いっぱいの愛をもって(2020/10/02)

【登場人物】
黒田完治(6)(13)(22) 殿があだ名の大学生。
清川良太(22) 黒田の同級生、相棒
竹迫弘樹(23) 黒田の同級生、ライバル
相沢真弓(23) 黒田の同級生、元彼女
加賀健斗(22) 竹迫の友達
氷室圭司(24) 宮大の先輩、元ミスコン
部長(24) パソコン同好会の部長
栗原(19) 氏がないユーチューバー
大澤修二(45) SSS事務所の社長
東山彰(45) フレッシュ黒田の恩人
黒田幸彦(52) 完治の父親
黒田澄絵(52) 完治の母親
ヒロ(21) サウジアラビアの帰国子女
コネ(29) 何処のコネ?居眠りおじさん
社員(30) SSS事務所の社員
司会A(24) 宮大、ミスコンの司会者
司会B(30) グランプリの司会者
彼女(22) 加賀の彼女
【あらすじ】
黒田完治は、幼少期に活動していた彰と修二に憧れていた。嘗て、彰には実家のパン屋を救われた過去があり、密かに会いたいと思っていた。しかし彰は芸能界を引退し、隠居している為、何処にいるかわからない。そんな時、昔コンビを組んでいた修二が企画する「美男子タレント育成コンテスト」でグランプリを取る事で彰に再び会えるのでは無いかと夢を見る。大学内で、幼なじみや文化祭、後輩や先輩に囲まれ、恋人との再会、ミスコンに参加する中で様々な人間と出会い、絆を深めていく。昔好きだった幼なじみが事務所の秘書で大きな鍵を握っていたり、先輩の不祥事を逆転冤罪暴露など衝撃艇な展開を交えながら物語が進み、最後はグランプリで名前を呼ばれるも、自らの手で放棄し、元々の目標であった彰に会いに行く。彰のもとで働く夢追い人となり完結。最後まで姿を現さない彰、実は女であるというオチも必見である。
○フレッシュ黒田・玄関前
黒田完治(6歳)が、靴紐を結んでいる。同級生の子供達が、玄関前で待っている。
竹迫「との〜、もう行くけんね〜!!」
黒田「待ってえな〜、もう少しで結べるんよ」
相沢「たらたらしてたら遅刻するよ」
清川、黒田に駆け寄り紐の結び方を教える。座った拍子にリモコンを挟みテレビのチャンネルが変わる。
黒田「ありがとう、清ちゃん」
清川「いいんよ。殿、早よ行こう」
竹迫「清、あんまりバカ殿と一緒にいると、馬鹿が移っちまうぞ!置いてくかんな」
清川、竹迫に置いて行かれないように走る。
東山彰と大澤修二のデビュー会見がテレビで流れている。
竹迫「おーい、バカ殿!早く来ねえと相沢も俺が貰っちまうぞ!あいつ聞こえてるのか?」
竹迫、相沢のスカートをめくる。
相沢、悲鳴を上げて竹迫から逃げる。
相沢「カンチ!」
黒田、彰と修二の曲を食い入るように見つめる。玄関の鏡に向かって真似する。
澄絵「完治、遅刻するよ」
黒田「(我に帰って)行って来ます!」
黒田、走って同級生に追いつく。

○道路(夕)
黒田(22歳)、自転車を漕ぐ。
黒田N「無我夢中に走る男、これが今の俺」

○大学・屋上
黒田と清川、大の字に寝そべる。
黒田、サンドウィッチを食いちぎる。
黒田「(口のものを入れながら)ん?何急に」
清川「将来の話。俺らぐらいだよ、この時期に何も考えてないの」
黒田、サンドウィッチを眺めて、食べる。
黒田「今は家を手伝っているけど、一生あの家でパンをこねる気はない。パンには罪は無いけど、この大学へ入ったからには活かせる所がいい」
清川「それで、広告業界蹴ったわけ。御最もな理由だこと」
黒田「もうその話いいって」
黒田、清川と反対の方へ寝返りを打つ。
清川「殿って高校の時から勉強得意なのに、人生の計画性は乏しいんだよなあ」
黒田「次は勉強以外でトップ獲りてえ」
清川「雑だなあ」
黒川N「で、この適当なことをほざいてんのが一年前の俺。これは、一意専心の話。つまり信念を大事にする物語」

○同・階段
黒田「じゃあ聞くけど清ちゃんはどうなのさ」
清川「なにさ。公認心理士はなる気はなくなったさ」
黒田「将来設計、人のこと言えねーじゃんか」
黒田、SSS事務所のポスターを通り過ぎた後、立ち止まる。
T「美男子タレント育成コンテスト」
清川「僕は殿と大学も同じになったからには、旅は道連れ世は情け状態だと密かに思っとるんよ」
清川、振り返る。
黒田、何か閃いた表情。
黒田「(囁き)凄いこと思いついちゃった!」
清川「って、全然話聞いてねえ!僕に興味なさすぎか」
黒田「俺が次これでトップ獲りてぇって言ったら、どうする?」
清川、黒田が見つめるポスターを覗き込む。

○フレッシュ黒田・店内
幸彦「お、清くん久々だね」
清川「お邪魔してます」
黒田、階段から降りてくる。
黒田「母ちゃんは?」
幸彦「さ、スーパー行ったっきり。近所で井戸端会議でもしてるよ。今日は何食べる?」
清川「じゃあ、いつもので」
黒田「俺も」
幸彦「はいはい、裏メニューね」
幸彦、カウンターへ行く。
黒田「と言う名の試作品、あんま期待すんな。…じゃあ、作戦会議始めますか。あのコンテストに勝つにはどうしたらいいかな?」
清川「え、顔?殿の顔は、そこまで悪くはないと思うけど、整ってるし」
黒田「チッチッチ、そんなわけなかろうもん。父ちゃん、何でこの店30年続いてるの?」
幸彦、カウンターから顔を出す。
幸彦「お客様のおかげかな」
黒田「そう、愛されるには大事なことがある。選ばれるよりも選ぶ側になること。うちは単に客にヘイコラしてるから今も続いてる訳じゃない。父ちゃんの創作意欲あってからこそのフレッシュだ」
幸彦「泣けてくる、これでうちは安泰じゃ」
清川、幸彦に合わせて頷く。
黒田「(食い気味で)父ちゃんは、奥行ってて」
幸彦、拗ねてカウンターへ入る。
黒田「まずはこれに出る」
黒田、清川にスマホを見せる。
清川「Mr.宮大& Ms .宮大コンテスト!?」
一次審査受付中の文字。
清川「うちの宮本之大学のミスコンに参加するってこと?」
黒田「おうよ、といってもミスターの方ね」
清川「分かってるよ!」
黒田「うちの大学はそんなにミスコン自体は有名ではないが、これで結果を出せばSSS事務所コンテストに少しは足かせになるだろうよ、くっくっく…、がははは。此処掘れワンワンと鼻がひくひくしてやがる」
黒田、人目を気にせず高笑いをする
清川「(心配そうに)……」
加賀、恋人と一緒に店の端で竹迫と電話する。

○大学・廊下
ミスコン二次審査面接当日。
清川と黒田、ベンチに座っている。
清川「一次審査の写真は余裕よ」
黒田「つか、なんで清ちゃんも居るんだよ」
清川「一応、影武者的な?」
黒田「影武者は表に出ねえんだよ」
黒田の方へ向かってくる、竹迫。
竹迫「これはこれは、パン酵母殿ではないか」
加賀、後ろに隠れている。
黒田「……竹迫」
竹迫と黒田、額を擦り付け眼を飛ばし合う。
竹迫「お前はいつも嫌なタイミングに出てくるな、目障りなんだよ」
黒田「こっちのセリフだよ、高校の時から学力も俺に負けてたくせに。それの腹いせで、俺の周りをうろちょろしてんじゃねーよ」
竹迫「腹いせ?ま、負けていた?お前など眼中にもないわ、名前すら覚えてないね。確か白田?いや」
黒田「ごちゃごちゃうるさいな、たけさこ!」
竹迫「言っとくが、私の名前は竹ザコだ!ザコ!さあ言ってみろ!竹迫Repeat after me」
黒田「……お前と喋ると小物臭がするんだよ」
竹迫「なに!?」
竹迫、自分の体臭を確認する。
黒田「行くぞ、清。(振り返って)言っとくが、俺は女にモテるためにコンテストに出る訳じゃない。あと、今の俺はあの頃の俺じゃないから」
黒田、待合室に向かって歩いていく。
清川、加賀の腕についているミスコン実行委員の腕章に見た後、黒田に着いて行く。
竹迫「俺、臭うか?」
加賀、首を傾げながらも図星の表情。

○同・トイレ前
T「ミスコン二次審査結果発表日12:00」
清川「(腕時計を見て)結果発表だな」
黒田「余裕だろ。今頃、竹迫は頭を抑えてジーザスとでも叫んでいることだろう」
スマホで結果を確認する、清川。
清川「嘘」
ドアから瞬時に出て清川のスマホの画面を確認する黒田。
清川・黒田「(カメラ目線で)ジーザス!!」

○同・廊下
早足で歩く黒田に着いていく、清川。
T「黒田様、二次審査ご参加頂き大変有難いのですが誠に残念ながら今回の結果は……」
黒田「(振り返って)なんで俺は御祈りメールで、清はなぜ合格なんだ!!」
T「清川良太様、二次審査合格」
清川、はにかむ。
黒田、早足で遠くへ行く。
清川「(追いかけて)待って、殿!」

○フレッシュ黒田・玄関前
黒田、早足で店内へ入る。
ヘトヘトになりながらも追いかける清川。
清川「ねえ…!殿、怒ってんの?」
黒田「怒ってない!」

○フレッシュ黒田・店内
黒田、いつもの席に座る。
過呼吸で出口前でしゃがみ込む清川。
清川、幸彦に会釈する。
幸彦、清川に「いつものね」と口パクで合図する。
手をポケットに突っ込んでオレンジジュースを飲む、竹迫。
竹迫「また会いましたねえ、バカ殿くん。見る限り大変不機嫌のようで」
黒田「今お前に構っている精神状態じゃない」
竹迫「そんなに悔しいんですか、私に負けたことが」
黒田「はあ!?」
加賀、黒田に携帯のスマホ画面を見せる。
T「竹迫様、二次審査合格」
黒田「俺が落ちて、たけさこが合格だと……」
黒田、頭を抱えて絶叫しながら店を飛び出す。
竹迫「(外の黒田に向かって)竹ザコだ!」
幸彦「(清川の前にセットを持って)お待たせ、いつものね(見回して)あれ、完治は」
清川、黒田を追いかけて店を出る。
清川「(戻って)やっぱセットいりません!」
竹迫「(足を組んで)全く落ち込んだり怒ったり忙しい奴だな(パンに齧り付く)」
幸彦「(走る黒田を眺めて)青春だねえ」
澄絵「なにぼーっとしてんの」
澄絵、幸彦の肩を軽く叩く。

○フレッシュ黒田・玄関前
黒田、全速力で坂道を叫びながら走る。
さらにヘトヘトになって追いかける清川。

○浜辺
黒田「(海に向かって)くっそおおおお!おれは、この星のトップになりてえの、俺は、そんだけ!」
黒田、階段に座り込んで俯く。
清川「…そんだけ?」
黒田「清だって、影武者じゃなくてミスコン審査の工作員になるとか、サーバーをクラッキングとか、考えれば色々あっただろ…」
清川「ふざけるな!!呆れた…」
清川、黒田を置いて去る。黒田、暫く座り込んだままフェードアウト。

○フレッシュ黒田・店内
黒田、エプロンを着て店で働いている。
黒田、机を拭き、手を止めて外を眺める。
幸彦「どうした、遠く眺めて。清君と何かあったか」
黒田「……親父、教えてくれ」

○(回想)黒田家・和室
黒田(13歳)、幸彦に土下座している。
黒田「父ちゃん、俺にパンの作り方、教えて下さい」
幸彦「……お前に教えるもんはない」
和室を出ていく、幸彦。
黒田「父ちゃんは仕方ないって言うけど、僕は……僕は……」
泣きじゃくる黒田を慰める澄絵。
和室の扉の外で俯く幸彦。
カレンダーに“立ち退き・閉店”の文字。

○フレッシュ黒田・店内
黒田「作り方」
幸彦、目を潤ませて微笑み、頷く。

○大学・教室
T「パソコン同好会、会員求ム」
黒田、教室へ資料を運び、部長と喋る。
清川、教室の扉からこっそり覗く。
竹迫「噂によると仲間割れしたそうだな、こっちに着いてもいいんんだぞ」
清川、竹迫を睨むも無言で何処かへ行く。
竹迫「これが世に言うぐうの音も出ないと言う奴か。今年の文化祭、俺がミスコンだ!」

○フレッシュ黒田・キッチン
幸彦「ただ闇雲にアイディアを具現化してるわけじゃない。お客様を笑顔にしたいというモットーと愛を胸にパンをこねる、焼く。その一つ一つの動作に丹精を込めることで、客に愛が伝わるんだ」
黒田「……モットーと愛を胸に」

○黒田家・完治の部屋
夜中まで資料をまとめている黒田。
部屋の外に出ている紙を拾う澄絵。紙にパンのアイディアやコツが書いてある。黒田に陰ながらエールを送る。
部屋に文化祭まであと2週間の文字。

○フレッシュ黒田・店内
相沢、地図を持って店に入る。
黒田「いっしゃいま……(相沢に気付く)」
相沢、思いがけない表情。
黒田「どしたの、(席を用意)ここ座って」
相沢「懐かしいな。この店、変わらない」
黒田「久しぶり、最近何やってんの、相沢は」
相沢「普通に就職して、うまくやってる。そういう黒田くんは?なんかあった?」
黒田「(照れ臭そうに笑って)黒田くん……」
相沢「なに、可笑しい?」
黒田「昔はカンチって呼んでくれてたのになって」
相沢「(苦笑いしながら)…昔みたいにはいかないからね」
黒田「え?」
相沢「なんでもない」
黒田「俺は今この店の手伝いしてるよ。何か頼む?」
黒田、相沢と楽しげに会話した後見送る。

○大学校内
文化祭当日。黒田と清川、出店でパン売る。一瞬画面が一時停止し、逆再生する。

○(回想)浜辺
清川「ふざけんな!呆れた、殿が海行くかって言うから、江の島まで来たのに、何だそれ。男二人で海見に行くなんて寂しい事はない…」
黒田「…旅は道連れ世は情け、なんだろ?」
清川「(ため息混じりに)そうだった。僕も着いていくよ、殿。プランは?」
黒田「とっておきのがある」
黒田、電話する。

○クラブ・外(夜)回想
黒田「たのもー!!」
清川「……人生初だよ。こういうの」
黒田「緊張すんなって、アポ取ってんだから」
黒田、入り口前の階段を駆け上がる。
黒田「(振り返って)ちなみに俺、帰国子女の設定だから!」
清川「はあ!?」

○クラブ・店内の個室
黒田「Hi,日差しぶりですネ、今日はニコラスにお友達紹介しますぅ!」
清川N「僕はミスコン辞退したほうがいい?」
黒田N「いや」
清川「は、はじめまして。清川良太です」
黒田N「清ちゃんをミスコン優勝候補者として紹介する」
氷室「友達?はじめまして、氷室圭司だ。宜しくな」
清川「あ、だからニコラス」
氷室、清川と握手する。
清川N「まさかこの人って……」
黒田N「そう、去年のミスコン王者」
氷室「お前のとこには世話になってるからな」
清川、遠くの方で何かを取引しているのを見て、黒田を怪しげに睨む。
黒田N「当時は散々持ち上げられて裏では芸能界デビューも控えていたが事務所で不祥事を起こし、今じゃクラブに入り浸りニート状態。世間にも忘れられ、今に至る」
黒田、包紙を取り出し、氷室に紙袋を渡す。
清川M「ま、まさかお前……それって!」
紙袋に“フレッシュ!黒田のいつもおいしいフルーツサンドウィッチ”の文字
黒田、企んだ顔。

○大学・中庭
清川「そろそろ文化祭だけど」
黒田「文化祭を利用してSSS事務所企画オーディションの武器を作る」
清川「だからミスコン参加したんだろ?でも」
黒田「何もオーディションの一次審査にミスコン経歴は必須じゃない。幸い、ビデオ審査だ。実績をそこで表現するしかない」
清川「報道サークルで紹介してもらう?」
黒田「いいや」
清川「じゃあ、音楽系?ダンスサークルとか軽音部とか……」
文化祭の出し物を練習する学生を横切る黒田と清川。
黒田「違う、違う。師匠の言葉覚えてるか」

○(回想)クラブ・店内
氷室「(サンドウィッチを食べながら)その一、ファンをたくさん作れ!」
清川と黒田、ホワイトボードの前に正座する。
氷室「最初はただの好きが、ゆくゆくは愛になりやがて情に変わる。ここまで行くためには手間と時間が掛かる。その為の登竜門を作ってあげなければならない。いわばお客さんのために階段をスロープにするんだ」
清川「意外と真面な事言ってる」

○大学・中庭
清川「確か、ファンをつくる、だっけ」
黒田「今回の文化祭でうちのパン屋を出張版で出そうと思っている。ただのパン屋じゃない。それには準備が必要だ」

○大学・教室
清川「ここは?」
黒田「パソコン同好会。部長はエンジンプログラマーを目指してて……」
部長「黒田ち、頼まれてたの粗方出来たよん」
清川「どういう知り合い?」
黒田「さすが部長、はいこれ」
黒田、フレッシュ黒田のランチBOXを渡す。
清川「ここでも手懐けてるのか」
部長「このソフトがあれば、簡単に個人の時間割、年間スケジュール、レジュメ、校内の講演会やイベントが見れたり、サークルの広告や活動の記事や動画を載せたりできる。便利だねえ」
黒田「仕事早いね、相当大変だったでしょ」
部長、ランチBOXのフライドポテトを食べる。
部長「(食べながら)そ、それほどでも」
清川、部長のふけを気にする。
清川「(黒田に)一応、先輩すよね」
部長「(頭をかきながら)こう見えて留年してるからね、でへへ」
黒田「部長、大学周辺で学生割引を使える店をマップ使って掲載できたりする?」
清川「どうせ、自分の店の宣伝でしょ」
栗原「(後ろから)若者向けっすね」
清川・黒田「うあ!びっくりした!!」
栗原「(不気味に)ふっ…。ダウンロード数伸びますよ。きっと」
部長「オッケー!任せとき!」
清川「能天気な部長と逆にこの男は誰です?」
栗原、会釈してからランチBOXを摘む。
部長「うちのメンバー。てかこの部、ここに居る二人しかいないんだけどね!」
栗原、パソコンに向かって作業している。
画面に映るギターを弾く栗原を覗き込む黒田と清川。
部長「彼、何気にユーチューバーなんだよん」
栗原「ふっ、氏がないシンガーソングライターですよ」
T「チャンネル登録者数:284人」
黒田「面白くなって来た!ほんとにいいものに周りの支持する数なんて関係ない。(栗原の肩を叩き)俺に一曲作ってよ」
清川「え!?」
栗原「……ふっ、いいっすよ。頑張ります」
黒田「よっしゃ、試しに部長が作ったソフトに動画あげてみるか!えっと」
栗原「栗原です」
黒田「よし、栗原君。文化祭で俺がプロデュースするから」
部長「黒田ち、大学と掛け合ってゆくゆくは大学公式アプリにしたいと思ってるんだけど」
黒田「そこは、清川に任せて(肩を叩く)」
清川「え、俺!?」

○(回想)黒田家・完治の部屋
夜中まで資料をまとめている黒田。
澄絵、部屋の外に出ている紙を拾い、黒田に陰ながらエールを送る。

○大学・校内
学生達がスマホを持って、アプリの話をする。順調にダウンロード数が順調に上がり栗原作曲のMV視聴数も増加する。
加賀、携帯の着信音が鳴りチェックする。

○生徒会室
清川「加賀くん、もしかして君は応援団長だから、ミスコン実行委員の特別審査員に選ばれたんじゃない?そして、竹迫に票を入れ八百長をした。このことが彼女にバレたらどうする?」
加賀「……昔から竹迫の言うことに逆らえないんだ。彼女に言うのだけは辞めてくれ。大学デビューして、初めてできた恋人なんだ!お願いだ!」
清川「わかった。その代わり一つ約束して欲しいことがある。実は大学に掛け合って欲しいことがある……」

○同・中庭
文化祭当日。黒田と清川、出店でパンを売る。学生達、アプリの割引を使う。大盛況で客にチラシを配る栗原。奥でパソコンを弄る部長。
部長「(パソコンを持ち上げて)ダウンロード、現時点で全学生の約六割超えたよ!」
清川「なんかあそこまでやると気の毒だよ」
黒田「気にすんなって。清ちゃん、クラブの氷室師匠になんて言われたか覚えてるか」
清川「たしか……」
氷室N「その二、はじめに親しみやすいキャラを固定しろ。このスロープは強力だ」
黒田「そう、キャラ固定。師匠はミスコンで名が通るから苦労しなかったけど、俺は無名だから何か引っかかるものを作らないと、すぐに忘れられてしまうって話」
清川「なんとなく気付いてたけど、まさかあれ使うの?インパクトすごいね」
清川、奥にある兎の着ぐるみを指差す。
清川「……なんで、そこまでSSS事務所のオーディションにこだわるの」
黒田「他にも理由はあるけど、師匠が問題を起こした事務所は実はSSS事務所なんだ。だから、今のSSS事務所は右肩下がり」
栗原「……倍率の話ですか」
清川「うあ!びっくりした」
黒田「もう、首に鈴つけとけ!」
竹迫「黒田君、ミスコン駄目なら親のスネかい。このクーパン使って、カレーパン一つ」
清川「あれ、今日はいつも後ろにいる加賀くんはいないんですね」
清川、カレーパンを紙袋に入れる。
竹迫「清川くん……、なんでここに」
黒田「それより清ちゃんミスコンの時間は?」
清川「やべ、行ってくる」
清川、エプロンを外し舞台へ向かって走る。
竹迫「(腕時計を見て)あ、待って!(追いかける)」
黒田「そろそろ、俺らも準備しますか!」
栗原、ギターを抱え不気味に笑う。
部長「(肩に手を当て)緊張しないで栗原クン!」
黒田「部長、カレーパン勝手に食べないで」
部長、反省したと様子で口に入れかけたパンを戻す。

○同・舞台
司会A「てなわけで、今回のミスコン優勝者は竹迫勇気さんです!一言お願いします!」
竹迫「やったー!(腕を上げる)」
加賀、審査員席で申し訳なそうにしている。
司会A「準優勝は、清川良太さんです!あれ、もう時間?おっと少し押しているようですので此処ら辺で発表は後ほど。続きまして今回のサプライズ企画、話題のアプリで最近有名になった、うちの大学のアーティストのあの方がトリを務めていただきます!」
竹迫「トリだぁ?」
清川と加賀、目を合わせて頷く。
清川、上手にスタンバイしている着ぐるみを着た黒田と栗原に合図を送る。
黒田「いよいよ本番か」
部長「(走ってくる)はぁ、はぁ、間に合った。これ、パソコン忘れてたよ。栗原くんの音源、書き出し終わったみたい」
黒田「部長ナイス〜。ギリギリまで有難うね、栗原君。俺の我儘に付き合って貰ちゃって」
栗原「あの時、数なんて関係ないって言ってくれた事、すごく励みになりました。一緒に成功させましょう(涙ぐむ)」
黒田、栗原の肩を叩き、兎の頭を被る。
黒田「部長、ちゃんとビデオ撮っといてよ」
部長、親指を立てる。下手へはけた清川、二人にガッツポーズを送る。
黒田と栗原、舞台へ飛び出す。
清川N「仲間共に学校の為のソフトを開発し、文化祭では父から学んだカレーパン200個を完売させた」
ぬいぐるみ姿で踊る黒田が映る。
途中、文化祭やフレッシュで働いてる時、部屋で計画している時の映像が流れる。
清川N「その後、文化祭の出し物で仲間と制作した曲を披露。途中困難もあったが、部長のアシスタントにより見事成功。やり切った黒田に対し、今日振り返ってどう思ったのか尋ねてみた」
黒田、出待ちしているファンに囲まれ、一人ひとりに握手する。
黒田「今回の出店で、僕に興味を持ってくれた人がいたみたいで、恐れ多いです。でも俺は日常でエンターテイメントを大事にしたくて。仲間がなければ成功していませんよ」
清川N「因みに今回開催されたミスコンの王者が手に持っていたのは、黒田が作ったカレーパンだった。誰にでも虜にしてしまうその魅力は、幼い頃から鍛え抜かれた胃袋を掴む腕も関係があるのかもしれない」
司会「一言お願いします!」
竹迫「やったー!(腕を上げる)」
竹迫、掲げた手の先にカレーパンを握りしめている。
T「エントリーナンバー2856黒田完治、編集:栗原」
一瞬画面が一時停止する。

○SSS事務所・会議室
映像を一時停止する、相沢。
大澤「この男は調べたんだよな」
相沢「……はい、一応行きました。社長」
社員「どんなやつだったか?」
相沢「実家はパン屋で本当に働いていました…。頼もしい方だと思います」
大澤「敏腕秘書の君が言うなら間違い無いな」
社員「しかし、うちの新人を決めるにはまだ早いかと」
大澤「分かっている。じゃあ次のビデオを再生してくれ」
黒田N「こう言うオーディションは、シンデレラストーリーが好きって決まってんだよ。特にあの事務所は」

○フレッシュ黒田・出入り口前
清川「そういえば、知ってるか。この事務所には若手ながらもやり手の秘書がいるって」
黒田「へー、だから?」
清川「社長の指示で本人に抜き打ちで接触しに来てるらしい。しかも、その秘書の意見の殆どが通る程、社長のお気に入りだとか」
黒田「やべぇじゃん。…俺会ってたのか?」
清川「心当たりがあるなら、その秘書をこっちにつけないと、気分次第で撥ねられるぞ」
黒田「(蹲み込んで)…マジか全然思い出せねぇ!」
黒田、電話がなる。
黒田「(電話を取って)はい、もしもし」
社員の声「SSS事務所の者です。黒田完治様のお電話で間違い無いでしょうか?来週の火曜のご予定はありますか?朝9時にサウザンホテルにお越しください、後程詳細…」
黒田と清川、顔を合わせる。

○サウザンホテル・廊下
黒田「ついに来たぞ、二次審査。ミスコンの時と訳が違うね、清ちゃん」
清川「ね。……で、なんで僕は此処の清掃員になってるわけ」
黒田「面接、お疲れ様です。採用、おめでとうございます」
清川「殿が此処で働けって言ったんだろ!ちょっと前までミスコン2位でウハウハだったのに今じゃ肉体労働。此処一ヶ月で波乱万丈すぎやしないか。で、僕は此処では何すりゃいいの?」
黒田「やることは単純。俺はこの会場で演技課題。実際は、次のライバルを見極めるって内容。ざっと通過人数は二百人。清ちゃんは、SSS事務所社員のカバンから今後の審査基準の資料を持ってくること」
清川「俺の仕事、責任重くない?下手したらお縄だよ」
黒田「大丈夫、ただのアンケート用紙みたいなものだから」
清川「ほんとかよ……」
遠くから歩いて来る、相沢。黒田に気付きUターンして小走りで柱に隠れる。
黒田、後ろ姿の相沢に気づく。
黒田「あの人、最近どっかで見たような」
清川「え?誰?まさか、敏腕秘書!?って、いないじゃん誰も」
黒田「(見失って)あれ!?さっきまでそこにいたんだよ」
相沢、安堵のため息をする。

○同・待合室
黒田、何人かと話しメモを取る。後ろから現れる竹迫。
竹迫「おい黒田!」
黒田「!?」
竹迫「聞いてねえぞ!此処のオーディション出るんて」
黒田、逃げる。
竹迫「おい待て!」
黒田を追いかける竹迫、何度か振り向きながら走る黒田。

○同・会場内
休憩時間中、関係者以外立ち入り禁止の荷物置き場で荷物を漁る清川。
審査席から外れた端にあるパイプ椅子に女物の鞄が置き忘れている。清川、鞄を覗くと資料が入ったケースを見つける。資料を出し、内容を見て驚く清川。
会場の外からSSS事務所の社長と審査員が遠くから歩いて来る音が聞こえる。
時間を確認しながら、写真を撮る清川。

○同・待合室
黒田「(握手しようと)はじめまして」
ヒロ、黒田の頬にキスをする。
ヒロ「アッサラーム・アライクム」
黒田「何語!?」
色々な人に声をかける黒田。ブランドものので身を固めた小太りの男を見る。
黒田、メモ帳に“コネ?”の文字を書く。

○同・会場内
会場の扉を開ける社員。扉から帽子を深く被り掃除機材を押して出て来る清川。
社員へ軽く会釈して去る。
相沢、清川を見るも気づかない。

○フレッシュ黒田・店内
黒田と清川のお互いのプリントアウトした資料が机に置いてある。
清川「……で、どうだったの」
黒田「んー、やれるだけやった。敵はコネもいれば実力派もいる」
清川「(手帳を見て)この日付、殿の名前?勢いで手帳も持って来ちゃったんだけど」
手帳の日付に番号と黒田の文字。
黒田「(資料を見て)次は人柄審査、か」
清川「いよいよ、美人敏腕秘書と直接対決?」
黒田「……もし当日噂の秘書がいたら、ちゃんと手帳返しておけよ」
清川「それこそバレたらお縄だよ!」

○レストラン『ラ・フィーユ』・店内
黒田、緊張した様子で座っている。
黒田が座る席へ近づく、相沢。
相沢「お待たせ、待った?仕事がバタついて」
黒田「ううん、大丈夫。ここ高そうなお店だね、俺の店でも大丈夫だったのに」
相沢「カジュアルフレンチだよ」
黒田「慣れてなくて……」
相沢「久々のデートなんだから」
黒田、相沢の腕を掴む。
黒田「お前がSSS事務所の秘書、なんだろ?」
相沢と目を合わせる黒田。
相沢「……なんのこと?」
黒田「大体察しは付いていたんだ。急に相沢が来たあの日、この手帳に印がついていた。無理を言えば、他の人に代わって貰う事も出来ただろ」
黒田、机の上に手帳を出す。
相沢「変わんないね、せっかく準備万端なのに本人に聞いちゃうなんて。さっきも見てたよ、その腕時計」

○(回想)同・店内
紙袋が黒田の足元に向かってスライドする。電話をしながら紙袋を拾う、黒田。紙袋から手帳と大澤ブランドの文字が入った腕時計を確認する。カウンターにいる清川、黒田に親指を立てる。それを見て小さく頷く黒田。

○同・店内
相沢「清川くんが用意したんでしょ。プライベート審査の意味ないね。なんとなくバレてる気もしてた。ばれたかったのかもしれない。今日は相手が私で助かったね。カンチの人柄は、十分過ぎる位把握してるから」
ウエイトレス姿の清川、話に入って来る。
清川「それって」
相沢「次の審査は社長が出るわ。特技披露だけど、カンチは歌わないんでしょ?」
黒田「SSS事務所はなりたいものになれないところじゃないだろ?俳優を目指してアイドルで売り出す事務所になって欲しくない。その気持ちは変わらないよ」
清川「なにそれ、二人昔付き合ってたの?」
清川、お客様に呼ばれその場から離れる。
黒田「見送るよ」
相沢「大丈夫そこに車止めてるから。またね」
清川、後ろで接客に追われている。
黒田「……相沢。……またデートしような」
相沢「(振り返らずに)……さあ、どうかな。(振り返って)私が協力できるのはここまで」
黒田「大丈夫だ、安心しろ。俺は昔の俺じゃない。相沢!ありがとな」
相沢に大きくサインを送る、黒田。
相沢、微笑んで車に乗り込む。車内で涙を浮かべ、黒田に手を振り返そうとするが、やめる。

○フレッシュ黒田・店内
黒田、積まれた本に囲まれ、アラビア語を勉強している。清川、店内に入って来る。
清川「ただいま〜。まだ起きてたの」
黒田「(パソコンを見たまま)おっす、おっす。清ちゃーん、お疲れ〜」
清川「さっきのなんだったの?相沢との会話、って聞いてねえ!(本の山を見て)何これ、次の敵人対策?」
黒田「スター性審査という名の特技披露なんだって。敵の情報は有効に使うべきだろ?」
黒田、ヒロ・コネ・竹迫等のプロフィールを眺める。
清川「(覗き込んで)これが次の審査合格する目星をつけてるライバル?」
黒田「サヒーホン!(その通り)特にこの帰国子女とコネがぷんぷん匂う」

○SSS事務所・廊下
黒田「(独り言のように)これを合格したら」
竹迫「お前が望むトップだな」
黒田「ああ。(竹迫に気付き)お前かよ!」
竹迫「お前で悪かったな。俺もまさか前回の演技審査で合格するとは思ってなかったから驚きだ」
黒田「もういいよ、俺のこと好きすぎかよ。お腹いっぱいだよ」
竹迫「またまた〜(肘を押して)このこの〜」
黒田「何そのテンション、つーか前回の演技審査の後に人柄審査してるし」
竹迫「うっそ、いつ!?通りで誰かに見られてたような気がしたわけだ。野生の感ってやつ?(黒田の肩に手を当て)そういや、ここの事務所の社長、うちの宮本之大学出身らしいな。だからミスコンの俺がここまで」
黒田「(不機嫌に)知ってるよ、それくらい。彰と修二の出身校だから宮大を進学先にしたんだから」
立ち上がる黒田。
竹迫「頑張れよ黒田!お前の夢叶うといいな」

○SSS事務所・レッスン室
白い部屋でダンスや、歌を歌うメンバー達。
黒田、簡単な料理を振る舞い、審査員を唸らせる。ヒロがアラビア語をある程度話した時、黒田が手を挙げる。
黒田「アへッブキ、フィ・セッハトクム!私もアラビア語を話せます。それ以外にも…」
ヒロ「サウジアラビアにはこんなことわざがあります。“目的地にたどり着きたければ最高のラクダを手に入れろ”私が御社のポラリスになれたら光栄です」
黒田「ことわざ!?」
大澤、拍手をすると釣られて相沢、周りの社員も拍手をする。コネ、拍手の音で居眠りから目を覚ます。部屋からメンバーが退場し、大澤・社員・相沢が残る。
大澤「自分で御社の御社のポラリスになりたいとか言っちゃうのは無いわ」

○フレッシュ黒田・店内
黒田「完全に終わった……」
清川「緊張した?」
黒田「(鼻で笑い)まさか?……嘘、緊張した〜〜!だってあの大澤修二だよ?本物だった。テンパって気の利いた一言も言えなかった」
清川「ありゃ運だな」
黒田「何処から見てたの!潜入スキル極めすぎ」
清川「(スマホを見せて)下旬にライブ中継で結果発表するらしい」

○会場・待合室
結果発表当日、生中継が始まる中メンバーが待合室で名前を呼ばれるのを待機している。審査員の紹介が聞こえる途中で待合室に来る、氷室。
清川「氷室師匠!」
氷室「黒田に呼ばれてな。望みを叶えるって」
司会B「今年のSSS事務所企画、美男子タレント育成コンテストのグランプリは」
氷室「黒田は?」
氷室、黒田の番号を持っている清川に気づく。清川、氷室を舞台会場の上手へ連れて行きプレートを付け替えると、思いっきり舞台へ押し出す。
司会B「エントリーナンバー2856黒田完治さんです!こちらに……」
氷室に気付き、会場の空気が騒つく。モニターに不祥事の画像を流す、栗原と部長。遠くから氷室に合図する、黒田。大澤、警備員を呼ぼうとするが、相沢がいなことに気づく。席に辞職願がある。
氷室「黒田、望みってそういうことかよ」

○(回想)クラブ・店内
氷室「最後に一番大事なことはなんだかわかるか。その三、自分がやりたいことは自信を持ってやれ。自分を信じて進むべき道を進むんだ。自分を見失わないように。この世界は最大の敵が我ではなく、最大の味方が自分なんだ。世間は酷く言うが、俺は間違ったことはしていないつもりだ。だが、まだ俺はできていない」
黒田「師匠、俺は信じます」
黒田、氷室を抱きしめる。
氷室「(泣きながら)信じてくれるのか、黒田」

○会場・舞台
氷室「俺はSSS事務所の社長、大澤修二にはめられた。本当は憧れた、かつての東山と大澤のようにこの事務所でデビューするはずだった!しかし、俺の彼女は大澤社長の隠し子で、事務所の若手よりも親のエゴを優先し、週刊誌に俺ありもしない不祥事をでっち上げたんだ!」
大澤「何を言ってるんだ!やめろ!中継も中止だ!今すぐカメラを止めろ!」
黒田、会場を抜け、自転車で走り出す。

○道路(夕)
夕陽と海が脇に見える道路を駆ける、黒田。
黒田N「これは、一意専心の話。つまり信念を大事にする物語。何が言いたいかって言うと、うるさいくらいの愛を持っていれば、いつか自分にこだわりという名の愛着が返ってくる。俺の人生は思い返すと行動力が全てでできている人生だ。俺は何かを目指さないと壊れてしまう生き物なのかもしれない。人間の探究心は無限だ。逆境も、窮屈な世界も、臆病者な心も、夢に向かう人を止めることは出来ない。一度決めた信念を貫く相棒、久々にあっても力を貸してくれる仲間、些細な言葉に勇気づけられる後輩、モットーを胸に報われなくてもぶれない熱い先輩、愛が溢れる大切な家族、今の俺を作ったスター。どれも、俺にはもったいない環境を与えてくれたお陰で今の自分がいるんだ」
それぞれの当てはまる回想シーンが入る。

○(回想)レストラン『ラ・フィーユ』店内
清川、黒田と電話している。
清川「俺をなんだと思ってんだ。一日中敏腕が来るかと側に居たけど、それらしき人いなかった。それより、審査のチェック表に書いてあったSSS事務所社長の大澤ブランドの腕時計手に入れれたぞ!作戦通り手帳はバレないように敏腕の鞄に返すから」
清川、黒田に紙袋をスライドしようとする。
黒田「‥いや俺が渡す。誰か検討はついてる」
清川N「あの時、既に殿は結末を知っていたのかもしれない。いや、最初のポスターを見た時から子供の頃のスターに会えると思っていたのかもしれない」

○クラブ・裏口
黒田、見知らぬ携帯を取り出す。
清川「(携帯を見て)それ、まさか」

○(回想)クラブ・店内
黒田「師匠、俺は信じます」
黒田、氷室を抱きしめる。
氷室「信じてくれるのか、黒田」
黒田、氷室のポケットから携帯を取り出す。

○クラブ・裏口
黒田「芸能活動すると携帯に二つ持ちがざらにあるんだ。拾いましたと言えば感謝もされて一石二鳥」
清川「スーパー謎理論だな」
黒田「(連絡先を見て)東山彰って知ってるか?」
清川「昔、大澤と組んでた俳優だろ。今は名前も聞かないけど、殿は昔からスターって呼んでたよな」
黒田「そう、嘗て俺のパン屋、いや町ごとを救ってくれた憧れのヒーロー。噂では元コンビの大澤のSSS事務所で干された俳優に仕事を与えてるらしい」
清川「もしかして、俺らの街を復興してから何十年も探してたのか」
黒田「手がかりがないままだったけど、こんな近くに東山彰の知り合いがいたとはな」
黒田、清川に東山の連絡先を見せる。

○道路(朝)
黒田、自転車を漕ぐが相沢を見つけ降りる。
相沢「(遠くから手を振り)カンチー!!」
黒田「(振り返して)相沢―!会場はー?」
相沢、黒田に飛びつき、ハグをする。
相沢「来ちゃった」
黒田「なんか、いまの相沢懐かしい気がする」
相沢、黒田にキスをして微笑む。
相沢「仕事は辞めた。それより東山さんの劇団事務所こっち!(黒田の手を引っ張る)」

○劇団事務所『飛鳥』・玄関前
黒田、古民家のような場所に連れられる。
黒田「御免下さーい」
東山「お待ちしておりました、東山彰です。今は名前と顔を伏せて『飛鳥』という小さな劇団の演出をしております」
後ろから綺麗な着物姿で現れる、東山。
黒田「黒田完治です」
涙を浮かべ深くお辞儀する、黒田。
相沢「私の方が先輩だからね」
黒田「え!?」

黒田N「大澤は世間から叩かれ、看板であったSSS事務所を手放した。代わりにあのコネがSSS事務所を引き継いだらしい。氷室先輩は無事俳優としてデビューし、清川は氷室先輩のマネージャーになったらしく、忙しい日々を送っているとか。実家のパン屋も有難い事に俺が居なくても順調にやってる」
黒田、舞台の大道具を運んでいる。
黒田N「……次は、ここが俺の舞台だ。いっぱい愛を持っていれば、俺達の居場所は何処にでもある」

○クラブ・店内
竹迫「……俺の就職先はどこだ!」


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