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生きる#2 オカンへの敬意。

※2020年9月の話です。
刺激的な毎日の中、いろんな体験や感じたことを文字にして残してみたいと思いつつ、書いたり消したり読み直したり…を繰り返し、結局今になってしまいました。

9月はほぼ毎日のように、イノシシやその他の野生動物に向き合った1ヶ月でした。
コロナも手伝い、事業としては売上が伸び悩み、無論お金は増えない…
しかし、肉のストックはもの凄いことになった1ヶ月。笑

実りの秋、イノシシはエサを求めては人里に降りてきます。
一方、人間界も稲刈り目前。
今イノシシに入られると困るという田んぼだらけで、鳥獣被害対策にも力が入り、捕獲数は年間を通してぐっと増える時期になります。

本来イノシシは雌の方が警戒心が強く、なかなか捕まらないため、わな猟師の先輩方からは
『オンタ(雄)を捕まえて喜ぶようじゃまだまだ。メンタ(雌)が獲れてやっと一人前』
と叱咤激励をいただくことがよくあります。

それが、この9月は
『今日のは、えぇメンタだぞ〜』
と、先輩方からの連絡が立て続けに雌なので、こんなこともあるんだなーと思って向かってみると…

捕獲されたのは、お腹に胎児がいるか、ウリ坊を連れいる雌がほとんどでした。
つまり、子どもを養うために必死なオカン達。

イノシシは、一日のほぼ7割はエサを探して過ごすと言われます。
要するに、365日のほとんどが空腹状態。
『警戒心』と『食欲』を天秤にかけたとき、僅かでも『食欲』に傾いたとき、イノシシは箱わなにかかるのだそう。

子育て中のオカンは、自分も空腹状態の中で、子ども達も養わないとならんわけで…
天秤はいつも以上に『食欲(食わす欲?)』に傾くことは容易に想像できます。
警戒心の強いと言われる雌イノシシが、この時期に箱わなによくかかるのもわかる気がしました。

忘れられないのが、
雌イノシシのお腹を開けてみたら、6頭の胎児がいたときの衝撃。
普段山の中では必要のない、わたし自身の「母性」がふいに顔を出し、複雑な感情を整理できないまま、帰り道はただただ涙が溢れました。

そんな気持ちを消化・昇華させてくれたのは、子ども達でした。
無心で解体し、帰ってこのイノシシのことを子ども達にとりとめもなく話すと、捌きたての骨付き猪肉にむしゃぶりつきながら一言。

『命のバトンパスなんだね』

ああ、そうか。これでいいんだ。
と、心が軽くなったのを覚えています。

わたしも、この雌イノシシ同じく『子育て中のオカン』
子ども達を食べさせてくのに必死です。

わたしに出来ることは本当に限られていて、
まずは目の前の役割りを全うして、子ども達を養っていくこと。

『おいしい』と喜ぶ顔を思い浮かべ、自分なりに最善の方法で目の前の生き物を食べ物に変えていくこと。

そして、
小さくても、この命のエネルギーを次に繋げていくこと。

それがわたしなりの、彼女たちへの敬意だと思っています。

猟師がイノシシを獲る理由や目的は人それぞれ。
食べることだけがゴールではありません。

でも今のわたしにとって、
イノシシを解体し、料理して食べること・食べさせることは、心のバランスを保つためにも重要なプロセスなんだと感じています。

猪肉は、やっぱり美味しい!!

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