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「ジョン・ウィリアムズは技だけで作っているからぼくは好かない」(その1)

今年の元旦より映画「ラストエンペラー」のメインテーマ分析をブログで綴ってきました。

作曲者がそのあいだに逝去されたり、私自身もいろいろあったりで、いろいろ思い出深いシリーズとなりました。今月よりその再読と新解釈を連載しています。作曲者監修の楽譜に切り替えたことで新たな発見がいくつもあったりしてね。

そうするうちに、この曲が再び気になってきました。


日産の乗用車「セドリック」のCM用に書かれたものです。同社の公式記録によると1987年7月2日より放映されていたCMのようです。



昭和のCMは狙いがよくわからないところがあります。これもそうです。プールで泳いでる健康清潔ガイのぼそぼそ声がどうしてセドリックの良さを伝えるのか、わかんない。曲もよくわかんない。なんちゃってさわやかチャイナミュージックがなぜに乗用車のCMにあてがわれたのかなって。

この1987年(昭和62年といったほうがピンとくるでしょうか)の7月は、ちょうど彼のアルバム「Neo Geo」が日本で先行発売される頃ですね。そのタイアップ企画として日産CMに同アルバムから歌ものがひとつ流用、そして上のなんちゃってチャイニーズ音楽が書き下ろされたものと思われます。

映画「ラストエンペラー」の撮影に参加したのが前年1986年の後半だったのかな。撮影終了より半年くらい経っていきなりジェレミー・トーマスPより電話があって「ポルコ・ロッソ、今すぐ曲を書いてくれ。一週間だ」「安い仕事はやらないぜ」みたいなやり取りがニューヨークとローマのあいだで交わされ、東京に戻って一週間でシンセ(機種はカーツェルだったと思います)で作曲してロンドンに飛んでアヴィ・ストゥーディオで急遽オーケストラ用に編曲して自ら指揮して一週間で録音して…なんてすさまじいスケジュールで作った後の余韻を感じますねこのチャイニーズCMみゅーじっく。

どなたか「『ラストエンペラー』の没曲の流用だ」とおっしゃっていましたが、その線はないだろうと私は見ます。映画音楽であれば必ずその映画のエッセンスが音符群に仕込まれていますが、このCM曲にはそういうものが感
じられない。溥儀が紫禁城からの引力に引き戻される、時代にいつも翻弄されてヒーローになり損ない続ける、そういう様が、この曲にはもともとデザインされていないのです。

「ラストエンペラー」で効果的だったある作曲技法が、おそらく作曲者はいちいち意識しないでこのCM曲では活かされています。ことばは悪いけれどそういう技法オンリーで書かれた曲です。ちなみにご本人は後年のコメントで、この曲をけっこう気に入っている様子でした。


日産CM曲(後に「Floating Along」と命名されているので以後この曲名を使いますね)のイントロ、聴いてみましょう。


いつものようにドレミを書き込んでみると、

この旋律、譜面上では無調号つまりC長調(かA短調)ですが、もし五度上の調で奏でられているとしたら、以下のドレミ表記になります。

どちらが正解でしょう? いうまでもなく緑色ドレミのほうが正解です。東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」にそれとなく「ファ」を混ぜてきています。そういうのおかしいと思うでしょうが、赤色ドレミで考えるとこの音は「ド」なので東洋音階に収まってしまうのです。


逆もまた真なり。赤色ドレミにおける「シ」は、緑色ドレミにおいては「ミ」なので、東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」に収まってしまうのですよ。


東洋風でありながら東洋音階からは逸脱している、しかし逸脱はしていないというわけわからん曲がこの作曲者にはいろいろあります。「戦メリ」もそうです。YMO時代の代表曲「ライディーン」もそう。この技をさらにアナーキーに使い倒したのが、前に分析した「ライオット・イン・ラゴス」。今回分析している「フローティング・アロング」は、この技もろだしで作られた曲といえそうです。


気が向いたらつづく

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