これが坂本龍一による、最も難解な一曲
ある楽曲分析者にいわせると、映画「ラストエンペラー」で、3歳に満たない幼子・溥儀が母の手から奪い取られるシーケンスの音楽(の長いイントロ)が、最も分析困難なのだそうです。
これまでこのブログで何度か取り上げた曲です。「Open the door」の題でサウンドトラック・アルバムには収録されています。なるほど難解そうですが、私のなかのベーカー街221Bでは、あの方がすでに解読してみせました。
これまで私が耳にした龍一楽曲のなかで、今のところ分析が最もチャレンジングなのは、むしろYMO時代の一曲「Stairs」です。私にとって、この曲の間奏部分で弾かれるピアノは、非常に魅惑的かつ分析困難なものです。この曲の作曲者は高橋幸宏ですが、間奏で流れるピアノの音は、もろに龍一節です。
YouTubeを検索すると、いろいろな方が再現していますね。一番生真面目なのがこれ。
コードネームが実にこじつけくさくていい味です。
これはもうちょっとマシかな。楽譜ではなくピアノロールで見せてくれます。
一番分かりやすいのがこれ。
ピアノロールが、ご覧のとおり横向きになっているおかげで、音と音の連なりが、ちょうどオシログラフの画面のようにわかるのです。
オシログラフというのは…ええいこういうの見たことありませんか。学校の理科実験室にこういうの置いてあった気がします。電流とか電圧とかを、こうやって波形で表示してくれる装置のことです。
おお、赤で囲んだ部分、波打っていますね。
ここは波打つというよりは、噴水が空に向かっていく様を思わせます。
ここもそう。
破線の音型というか噴水音列が、その後再登場しています。
モーリス・ラヴェルの「水の戯れ」と聴き比べてみてください。
この曲は、ラヴェルがパリ音楽院で学んでいた頃に作曲されたものです。1901年だから20世紀の最初の年ですね。翌年に初演されて、その時は酷評でした。セヴンス和音、ナインス和音を駆使して水のきらめきを描いています。この二つの和音は当時は前衛の響きでした。この曲は少しばかり時代の先を行ってしまったのです。
こんな光景を、ラヴェルは音で描いたのでした。
「Stairs」のピアノは、ラヴェルのこの曲へのオマージュです。噴水の拭き上がる動きそのものですね。
五線譜で分析しても訳がわからないのは、赤で括った部分については1オクターヴを12に均等に割り振った音の散らばりとしてデザインされているからです。ピアノロールを横倒しにして再生させることで、ようやくその設計思想が視覚化されるのです。この動画は、アップ主はそこまで考えてはいなかったと思うのですが龍一によるラヴェルへのオマージュぶりを横倒しピアノロール表示によって視覚化しているのです。
赤で括らなかった他の音の動きについても、このピアノロールをじーっと眺めていると背後にある法則が見えてきます。ここは五線譜で分析したほうが分かりやすくなるので、後日やってみるつもりです。
そうそうセヴンス和音とナインス和音が当時どんな風にざん新だったのか、ご本人が語った動画があります。
口下手の彼にしては手際よく語っています。その後繰り広げられる「戦メリ」解説が絶望的にアサッテの方向してるのはご愛敬ごあいきょう。
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