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紅茶の返信 "C’est l’heure du thé !"



ひとつ残念なことがあるとすれば、
私がそんなに狭量な心の持ち主だと思われていたことでしょうか。
ま、冗談半分なのでしょうけれど、そんなに謝らないで頂戴な。

私はなかなか喜んでいます。

しかしあなたときたらとても回りくどいので、
デートのお誘いと気づかずに私ひとりで淹れてしまいましたよ。
まさか赦してくれないなんてことありませんよね?
だって、私、嬉しくてすぐに飲んでみたくなったのですからね。



まずはTHÉ DE L'HIVER 、それを手に取りました。
ヴァニラ、キャラメル、カカオ、カフェ…なんて、
いかにもあなたが好みそうなラインナップです。

サシェ(と、フランス式ではティーバッグをそう呼ぶのだそうです)を取り出そうと袋のふちに鋏を入れた瞬間、
ふぅわりと甘い甘いヴァニラの薫りがひろがりました。
これほど強く甘い薫りがするとは思わず、
私は感嘆の溜め息をこぼしてしまいました。

あの瞬間をあなたと共有できなかったことが残念です。
ほんとうに、甘党でロマンチストなあなたが喜びそうな一瞬でした。

私は急いで袋の口をクリップで留めました。
この薫りを、少しでも閉じ籠めておくために。
サシェはふたつ入りだったので、「冬の紅茶」はまだあと1杯ぶんあります。
(あなたなら、2杯は楽しめるかしら)
あなたが訪れるまでに、この薫りが逃げてしまわなければよいのですが。


さてそれからは、あなたが同封してくれた「紅茶の淹れ方」メモに従い
お手軽にカップでサシェを煮出しました。

まずは何も入れていないカップに熱湯を注ぎ、温めて。
それからお湯を棄て、サシェを入れ、
あらためてお湯を注ぎます。

今回は透明なカップを選びました。
この紅茶がどんな色をしているのか、余すことなく観察してみたくて。

透けたサシェの向こうに見える黒い茶葉へ
お湯が落ちた途端、
じわりと鮮やかな、ほんとうに鮮やかな紅がひろがりました。
この瞬間も、私はとても好きです。
湯気とともにまたあの甘い薫りが立ち昇り、
鮮やかな紅茶色がとくとくと嵩を増します。

そこへソーサーで蓋をして、砂時計をひっくり返し、3分。
テーブルに頬をつけて、サシェの中で踊る茶葉を眺めます。
くるくると対流する紅茶はますます色の深みを増し、
透明なカップも湯気で曇ります。
曇ってぼやけたカップの向こうは、冬の結露した窓から眺める景色のよう。
そうして鼻歌を歌いながら、3分。

3分後、ソーサーを取り上げると
袋を切った時よりは優しい、しかしやはり甘い薫りがとびだしてきました。
それをひとしきり吸い込み、ひっくり返したソーサーの上にカップを乗せ、
マドラーでくるりとひとつ掻き混ぜて、ひとくち。


薫りとともに喉の奥へ滑り落ち、おなかの底をあたためるそれに
ほぅ、
とまた息を吐きます。


薫りからして、どんなに甘い味がするだろうかと思えば
意外にすっきりとしたまっとうな(というのも変ですが)紅茶の味です。

お茶菓子は笑っちゃうようなあなたの手紙と、
ポストカードが2枚。
クリスマスでも誕生日でもない日にこんな手紙が届くというのは、
なんだか面映いことです。


紅茶を飲まないあなたにはどうでもいいかもしれませんが、
私は大抵ストレートでそれを嗜みます。
冬はオレンジとママレードでロシアンティーと洒落込むこともありますが
基本的に私は、ミルクも砂糖もなしのお茶が好きなのです。
なのでこれには、実はちょっと警戒していたのですが
予想していたほどの強烈な甘さもなく、
落ち着いたひとときを過ごせました。

この「冬の紅茶」はなるほどミルクティーにも適しているようなので、
甘党のあなたにはそれがよいでしょう。
(あなたはわかりやすく甘いものを好むので、この薫りには期待しすぎてしまいそうですね)


「キモノ」も気になりますが、
ひとりで鋏を入れるのは勿体ないのでこれはまたの機会に。

紅茶の袋に鋏を入れるあの瞬間は、
プレゼントボックスの包装を剝がすのにも似たときめきがあります。
しゃきん、という手応えの一瞬のちに、
ふぅわり、と、甘く馨しい薫りが立ち昇り、やがて空気に融けていく。
お湯を注いでからの少しの待ち時間もまた楽しいものです。

あなたにも楽しんでいただけると嬉しい。


ああそうそう、一応補足しておきますが、
例の件について。

私はほんとうに、別に怒ってはいないのですよ。
むしろ手遅れになる前に行動してくれたあなたには感謝しています。
(まぁ、本当に手遅れギリギリまで動かなかったことには思うところがないではありませんが)

ちょうど友人宛にレターセットを買おうと思っていたところなので、
今回はちょうどいいものを教えてもらいました。
私もまた、この「紅茶の手紙」を友人に贈りたい。

ヴァニラの薫りの「冬の紅茶」か、
あるいは艶やかな「キモノ」の彩り。
女流作家「コレットの庭」に「スウィートアールグレイ」。
スパイスたっぷりの「旅する紅茶」に真っ赤な「ラサ・サヤン」。

目移りしてしまいますね。
ご存知の通り、私は通販に不慣れなので
次のお茶会の席ではそれもお頼み申し上げます。
侘びというなら、それでチャラ。ということで。



P.S.
 鍵はいつものところに隠してあるので、
どうぞご自分でドアをお開けなさいな。


アンシャンテ・ジャポン
紅茶の手紙「C’est l’heure du thé !」
http://www.enchan-the.com/letter/index.html

封筒から紅茶を取り出すところからもうわくわくしました。

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