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天才ディラック(24歳)の1926年論文を解読するのだ・その9

⇧その8の続き、いきます。ワトソン役を私が、そしてポールくんの論文の行間から立ち上ってくる、あの世界最高の天才探偵の露口茂ヴォイスが、今また繰り広げられん――

「どこまで話したのだったか」

自由空間で運動する質量 $${m}$$ の単一分子に対する波動方程式と…

$${({p_x}^2+{p_y}^2+{p_z}^2-W^2/c^2+m^{2}c^{2})ψ=0}$$

$${\left( \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2} \right) \psi - \frac{W^2}{c^2} \psi + m^2 c^2 \psi = 0}$$


その解である波動関数、さらにその条件式についてだホーム…ではなくてディラックくん。

$${ψ_{α_1α_2α_3}=exp.i(α_1x+α_2y+α_3z-Et)/h}$$

$${{α_1}^2 + {α_2}^2 + {α_3}^2 - \frac{E^2}{c^2} + m^2 c^2 = 0}$$

「そうだったね。この波動関数は、アニメーションで視覚化するとこんな風だ」

「無限に広がるシーツが一枚あって、それがある方向に向かって平行波をうっていると思えばいい」

ふむ…

「厳密には、この波打つシーツは一枚ではなく、無数に重なっているわけだが… 要は波が果てしなく続いていくということだ。位相が0から 2π までで一単位だというのは、わかるね」

わかるよ、一番素朴な波のイメージだ。

「位相が0から 2π までで一単位ということは、それがそのまま気体分子ひとつ乃至複数であることに対応する」

数学でいうディリクレ境界条件?

「それだよ。もっともそれが言語化されるのは、今ぼくらがいる1926年ではなくもう数年後になってからなのだが」

あなたのあてずっぽうということか?

「いや、最も自然な解釈だろうということだよ。連続と離散が共存する数学空間といったら、波動がそこにあると考えるのが自然だ。そして、無限の波数をカバーできるものといったら…」

フーリエ級数か!

「正解。こんな関数になるだろう」


$${f(x) = \sum_{n} a_n \exp(i n x)}$$


「ここに出てくる $${a_n}$$​ は定数、$${n}$$ は整数だ。これの右辺は無限次元の行列として表現できる」

無限次元行列?

「そうだよワトソンくん。時間 $${t}$$ も変数に含めるよう、こう書き改めてみればわかるよ」


$${f(x, t) = \sum_{n} a_n(t) \, e^{i n x}}$$


ああなるほど、無限次元行列が無限に加算($${∑}$$)されていくわけか。

「波動じたいは三次元空間にあるわけだけどね。x, y, z軸をイメージしてほしい。そして $${0 < x , y, z<2π}$$ で一単位の立方体と考えて、そのなかに気体分子が 0 か 1 か 2 かもっとたくさんか、とにかく負でない整数個みいだせると考える」

だんだん具体的な話になってきたね。

「それでだね、エネルギー$${E}$$ が $${dE}$$ 増えるとき、波数つまり $${0}$$ より大きくて $${2π}$$ より小さい幅のなかで波うちが繰り返される数がどう増減するのかを計算してみると…」


$${\dfrac{4\pi }{c^{3}h^{3}}\left( E^{2}-m^{2}c^{4}\right) ^{\dfrac{1}{2}}EdE}$$


これはどうやって計算できるんだね?

「論文にはいちいち書き込まなかった。学生向けの練習問題にはいいかもね。ちなみに相対論を黙殺して式を組み立てなおすと…」

$${\dfrac{2\pi }{h^{3}}\left( 2m\right) ^{\dfrac{3}{2}}E_{1}^{\dfrac{1}{2}}dE_{1}}$$ ($${E_{1}=E-mc^2}$$)

「いうまでもないことだが任意の体積 V について、この式は $${V/(2π)^3}$$ で乗じる必要がある」

え? ああ、そうか…


「つづくよ↓」

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