「おはよう。いってらっしゃい。おはよう。いってらっしゃい。」

4月だというのに冷え込みが厳しいある朝のこと。
私は防犯ボランティアの当番として、子供たちの登校を見守っていた。

「はーい!みんな手ぇ挙げてな。横断歩道渡るときは手ぇ挙げてなあ」

横断歩道の右端に立ち、防犯用の黄色い旗をかざす。
子供たちの元気なあいさつに微笑み返していると、
青年が乗る赤い自転車が、男の子の背中にぶつかろうとしていた。

「危ない!!!!」

私が自転車と男の子の間に旗を挟みこむように突き出すと、
自転車は、キィ!と音を立て、すんでのところで停止した。

「ちょっと!!危ないやないですか!!あんた、スマホ触って、しかもイヤホンもして!子供たちに怪我があったらどう責任とるんですか!!」

「ああ、すまんすまん。悪かった悪かった」

「ちょ、ちゃんと聞いてください!!なにかあってからやったら遅いんですよ!!」

「ああ悪かった悪かった。ええから腕離して」

気だるそうに返事をする彼に腹を立て、いつの間にか彼の袖を掴んでしまってようだ。
しかし、ここで離せば逃げられると判断した私は、むしろ強く握りしめた。

「とにかく、スマホを見ながらの運転は道路交通法でも禁止されてますから!絶対に今後はしないでくださいね!!だいたいね、最近の若い人はスマホに依存しすぎなんですよ!なんでもかんでもスマホスマホ。メモもスマホ。スケジュールもスマホで。もうちょっと紙に書いたりーーーー」

「ちょ、ええ加減離せや!!」

彼は私が掴んでいる手を強引に振り払った。

「信号変わるぞ!」

「ほ、ほんまや!!」

彼の自転車に引っ張られるように、横断歩道を駆け抜けていった。


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