トロント百景 【二、 ミスター・ティムホートン 】

スターバックス・コーヒーは、日本はもちろん、今や世界中のどこを探してもある、と言っても過言ではなく、それはトロントも例外ではない。むしろ日本よりも多い。どこを歩いても人魚。どっちを向いても人魚。そんな街で、人魚に勝るとも劣らないのが、赤い看板のミスター・ティムホートンなのである。(正式にはティムホートン。通称ティム)

その佇まいと、圧倒的な店舗数から、うっかりコーヒー・チェーンと見まがうティムホートン、実はドーナツ屋さんである。そして、その種類の豊富なこと。ショーケースに並ぶカラフルなそれは、砂糖をいったいどれほど使っているのかと感じるほど甘いが、不思議と癖になる。しかも安い。この街で太る原因の97パーセントは、このティムホートンのドーナツに違いない。(ピザピザという、やはりチェーンのピザ屋の可能性もあるが、あえてここでは触れない)

私は、このティムに随分お世話になった。時間的余裕は有り余るほどあるかわりに、金銭的余裕のほとんどなかった当時の私は、最高の暇つぶしとして、『散歩』を思いついた。というより、思いつく前にやっていた。そういえば、到着して一番にしたことは散歩だった。滞在期間の3分の1は散歩していたし、都心の3分の2は散歩した。私の『お散歩留学』において、ティムはオアシスのような存在だった。まさにこんな風に。


○お散歩の1日の流れ

1.支度したら、本をもって家を出る。

2.歩く。寄り道する。

3.ティム(コーヒー、読書、たまにドーナツ)

4.歩く。寄り道する。

5.ティム

6.歩く。寄り道する。

7.ティム

8.ストリートカーか地下鉄で帰宅


もちろんトロントにも、お洒落なカフェや美味しそうなレストランは山ほどあるし、ティム代を節約すればもっと他のことが出来るじゃないか、とも思う。でもやっぱり、ティムなのだった。ああティム、あなたのどこにでもあるその安定感。安さ。適当な接客。変わらぬそこそこな味。


そういう訳で、ティムには随分お世話になったのだった。だから感謝したい。あるあるも言いたい。そんなあなたを、私は敬意と親しみを込めて、こう呼ぼう。
ミスター・ティムホートン。
あなたが日本に進出する日を誰よりも心待ちにしています。