彼は「戦メリ」をどうやって作曲したのか?(その10)
その9からの続きです。
前々回より前回にかけて、以下の四小節を分析したわけですが…
四小節目の「シ」(緑で括った音符)にご注目ください。「東洋と西洋の衝突」というテーマを音楽に落とし込むためには、東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」をもとに旋律を作るのがよろしかろう…そう作曲者は考えたのですが、
しかしよく考えたら、上で緑で括った「シ」の音は、「ラ・ド・レ・ミ・ソ」には含まれない音ですよね。
この謎は、こんな風にドレミを付けなおす(青色)と、うまく説明できます。
四小節目の、くだんの「シ」(緑で括ったところ)の正体は、なんと…
「ミ」だったのです!
この裏技、さかのぼると「ライオット・イン・ラゴス」(1980年)や、彼の商業デビュー作「千のナイフ」(1978年)にも確認できます。どちらも東洋音階を使って旋律を組み立てつつ、この音階からは逸れた音が、旋律に堂々と使われています。
いつだったかこの作曲者さん、「どうしてこんな音が?」と楽曲分析者に訊ねられて「うーんわかんない、枠があって、そこから一瞬逸脱するときに快感が走るってところかなあ」と(私のうろ覚えですが)あいまいなことを述べていました。作った当人もわかっていなかったのですよ、この二重東洋音階メソッドを。
ちなみに青のドレミで解釈しても、東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」から逸脱した音がでてきます。「ファ」です。
しかし赤のドレミで解釈しなおすと「ド」ですので、しっかり「ラ・ド・レ・ミ・ソ」に回収されます。
この裏技を、龍一教授は無名時代から使いこなしています。それも無自覚に、です。
この「二重ペンタトニック(東洋音階)」メソッドの強みは、「東洋人の音楽=五音音階」とする西洋人の決めつけに対して「ちがうよ~ん」と六音の旋律を奏でられることです。なにしろ赤の「シ」や青の「ファ」を使えば「ラ・ド・レ・ミ・ソ」を逸脱できてしまうのだから。
東洋人と西洋人がどういうわけかいっしょに暮らしている、東洋のどこかにあるどこか西洋的な nowhere land の映画のメインテーマにふさわしい技だったと思います。
そういうわけで話は続くぞローレンス!
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