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ラストエンペラー祝典と「展覧会の絵」(その3)

Abstract: In a previous essay, the suggestion was made that the music played during the inaugural ceremony sequence of the first emperor in the film "The Last Emperor" might have been created by combining the melody of the opening section of Mussorgsky's "Pictures at an Exhibition" with an ostinato that hints at fascism. In this essay, I recreate the actual process of composing that music, while also incorporating some imagination.


満州国初代皇帝となったジョン・ローン…ではなくて愛新覚羅溥儀は、各国の要人たちを招いて祝賀会。

以下、映画からそのシーケンスを見ていきましょう。

オーケストラが何か奏でています。


カメラが下を向いていくと…


「ざ・じゃぱにーず・あーみー・はいこまんど!」(日本陸軍の将軍達だ)
「ヴぇりーいんぷれっしヴ」
(壮観やね)


このときこの会場内で生演奏されている曲、という設定で、撮影本番前に急遽作曲されたのが、この曲です。


出演者のひとりに急遽作曲させたという逸話が泣かせます。これがきっかけで、彼はこの映画全体のサウンドトラック(の多く)を後に委嘱される、と、つまりあの話です。

この曲が、ムソルグスキーの「展覧会の絵」冒頭部分にインスパイアされて作られた(らしい)という分析を、私は前にしました。


それからファシズムの匂い、いわゆる軍靴の音を思わせる音型が繰り返される、と。

オスティナートといいます。


撮影現場のドキュメンタリー映画のなかで、作曲者はピアノでこの音型を繰り返しつつ、パーティの旋律を奏でていました。

ということはおそらく、この反復音型を繰り返し弾きながら、彼の耳には旋律が浮かび上がっていったのだと想像します。


実際にやってみましょう。この音型反復に「展覧会の絵」の冒頭旋律を、のっけてみると…


ををををを、ちゃんと乗っかります!


作曲者による自伝本&半生ドキュメンタリー映画のなかで語った話によると、アップライトのポンコツピアノをホテルの彼の部屋まで運び込んでもらって、二日でフルオーケストラの楽譜にまで仕上げたとか。


これが作曲の過程で、彼が奏でたもの(に近い)ものです。想像です。


ちなみにオスティナート(反復音型)は少しだけ変えてあります。こんな風に。


以下はオーケストラ演奏版。


撮影中、本当に演奏していたそうです。ただよくみると音楽と演奏のアクションがシンクロしていないので、このシーケンスでの演奏は後日、アヴィ・ロードのスタジオオーケストラで奏でられたものと思われます。



ほかの資料によると、長春での作曲中にジャーマネさんを介して日本の伊福部ゴジラ昭先生に問い合わせもしているそうです。「伊福部先生、満州国の曲、作ってはりますよね、どういう曲でしたか?」とかなんとか。

勉強家のリューイチらしい話です。

そしてこのシーンに映る楽団のために彼が用意したオーケストラ楽譜は、おそらくひとりで書き上げたものです。かなり緩いできのものだったと思われます。ご本人が「ぼくオーケストレーション苦手」と後で語っていたし。

実際に映画のサウンドトラックで聴かれるのは、本職のオーケストレイターが仕上げたものです。上野さんかな野見さんかな、それとも他の二人のどちらかだったのかな。


「展覧会の絵」冒頭部旋律がどれだけすごい仕掛けが仕掛けられているか、前回とそのもうひとつ前のぶんでは語り切れていない仕掛けが実はあります。それを坂本がどう自分のものにしてみせたのか、いつか語ることもきっとあると思います。

♪いつかまた遭う日まで~バイチャ

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