見出し画像

量子力学の教科書はどうしてどれも crap なのか?

いつもの愚痴です。何度目かの同じ話です。

ポール・ディラックの論文を気の向くまま解読していて、彼の思考の真髄が見えて気がしています。

あるアイディアがあって、それにそってポン!と簡素な数式が提示されて、それをいじくっていくと、いつのまにか「ほらできた」になる、そういうスタイル。

読んでいるほうにすれば「どこからそのポン!が出てくるわけ?」で、しかし彼にすれば「これが一番自然だからですよ」で終わり。

私はなんとかついていけます。m と n が交換可能な数式が要るということは、それはきっと乗法の形式になるだろうし、それが一番自然であろうということなのだろうな、と。

実際そうやって彼が提示した式をもとに、いろいろいじっていくと、ちゃんとある結論に達するのです。

シャーロック・ホームズの推理のようです。クリスマスの迫るある夜、シャーロックの知人が帽子とがちょう(クリスマスプレゼント用)を道で拾って、どうしたものかと彼の事務所に持ち込みます。

「この帽子の持ち主は、きっと〇〇で◇◇◇で△△△△な人物であろう」 シャーロックは推理を述べます。

後で持ち主が彼の事務所にやって来て、彼の推理どおりの人物なので、私たちは納得してしまいます。

しかしこの推理は推理と呼べるものではありません。帽子があまり手入れされていないことから「奥方と不仲だってことさ」と言い切ってしまうのだから。

さすがにワトソンが「独身男性かもしれないじゃないか」と反論すると「ちっちっ、不仲の奥方のご機嫌をとるために、クリスマスプレゼントを買い入れて、帽子といっしょに落としてしまったのだよ」とお話に丸め込んでしまうわけです。


小説ならそんなロジックで十分間に合うのでしょうが、現実世界でこんなあてずっぽうを警察がしたら、えん罪事件の大量生産に陥るのは目に見えています。

ポールくんの推理は、シャーロックに比べればずっと筋が通っているとは思うのですが、それでも数学者が読むと「こらー逆問題が解けてないやないか!」と苛立ってしまう、そういう推理です。犯人を特定するのはいいとして、ほかの犯人や可能性を排除してしまうような姿勢は、やはり好ましくありません。

そういう違和感が、彼の論文を読んでいるとどうしても私のなかに生じてきます。

もうひとつ違和感。これは彼の論文についてではなく、後世の人間つまり現代の人間による量子力学の教科書への不満です。

唐突に δ(デルタ)関数がでてきて、ブラケット記号がでてきて、共役複素数のマークが積分の式のなかにでてきて「はいおぼえましょ~」と突き進んでいきます。

なんでこうなるの?と問いかけても「ヒルベルト空間ガ~」とか「単位の分解デ~」とか「内積0でないので独立性ノ~」とか、難しい数学の話にすり替えられてしまいます。

多少でも量子力学史や数学史を齧っていれば、こんな説明ではとても足りないことに気づくと思います。抽象ヒルベルト空間論も重ね合わせの原理もブラケット記号も、ポールくんがデルタ関数を導入してよりずっと後になって発明されたものです。そんなのをいくら繰り出されても、彼がどうやってこの関数が使えると閃いたのか、わからない。

そのあたりの不満を、今日午後 ChatGPT との議論のなかでぶちまけてみました。

所詮生成AIゆえに、私の疑問について「ヒルベルト空間ガ~」とか「単位の分解デ~」とか「内積0でないので独立性ノ~」とかの、後世になって整えられた考え方で説き伏せようとするのです。

少々かちんときたので「そういうの一切使わないで説明してちょ」と何度もやり返しました。

1926年当時のポールくんの思考過程までは、とても ChatGPT では追えないのだと痛感しました。

論文を順に読み込んできた私には、彼の思索の道のりが見えてきています。

彼はすでに $${pq-qp=定数}$$ にはたどり着いていました。$${p}$$ (運動量) と $${q}$$ (位置) がそれぞれ、時間に依存するシュレディンガー方程式から波動関数として導出されることも。 

$${p}$$ (運動量) を表す波動関数と $${q}$$ (位置) を表す波動関数を掛け合わせる必要性についても、気づいていました。

それを積分の形式にうまく落とし込めるといいな、そのためには(すでに電気工学のほうで重宝されてきた某関数のきょうだいともいえる)デルタ関数をこしらえるのがいいなと気づいたのも、自然な発想でした。

当時の論文にざっと目を通すと、計算こそ複雑怪奇ですが、彼の方向性はごくシンプルなものです。

そうして彼が到達した結論が、ほかの物理学者それに数学者たちによって、あれこれいろいろな風に解釈されて、ご本人の手を離れていろいろなものを生み出していったのです。

それに刺激されて、かなり後になってブラケット記譜法を思いついたのです。

教科書はいろいろ目を通してきましたが、どれも気に入りません。そういう気持ちが膨らんでいきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?