが接近してくるのなら、然るべき機関ではすでに観測されているんじゃないの?」
「うん。軌道上にそういった天体はなくて、NASAや天文学者からは完全否定されてる」
「ま、そうだろうな……」
「でも、実際は観測されていて、公表すると世間がパニックになるから公にしてないだけだと言う人もいる」
「ディスインフォメーションか──何が真実かは、その時になってみないとわからないってことだね」
「うん。だから私的には、“あるかもしれない”という可能性としては、惑星Xとは言わないけれど、何らかの物体が衝突して滅亡っていうのは、ちょっとだけ支持」
「支持するのか」
「──それとね、その惑星X──ニビルには高度な文明を持った異星人が住んでいて、三六〇〇年周期で地球に近づく度に、人類の文明を進歩させてきたって言う者もいる──昨年亡くなったけど、考古学者ゼカリア・シッチンは、シュメール文明の粘土板に記されたシュメール文字を独自に解析した結果、ニビルにはアヌンナキという生命体が存在していて、地球人はそのアヌンナキによって創造されたという解釈をしているの。アヌンナキは、母星であるニビルの鉱物が枯渇した際、それを求めて遥か太古の地球にやってきたと唱えてる。そして、その鉱物を採掘させる使役としてある生物を創った。それはアヌンナキの遺伝子から創り出したけれど、統制をとるためか反乱を恐れたのか、自分たちの持っている能力のいくつかを封じて、自分たちよりも若干劣る生物だった。それが私たち人類。創られた人類は、自分たちを創った異星人に使役されながらも、様々な知識の恩恵を受けて、自分たちだけの世界を造り上げていった。だから、ヒトがそのアヌンナキを神のように崇めるのは当然の成り行き。そして、それこそがメソポタミア文明だとシッチンは唱えてる。ちなみにユダヤ、イスラム、キリスト教の他、日本の神道にもアヌンナキが影響を与えていて、その神祖は同じとも言われてる」
「──なるほど」
 少し興味の湧いた僕は、冷めきったポテトを突つくのを止め、彼女の話を聴くために姿勢を正した。
「でも、その説はシッチン以外のシュメール文明の研究者から発表されたことはなくて、シッチンの誤訳や捏造だとも言われてる──他にもシッチンは、シュメールの都市ウルが滅んだのは、太古に異星人間で起こった核戦争が原因で、降り注いだ放射性降下物のせいだと唱えていたりする。そういう感じで私たちに魅力的な情報を残している反面、何の学術的な根拠も信憑性もないと、他の考古学者や天文学者から、シッチンは完全に無視されてる。確かに海王星の外側を周回している惑星に、そんな高度な生命体が住んでるとは思えないけど、それが太陽系の外から来た高度な文明を持つ異星人だとしたら、その可能性はずいぶん高くなると思わない?」
「──まあね」
「私的に惑星Xの存在には懐疑的だけど、高度な技術や文明を持った地球外生命体が、遥か古代の地球に辿り着いて、そこで人類を創造したっていう説は推したい。それがアヌンナキかどうかはわからないけど、異星人が地球に来たときにいたホモ・エレクトスと、彼らの遺伝子がかけあわされ、突然変異のように誕生したのが人類なんじゃないかとも思う。かつてダーウィンが、ネアンデルタール人からホモ・サピエンスに至るまでの中間種(ミッシングリンク)が見つかってないと言ったことがあって、それがその可能性を高めてる」
「うんうん」
「──でもね、最近の研究だとネアンデルタール人もホモ・サピエンスも、どちらもアウストラロピテクスの派生であって、源流は同じとされてるの。それまで進化論と呼ばれていたものは、進化は種の自然淘汰によるもので、遺伝で起こるものではないってことが定説になってきてる。だから地球の環境に対応できなかったネアンデルタール人は絶滅し、残った方のホモ・サピエンスが“進化した種”とされているみたい」
「へぇ、最近の進化論はそんな風なんだね」
「うん。私はネアンデルタール人も実は絶滅はしてなくて、ただ見つかっていないだけで、今も存在してるんじゃないかって思う。例えば、サスカッチやビッグフットみたいな伝説のUMAと呼ばれる猿人がそうだとしたら──」
「あぁ」
「彼らがなかなか見つからないのは、ヒトが持っていない能力──テレポーテーションや次元移動ができるから。実際ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスより脳の容量が大きかったらしいから、ひょっとしたらそんな能力があるのかもしれない。猫だって、私たちより劣っているっては言うけど、人の視えない何かが見えているし、言葉も発せず仲間とコミュニケーションをとってる。そんなアニマル・サイをネアンデルタール人が持っていたとしても何も可笑しいことはない──だからヒトも、今は失われた特殊な能力を持っていたんじゃないかと思う。脳の能力は三〇%ほどしか使われていないって話もそこに繋がる。優れた科学者やアスリートは、何かのきっかけでそのロックが外れた状態で、通常よりも能力を引き出せているのだと思う。それがテレパシーやサイキネシスといった特殊な能力として表面化すると、今度は超能力者と呼ばれるようになる。そして全ての能力がアンロックされたとき、ヒトは神になることができるのかもしれない」
 完全に信じたわけじゃなかったが、相変わらず、そう言われるとそうかもしれないと思わせる情報の重ね合わせに僕は感心する。
「神か……でも、ヒトが異星人から創造されたと種だとしたら、人類は外来種ってことになるんだね。地球の在来種であるネアンデルタール人からしてみたら迷惑な話だ」
「あはは、そうだね。有神論的進化論と無神論的進化論。宗教観の薄い日本人からしてみると、神が異星人だとしても特に気にはしないけど、神は神という存在でなくてはならないと信じている敬虔な国だと、神が異星人だなんて説は全く受け容れられないと思う。経典の内容が変わってしまうようなものは、例え仮説であっても一切認めない。そんな雰囲気を感じるからね」
「人知を超えた力を持っているところで、それは神でも異星人でも変わらなくて、単に呼び方の違いだけのような気がするんだけどね。神=異星人ってなったときに、ありがたみがなくなるってことなんだろうね、平たく言えば……」
「うん。結局は何が真実かなんて、過去にでも行かない限りわからない。でも、こうやって想像や妄想を積み上げて、そうだったかもしれない可能性が上がっていくことで信憑性に繋がっていく」
 ──それが真実であれ創作であれ、彼女の話はハリウッドのSF映画以上に壮大だった。それはとても興味深く、ただ純粋に引き込まれた。一見突拍子もない話のようだったが、過去の歴史から最新の科学まで、あらゆる学問を巻き込んで、絶対にないとはいいきれない辻褄の合う可能性を感じさせた。科学とオカルトは紙一重だということを改めて思い知らされる。

あおり@aoriene・2011/6/5
UMAは過去に滅びたとされる種の生き残り。
見つからないのは、見つからないなりの能力を持っているからなのね。

あおり@aoriene・2011/6/6
きっとスカイフィッシュも、
次元移動できるから見つからない。

あおり@aoriene・2011/6/25
誰もいないけど、誰かが話しかけてるような気がする。

┃あおり@aoriene・2011/6/26
┃やっぱり、誰かが話しかけてる気がする……。

┃神@zinjingin・2011/6/26
┃何て言われてるの?

┃あおり@aoriene・2011/6/26
┃わからない。人語じゃないかも。

┃神@zinjingin・2011/6/26
┃マジかー。

あおり@aoriene・2011/7/3
最近、明晰夢を頻繁に見る。
きっとそのうちアストラル界と繋がるはず。
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