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彼は「戦メリ」をどうやって作曲したのか?(その2)

その1からの続きです。

「戦メリ」というか「メリークリスマスミスターローレンス」が龍一の楽曲で飛び切り人気が高いことが龍一そのひとにはよくわからなかったようです。「七人の侍」が代表作とされるのを黒澤はあまり快く思っていなかったのと通じるのでしょうか。

それはいいとして「戦メリ」の魔力のひとつは、たった一つの和音から二つの旋律モチーフを用意して、それを交互に繰り出しながら次第に盛り上げていくという、素朴にして極めて計算された構造ぶりにあります。



ここでいうたったひとつの和音についてはもっと後の回で解説します。今回は二つの旋律モチーフについて分析。

前回終盤で述べたように、この曲は「レ ↗ ミ」の動きが頻出です。

♪ レミレラレ、レミレミソミ、レミレラド



主旋律がまさに「レ ↗ ミ」の連呼でできています。このフレーズが繰り返されて、あんまり繰り返すと聴く側が「またぁ?」といちゃもんをつけだすのでほどほどにして、1オクターヴ上げて再登場。間奏を挿んで、1オクターヴ高いままで再登場、反復。




ちなみにこの1オクターヴ高い版、間奏前では2回、後で4回反復されます。もし2回ではなく4回だったら間奏に入りにくくなるのです。お笑いの基本に「反復ボケは3回、決着は1回」というのがあります。懐かしの「笑っていいとも!」で、デーモン小暮閣下に電話してタモさんが「あした来てくれるかな?」を振ると閣下が「よ~か~ろ~」とエコー声で返してきて会場大うけし、タモさんが「違うって、それじゃあした来てくれるかな?」と再度振ると「よ~か~ろ~」とまた返してきて会場がさらにうけて、タモさんが「ちがーう!それじゃあした来てくれるかな?」に閣下が「よ~か~ろ~」とまた返して、次の四回目でやっと「いいとも~」を出してきて幕という、小粋な笑いを取りにきていたのが思い出されます。

「戦メリ」に話を戻すと、間奏に入る前に主旋律1オクターヴ高い版を2回反復して、そこで一度CMが入って、CM開けしてこの版が4回反復…巧い巧すぎです龍一。デーモン閣下と同じくらいわかってはります。


ここでもうひとつのほうの反復フレーズについて触れておきます。「ミ ↘ レ」の動きですよ。

イントロで連呼されるやないですか。

ミレミラミレ/ミレミラミレ/ミレミソミレ/ミレミソミレ

桜の花びらが舞い散るような、あの印象的なイントロ。「ミ ↘ レ」は見ての通り下向きなので、反復すると花びらが舞い散るイメージが脳裏に広がってきます。


この「ミ ↘ レ」の動き、イントロで終わりではなく、間奏部でも見られることに皆さん気が付いていましたか?




♪ ラソラソ、ラ、ラ、ラソラソ、ラソファ


「違うやん」と思った方はどうか農薬を1ガロンほど一気飲みして反省してください。ここにある「ラ ↘ ソ」の反復は、「ミ ↘ レ」を完全四度上に転調させたものです。つまり、四度上の調でドレミ化すると

♪ ミレミレ、ミ、ミ、ミレミレ、ミレド

なのですよ。

さらに付け加えると曲の締めくくりでもさりげなく「ミ ↘ レ」の動きが反復されます。これは説明が少々手間取るので、今回はスルーして、もっと後の回でじっくりやります。



おさらいしましょう。「メリークリスマスミスターローレンス」の旋律には二つの基本型があって、ひとつは「レ ↗ ミ」、もうひとつは「ミ ↘ レ」。これどうか覚えちゃってください。ここがわかれば「戦メリ」の魔法を解明できます。





そして分析は続く!

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