「ママのご帰還」 (1940)

ガーソン・ケニン監督、アイリーン・ダン共演の白黒RKO作品「My Favorite Wife」。グラントとダンの共演作といえば、なんといってもレオ・マッケリーの「新婚道中記」 (1937) というスクリューボールコメディの代表作があり、ここでも同じ感じの夫婦を演じています。当初はレオ・マッケリーが監督するはずだったのですが、瀕死の交通事故を起こしたために、ガーソン・ケニンと交代したそうです。アイリーン・ダンは顔が長めだから、ジュリー・アンドリューズを思い起こさせ、やさしいお母さん風なのにコメディセンスや色気もあるというのも似ています。

7年間行方不明だった妻がヒョッコリ帰ってくることから生じるドタバタ。

夫グラントがゲイル・パトリックとの結婚を裁判所で認められた日、ダンがひょっこり帰ってきます。7歳ぐらいの娘と息子は、彼女が誰だかわからないけど、人になつかない愛犬がじゃれつくので不思議に思います。新婚カップルが自分の新婚のときと同じホテルに泊まっているのを知ったダンがホテルにおもむくと、グラントはビックリ。彼女のために別の部屋を借りてやり、二つの部屋を行き来するグラント。「なんて男だ」と憤慨するホテルの支配人。

7年間行方不明になっている間、ダンはランドルフ・スコットと二人で孤島で暮らしていたということが途中でわかり、さらにややこしくなります。二人がアダムとイブと呼び合っていたのを知り、疑心暗鬼になるグラント。英語字幕なのでよくわからないのですが、このころのハリウッド映画だと、夫婦とは別のカップルに肉体関係があったら、いけないのかな?同じ部屋で寝泊まりしているはずのグラントとパトリックの間に何もないって考えられないけれど、終わりのほうの裁判ではパトリックが「キスレスだ」と不満を述べているし、健康な二人が7年間孤島にいて何もないなんて信じられない!30年代の初めから映倫が厳しくなり、漫画的なスクリューボールコメディが流行る一因になったのですが、それ以前のエルンスト・ルビッチのような艶笑喜劇だと肉体関係があることを前提に映画を作っていると思います。60年代に再映画化されたものは、どうなんだろう? ドリス・デイとジェームズ・ガーナー主演の「女房は生きていた」 (Move Over, Darling) で、もともとマリリン・モンローが主演していたのだけど、撮影途中で亡くなったそうです。

こんな面白いシチュエーションで3分の2ぐらいまでは笑えるのですが、裁判所で決着をつけようとするあたりから、「もういいや」って感じになります。すでに子供たちはすっかりダンと打ち解けており、「やっぱりお母さんだったんだ」となるあたりはホームコメディです。最後、グラントとダンの二人が意地の張り合いで、なかなか同じ部屋で寝ようとしない様子は、「新婚道中記」と同じ趣向なので、イライラするだけでした。

英語字幕で見ることもできる米盤DVDは4枚組で、ほかは「ウチの亭主と夢の宿」「夜も昼も」「独身者と女学生」というグラント主演作品集。本体2千円少々です。

2013年3月11日

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