「青髭八人目の妻」 Bluebeard's Eighth Wife

ビリー・ワイルダーチャールズ・ブラケットの脚本。オーストリア生まれのワイルダーは、当初ドイツで脚本を書いていましたが、ヒットラー台頭のためにフランスに逃れ、1934年に「悪い種子」という作品を監督し、同年ハリウッド入りし、1942年の「少佐と少女」でハリウッドでの監督デビューをするまで、脚本を書いていました。チャールズ・ブラケットと一緒に脚本を書き始めたのが1938年の「青髭八人目の妻」で、以後「ミッドナイト」「ニノチカ」「教授と美女」などを共同で書き、ワイルダーが監督になってからも脚本を共同で書いていますが、評価の高い1950年の「サンセット大通り」を最後に、なぜかコンビを解消しています。

1938年の「青髭八人目の妻」(Bluebeard's Eighth Wife)エルンスト・ルビッチ監督のパラマウント映画で、主演はクローデット・コルベールゲイリー・クーパー

ワイルダーとブラケットのコンビのおかげか、発端が抜群に面白い。アメリカの実業家ゲイリー・クーパーがパリのデパートでパジャマの上だけ半値で欲しいと言う。店員が断ると、「パジャマの上だけで寝ている男もたくさんいるのに、準備していないなんてけしからん」とクーパーが怒る。前例がないために店員はあわてる。店員が上司に聞いてみると、その上司も上司にたずねる。結局、デパートのトップの判断を仰ぐことになるが、トップはまだベットの中で、電話に出るために彼が起き上がると自分自身パジャマの上しか着ていないくせに、「上だけの販売は許さん」と電話で断る。

売り場での様子を見ていたクローデット・コルベールが「パジャマの下だけほしいので、一緒に買って、分けましょう」と提案する。男性用のパジャマの下だけを購入する女性って、堅物のクーパーでさえ興味津々。「夫のためか」とたずねると「独身だ」と答えるし、「叔父さんのためか」とたずねると「叔父さんならパイプを贈る」と答える。誰のために買ったのかはすぐに判明しますが、特にここで書くほどのことではない。

コルベールの父親は、ルビッチ作品やアステア=ロジャーズ作品でおなじみのエドワード・エベレット・ホートンで、お金がないから、娘に金持ちのクーパーとの結婚を勧め、二人は結婚することにしますが、親族が集まって結婚写真を撮影する直前になって、「以前7人の女性と結婚したことがある」とコルベールにしゃべります。クーパーは特に何とも思ってないのですが、コルベールはあきれて、結婚をとりやめにしようとしますが、父の説得で、思い直します。

二人はチェコスロバキアに新婚旅行に行きます。なぜチェコスロバキアなのかもバカバカしい理由があるのですが、めんどくさいので、ここには書きません。旅行中もケンカばかりしていたようで、帰ってからも同じホテルの同じ階で別居状態。ここから、スクリューボールコメディお得意の男女の主導権争いが始まります。クーパーが私立探偵を雇ってコルベールを見張らせると、コルベールがその私立探偵を利用してクーパーにギャフンと言わせようとするあたりもおかしいです。私立探偵は尾行をコルベールに気づかれていないと思っているのに、実はコルベールが私立探偵を尾行していて、「あんたの奥さんを泣かせたくないなら、角の店屋の娘と仲良くするのはやめなさいよ」というようなことをコルベールが私立探偵に説教して、自分の味方につけるのが最高!

尾行するといっても、トリュフォーの「夜霧の恋人たち」のように、実際のパリを舞台にしているわけでなく、セリフでわかるだけです。外の風景が出てくる場面もありますが、すべてスクリーンプロセスで処理しており、スターたちはスタジオから一歩も外に出ていないと思います。コルベールが水着姿を見せる海水浴場でさえ、そうなのです!

デビッド・ニーブンがクーパーの部下の役で出演して、三角関係にまで至らない軽い役柄なのが物足りないですが、いくつかの面白い場面でうまく使われています。ルビッチの演技指導のおかげか、クーパーはコメディ演技に奮闘していて、悪くないです。しかし、何といってもコルベールの映画で、大人の色気が悩ましい。特に大胆なシーンはないのに、桃色の雰囲気が充満し、最後は爆発しそうになるのはルビッチならでは。白黒映画ですけど。

2013年3月10日

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