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絵空事 -remota- 第3話「月と翅」

夜が明けて、洞の中にも光が差し込みました。
銀翅の結界があるためか風は吹き込んできませんでしたが、きっと外では涼やかな風が吹いていることでしょう。

光に誘われるように、夜明けと共に銀翅は目を覚ましました。
十六夜はといえば、狐の姿となって洞の奥で休んでいるようでした。

「…十六夜か。お早う。」
「あぁ。」
銀翅が声を掛けると、すっとまた幼子の姿に化け、言葉を発しました。

「よく眠れたかい?」
「んなわけあるか。」
よく眠っていたのはお前の方だろう。と言いたげな視線を向けた十六夜でしたが、口に出すのは止めたようでした。

「ははは、そうだろうねぇ。」
一方の銀翅は、意外にも殺されなかったことに密かに驚きつつ、十六夜に真を問いました。

「…答えは出たかい?」
「…。分かった。あんたについて行く。…その代わり」

「ああ。」
「…あんたの嫁には、ならんで。」

「ほう。…では何と紹介すれば?」
「…紹介の仕方には文句は言わん。あんたの好きなように、嫁とでも言うておけ。…ほんまの嫁にはならん、って言うとるんや。」

「…。そうか…。」
変わらず笑みを湛えてはいましたが、なぜか少し残念そうに、銀翅は言いました。

「…おい、顔に出とるぞ」
「…。………。」
またも十六夜に呆れられましたが、変わらず残念そうな顔をしている銀翅なのでした。

「ああ。それと、もうひとつ。」
思い出したかのように、十六夜はひとつの条件を伝えるのでした。


銀翅と十六夜は、共に山を下りました。銀翅が山から下ったことに気付いた村人たちは、事の顛末を銀翅に尋ねます。
曰く、「山の中で深く瞑想をしていた結果、山の神の啓示を受けた。此度の凶作は山の神の怒りである。以後、胎の児ひとりを貰い受けるのと引き換えに子ひとりを授け、また凶作も終わらせよう、と」。
女が子をひとり身ごもり、その子が七つまで無事に育てば、次の子は流れる。逆に、七つまでの子がひとり流れれば、次の子は無事に育つ。と、いうことでした。これが続く限り、村は凶作に見舞われない、とも。

飢えに喘いでいた村人たちは、すぐさま山の神の啓示を受け入れました。
すると、忽ちのうちに村の飢饉は去り、銀翅は村を救ったとして尊敬され、十六夜もその妻として、村に迎え入れられました。

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