天才ディラック(24歳)の1926年論文を解読するのだ・最終節その2
その1からの続きです。その1でポールくんが検証してみせたのは…
① 無摂動系の波動方程式: 無摂動系の波動方程式は $${(H - W)ψ = 0}$$ で、一般解は $${ψ = ∑ c_n ϕ_n}$$ の形である。
…でした。
今回彼が検証してくださるのは、
② 摂動の導入: 時間 $${t_0}$$ から摂動が加わり、摂動された系の波動方程式は $${(H - W + A)ψ = 0}$$ になる。摂動項 𝐴 の影響で、解は $${ψ = ∑ a_n(t) ϕ_n}$$ となる。
…でございます。
この数式にご注目ください。
前回登場した $${(H-W)ψ=0}$$ に、謎の $${A}$$ が参入です。
外部から新たに加わったエネルギー、つまり摂動エネルギーを $${A}$$ として書き加えたのが、上の $${(H-W+A)ψ=0}$$ であります。
非摂動系であった $${(H-W)ψ=0}$$ に $${A}$$ が乱入して $${(H-W+A)ψ=0}$$ になったときの波動関数 $${ψ}$$ を、ポールくんはこう示しなおしてきます
$${ψ=∑_na_nψ_n}$$ (先ほどは $${c_n}$$ でしたがここでは $${a_n}$$ に代わっています)
ここに出てくる $${a_n}$$ は本当は $${a_n(t)}$$ と記した方がいいんですよね。$${t=0}$$ のときは摂動が始まる瞬間であるから $${c_n}$$ つまり非摂動系だったときと連結。
*
ポールくんはいちいち断りを入れていないので私が断りをいれると、この節で彼が想定しているのは、複数個の水素原子です。
私なら必ず論(=本論文の節)の冒頭でそう述べるところですが彼はスルー。「そんなの順に読んでいってもらえれば自然にわかるよ」といつもの簡素スタイル。
ユカワが「腹立つ」、トモナガが「悲しくなる」と京都帝大生の頃に嘆きあった、ポールくんの論文スタイルに、ほぼ百年先にいる私も少々戸惑っていますが、そこを根性と洞察力で解読しております。
ここでさらに腹立つ&悲しくなるが加わってきます。
ポールくん、またもや訳の分からない仮定を、唐突に切り出してくるのです。
$${ ∣c_n∣^2}$$ が 𝑛 番目の状態にある原子の数であるとする。
任意の時刻 𝑡 における 𝑛 番目の状態にある原子の数を$${∣a_n∣^2}$$ とする。
どこからそんな仮定が出てくるねんポール!
「んー?$${a_n}$$ の代わりに $${|a_n|^2}$$ を使うと、原子の総数が一定に保たれるからだよワトソンくん」
❓❓❓
「次回につづく」
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