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父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について ②離婚後の監護についての両親の意見が対立する場合の対応

父母の離婚後の親権制度や子の養育の在り方について、法務省が外務省に依頼して行っていた海外法制調査の取りまとめ結果と、結果の概要が先日公表されました。


これは法務省が、離婚後の親権制度や子の養育の在り方について、外務省に依頼してG20を含む海外24か国の法制 度や運用状況の基本的調査を行ったものとなります。
法務省の資料は国ごとにまとめられていますが、項目ごとに各国を比較したいと思いnoteに纏めました。

今回は以下についてまとめました。

前回はこちら


②離婚後の監護についての両親の意見が対立する場合の対応

【北米】 

第1 アメリカ(ニューヨーク州) 

両親の意見が対立する場合には,仲裁者又は調停者が調整に当たることがある。 

第2 アメリカ(ワシントンDC) 

最終的には,裁判所が子の利益の最大化の観点から決定する。 

第3 カナダ(ケベック州) 

・ 親権の行使について両親の意見が一致しない場合には、両親の一方又は 双方はその意見の対立の解決を求めて裁判所に提訴することができる (州民法第196条,第604条)。裁判所は両親の和解を奨励した上で子の最善の利益の原則に従って判断する(同法第32条、第33条、 第196条、第604条)。 

・ 裁判官は,判断の際に専門家の意見を参照することができる(州民事訴 訟法第425条以下)。 

第4 カナダ(ブリティッシュコロンビア州)

・ 監護者の間で、親権行使に関して合意をすることができない場合には、裁判所は監護者にどのように親権を付与するかについて定めることができる(州家族法第45条)。その際、裁判所は子の最善の利益に基づいて判断する(同法第37条第1項, 考慮事項は,同条第2項に列挙されている)。 

・ 監護者間で意見が対立するような場合に裁所は判断の参考にするために専門家に報告書の作成を命じることができる(同法第211条第 1項)。報告の内容は子のニーズ、子の意見等である。この場合の専門家とは、家族司法カウンセラー(family justice counsellor)※6,ソーシャルワーカー,その他裁判所によって認められた者である(同条第2項)。

※6 司法省の家族サービス部門(FJSD)に属し、家族調停者として訓練を受けている者であ る。家族司法カウンセラーは、情報提供をしたり、解決案を提示したりする。両親に対しては、サービスは無償で提供される。地域によっては両親は裁判所の審理の前に家族司法カウンセラーと面会することが義務付けられている。家族司法カウンセラーは、面会交流等に関する情報提供をし両当事者が合意に達することができるように援助をする。 この場合も両親は利用の対価を支払う必要はない。 

【中南米】 

第1 アルゼンチン

・ 両親の間で意見の相違がある場合には、その解決を求めて裁判所に訴え ることができる(民法第642条)。 

・ 両親間で意見の不一致が繰り返されるか、親権の行使を深刻に妨げる他 の原因が生じた場合には、裁判官は2年を超えない範囲内で、両親のいず れか一方に親権の全部又は一部を行使させるか、又は親権を分担させる ことができる(同条)。 

第2 ブラジル

・ 基本的には個別の紛争が生ずるたびに、家庭裁判所が具体的事情に応じて判断する方法が採られている。離婚後、家族権の共同行使に関し、両親の間で意見が対立したときは、裁判官が両親及び(家庭問題を担当する)検察官の意見を聴いて調整する。 

・ 裁判官の判断のために、専門家又はスタッフの関与が認められている。 「裁判官は父母の役割及び共同監護下における同居の期間を設定するに当たり、任意に又は検察官の要請により、父及び母と同居する時間を均等に配分することを目的として、専門家又は学際的なグループのオリエ ンテーションを参考にすることができる」(民法第1584条第3項)。 

第3 メキシコ

 メキシコ連邦民法第283条に 「離婚の裁定において子の状況が決定される。裁判官は親権に固有の権利及び義務、親権の失効・停止・制限、子の監護及び養育に関する全ての事項について裁定を行わなければならな い。裁判の過程において、いずれか一方の親から要請があった場合には家庭内暴力又は措置の必要性を正当化するあらゆる状況を回避するため、父 母双方及び子から意見を聴取した上で、上記裁定に必要な事項を収集する。 子の意見は常に優先される。いずれの事例においても,子への危険があると 判断される場合を除き,子の父母と共に過ごす権利を保護・尊重する。子の保護とは,家庭内暴力行為の回避・是正のために必要な安全,監視,治療に 関する措置を含む。」と規定されている。 

【アジア】 

第1 インド

記載なし

第2 インドネシア 

基本的に片方の親がより支配的な権限を与えられるが、最終的には全ての離婚に関する問題は裁判所によって決定される。 

第3 韓国 

協議離婚において、子の養育事項についての両親の協議の内容が子の利益に反するとされる場合は、家庭裁判所は両親に協議事項についての補正を命じることができ、両親が補正命令を受け入れない場合には、裁判所は職権で子の養育に関する事項を定めることができる(民法第837 条第3項)。また、養育に関する事項の協議が行われず、又は協議をする ことができないときには、家庭裁判所は職権又は当事者の請求により、 これらの事項を決定する(同条第4項)。 

第4 タイ

面会交流や養育費に争いがある場合には、次の二つの方法で対応を行う。
訴訟による解決 

・ 離婚時の合意又は裁判所の決定に従わない場合には、訴訟による解決を図る(上記1参照)。 親権の共同行使について、両親の意見が対立する場合には裁判所が、当事者からの申立てにより、どちらが子の利益になるのかという観点から判断を行う。 

裁判官の判断を補助するような専門家、スタッフを関与させる制度はない。 

第5 中国 

個別の紛争が生じるごとに,裁判所が具体的事情を考慮して判断する。 

第6 フィリピン

基本的には父側の意見を尊重するが,裁判所が調整するケースも存在す る。 

【欧州】 

第1 イタリア

両親が子の重要な問題について合意をすることができない場合には、いずれの親もより適切と考える措置を示して裁判官に訴えることができる (民法第316条)。 その場合には裁判官は、両親及び場合によっては子(12歳以上の子及 びそれ以下の年齢でも判断力がある年少者)の意見聴取をし子の利益と家 族の一体性のためにより有益と考える合意案を提示する。それでも両親の 合意が得られない場合には、裁判官はその事例に関して子の利益を配慮する上でより適切と考える親に決定の権限を与える。 裁判官は、決定が困難な場合には、専門的顧問を任命し、子の利益のため の特別管財人を指名することができる。 

第2 イギリス(イングランド及びウェールズ) 

・ 親権の行使について争いがある場合には、裁判所が決定をする(上記1 参照)。

 ・ 裁判官は決定の審理に際して証拠に基づく事実認定をするが、その際に証拠書類だけでなく証人尋問が行われる。証人尋問は医師や心理学 者、教育学者等の専門家証人によって行われることもある。 

子の福祉に関するサービス(子の福祉の促進、裁判所への情報提供、当 事者に対する手続に関する助言等)を提供するCAFCASS(Children and Family Court Advisory and Support Services、司法省が所管する 政府外公共機関)が子や家庭に関する手続についての助言や支援をする。 裁判所はCAFCASSの職員に対して子に関する調査及び報告を命じ、その報告内容を参考にして決定をすることもできる。 

・ なお、両親間での取決めや裁判所の決定に対して両親の一方が従わな い場合は、裁判所に対して執行命令の申立てをすることができる。執行命令に従わないと、合理的な理由を説明しない限り、法廷侮辱罪に問われ得る

第3 オランダ 

・ 両親の一方又は双方の申立てに基づき地、裁判所において決定がされる(民法第253条a)。地方裁判所は、親権の行使に関する調整をすることも可能である。具体的には子の監護及び養育義務を各親に分配すること、子の最善の利益に資する場合には一方の親との接触を一時的に禁じることなどができる(同条a第2項参照)。 

・ 裁判所は上記決定の前に、両親に和解勧試をすることも可能である。ま た和解が不可能な場合には、裁判所の職権又は両親の申立てに基づき、子の利益に反しない限り、法的な強制措置を課すか、又は裁判所の命令が 即時の効力を有する旨の決定をすることができる(同条a第5項)。

 ・ 裁判所は、子の保護のための関係機関であるCPA(Child Protection Agency)に追加の調査を求めることもできる。 

第4 スイス

・ 子の養育をめぐり両親の意見が対立し、子の幸福が脅かされる場合には 裁判所は離婚調停又は離婚判決の変更手続において、子の保護措置を講じることができる。 

・ なお、裁判所は離婚調停において決定を下す際に専門家に鑑定を求めることができる。児童保護所が担当するケースにおいても同様である。 

第5 スウェーデン

共同親権は、両親が対立せずに子に関する問題の解決に協力することを 前提としていることから、裁判所は、両親の協力能力を特に考慮しなければならない。 

・ 裁判所は、決定以前に親権、居住地及び連絡先に関する問題が適切に調 査されていることを確認しなければならない。また裁判所は社会福祉委員会に対し、必要な情報の提出の機会を与えなければならず、また、社会福祉委員会に対して調査を指示することができる。社会福祉委員会は、通常子及び親の両者と面接を実施する。

第6 スペイン 

・ 民法第156条により、以下のように定められている。 

両親の意見が一致しない場合には、両親のいずれも裁判所に訴えることができ、裁判官は、両親のいずれか一方に決定権限を付与する。 

② 両親間の意見の不一致が繰り返される場合又は親権の行使が重大に遅延される事由が存在する場合には、裁判官は、両親のいずれか一方に親権の全部又は一部の行使を認めるか、又は両親のそれぞれに行使すべき親権を分配することができる。このような措置の有効性は、裁判官 が定める期間内に限られ、また、当該期間は2年を超えることができな い。 

・ 裁判官の判断を補助するために、裁判官は「自己の権限で又は父母の 一方の要請により、適切な資質を有する専門家に対し、親権の行使の態様の適切性及び未成年の子の監護の態様に関する見解を求めることができ る。」(民法第92条第9項) 

第7 ドイツ 

・ 子にとって著しく重要な事柄について両親間で合意に至らない場合に は、家庭裁判所は、両親の一方の申立てに基づき、両親のいずれか一方に決定を委ねることができる(民法典第1628条)。この場合には、それぞれの親の子に対する権利及び義務の適切な行使のため、親の一方は他方に対して情報を要求することができる(同法第1686条)。 

・ 両親が離婚(別居)をする際は、子の将来の養育、教育、監督をいかに 保証するかについて合意しなければならないが、その際、例えば、子の居所について合意をすることができない場合には、両親は、いずれも自己に親権の全部又は一部、例えば子の居所指定権を自己に委譲するよう申し 立てることができる(同法第1671条)。この申立ては、共同親権の終了や申立人への居所指定権の委譲が子の福祉にかなうと期待される場合 に認められる(同条第1項)。

 ・ 裁判所は判断の際に、少年局から意見を聴取し、また専門家の支援を受けることができる。 少年局は子に対する保護が問題となる事案の全てにおいて家庭裁判所を支援する。少年局の使命は、子の置かれた状況の改善への寄与であり、提供可能なサービスに係る情報を提供し、子の成長のための教育的・社会 的観点を示し、また、様々な可能性を指摘する。 裁判所は、鑑定を命じることもできる(家庭事件及び非訟事件の手続に 関する法律第163条)。鑑定は適切な専門家により行われる必要があり、専門家は少なくとも心理学、心理療法、児童・少年精神学、精神学、医学、教育学、社会教育学の職業資格を有するべきものとされる。 

第8 フランス 

・ 親権行使について両親が合意しない場合には、両親の一方又は検察官は、家事事件裁判官に申立てをすることができ、裁判官は親権行使の態様について決定することができる(民法典第373-2-8条)。裁判官は、当事者を勧解させるように努めるほか(同法典第373-2-10条第 1項)両親に調停を提案し、両親の同意を得て家事調停者を指名するこ とができる(同条第2項)。

 ・ 裁判官の判断への専門家の関与としては、以下の二つが挙げられる。家 事調停者が指名された場合には、家事調停者が必要に応じて両親と面会し両親に対し調停の目的や進行について情報提供を行う(同条第3項)。 家事調停者は、両親と面会し、その議論に参加することで、両親が合意に 基づいて親権行使を行うことができるようにするための役割を担う。 裁判官は、社会調査官に対して、家族状況、生育・育成状況に関する情報を調査する社会調査を命じることができる(同法典第373-2-1 1条第5号,第373-2-12条)。社会調査官は、近隣住民や通学先 の学校に照会するなどして必要な情報収集を行う

第9 ロシア 

子の養育に関する問題を裁判所が決定する際、後見・保佐機関が裁判官の判断を補助する役割を担っている。同機関は事件に参加し、当事者の生活状況を調査し、紛争内容に関する意見を裁判所に提出する義務を負う(家族法 典第78条)(後記4も参照)。

【オセアニア】 

オーストラリア

・ 両親が子の養育について合意をすることができない場合には、裁判所は 子の最善の利益に基づいて、養育命令を発することができる(家族法第6 0CA条)。裁判所は子の最善の利益を考えるに当たって

①子を肉体 的及び精神的害悪から保護する必要性及び②両親双方と有意義な関係を 有することによる利益という二つの要素について優先的に考慮する(同 法第60CC条第2項)。 

・ 裁判所は、原則として、両親が均等に親権を有することが子の最善の利 益であるとの推定に基づかなければならないが(同法第61DA条)親による家庭内暴力や子に対する虐待があると信じるについて相当の理由がある場合は、この限りではない。 

・ 裁判所は、子にとって最も適切な判断をするために、子及び家族につい ての専門性及び経験を有するソーシャルワーカーや心理学者を、家族コ ンサルタントとして指名することができる。家族コンサルタントの中心的な仕事は、裁判所に対して報告書を提出することである。その他、家族コンサルタントは、当事者や裁判所に対して援助・助言を行ったり、裁判 所に証拠を提供したりすることができる。 

・ 裁判所はの専属弁護士(Independent Children’s Lawyer)を指名することもできる。子の専属弁護士は、子の法的な代理人ではないから、子の指示に従う必要はなく、子から独立して、子の最善の利益のために行動をする。裁判所は、子の専属弁護士の見解を重視するという。




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