現代少女漫画論のためのノート

◯ジャンププラスと少女漫画
ジャンププラスが少年漫画的でない漫画(例えばアフタヌーンっぽいとか少女漫画っぽいとか)をたくさん載せているため、全ての漫画がジャンプという名前に集うことになりつつある。『正反対な君と僕』は明らかに少女漫画だし、『SPY×FAMILY』も白泉社の少女漫画といってもおかしくない絵柄と雰囲気だ。読み切りでも、『はしたないかしら?』などを描いた喜多川ねりまはノリが明らかに岡田あーみんなので、ギャグ方面での少女漫画要素もジャンププラスが吸収してしまえる。

◯問題点
つまり、誰がどう見ても少女漫画だというレーベルからはあんまりすごいのが出てこない。ジャンプブランドで掲載に至る作品の方が優れているというジャンプ至上主義みたいなものは、漫画好きには案外共有されているので、そういう状況では、純粋な少女漫画レーベルのものは二級品扱いされるのだ。よく分かる例として、『別冊マーガレット』に連載されている凹沢みなみ『かしこい男は恋しかしない』は、ジャンププラスに出張掲載されて、「タワマン文学」の麻布競馬場氏などに持ち上げられている。しかし、「マーガレットコミックス」のレーベルで売られることなく、「集英社女性コミックス」という謎のレーベルで売られている。これなぞ、少女漫画レーベルが見下されている証拠だ。高野苺『orange』が『別冊マーガレット』から『アクション』に移籍したら「重厚な漫画でござい」のような描き込みの多い装丁で売られるようになったのは露骨だったが、『かしこい男は恋しかしない』の場合は移籍もしていないのにわざわざ謎の名称で売られているのである。そういう状況によって、誰でも少女漫画と分かる少女漫画は貶められてきたのだ。『ぶーけ』の桃栗みかんが『いちご100パーセント』で『ジャンプ』に移ったら持ち上げられたことも思い出される。

◯ 少女漫画から青年漫画へ
『スキップとローファー』や『来世は他人がいい』のような漫画が『アフタヌーン』に載っている時代。青年誌に少女漫画的な作品が載るのも、ジャンププラスに少女漫画的なものが載るのと同じく微妙な問題となる。青年誌ならワイワイ持ち上げるのか、というモヤモヤ。『別冊マーガレット』で『町田くんの世界』を連載した安藤ゆきが、青年誌の『ビッグコミックスペリオール』で『地図にない場所』を連載し始めたところ、「ゼロ年代」系の批評家がすぐさま座談会に取り上げるところなど、非常に不思議な現象だ。同じく『別冊マーガレット』の渡辺ペコも青年誌でフェミニズム的な漫画を描き始めて注目度が上がっているが...。少女漫画家の少年、青年漫画への「移行」を、外野が「出世」のように扱うのは、今後も考えるべき問題。

◯2010年代『別冊マーガレット』
『別冊マーガレット』は2010年代に実は充実していた。『君に届け』や『アオハライド』などの、いかにも青春という感じの少女漫画ばかり載っているんだろ?と触手が動かない人間も多かったと想像されるが意外にそうではなかった。
羽柴麻央の、『宵待いブルー』等の短編作品は、絵柄と表現の妙で、必ずしもキラキラした少女漫画に止まらない余韻を感じさせた。
山川あいじも短編派で、『やじろべえ』などの画面の表現が独特だという。
小森羊仔は『YOU』という雑誌出身で純粋な「別マ」ではないかもしれないが、『青い鱗と砂の街』などの世界観構築と書き込みには目を見張るものがある。
渡辺カナは恋愛だけでなく友愛も丁寧に前向きに描いてすごく奥行きがある。同性愛者の幼馴染の男の子に恋心を向ける少女を描いた短編『デイ・ドリーム・ビリーバー』の瑞々しさと切実さには脱帽。報われない片想いで割り切れない感情の描写がこちらに伝わってくる。しかしどう見てもこれは少女漫画だった。

◯近年の『ちゃお』
加藤みのり『JKおやじ!』については以前少し描いた。ブラコンの父親が女子高生に変装して息子と同じ高校に通う話。なんともフリーダム。
『ちゃおデラックス』の小森チヒロ『メイドは恋する蜂谷くん』がすごい。恋のライバルの男子を追い落とそうとメイドに変装して彼の屋敷で働き出す男の子。しかし意外な一面を知ってときめいてしまって...、という展開。三角関係とBL半分半分どころか、半分以上がBLらしき展開。主人公の妹のキャラデザも、いわゆる「メスガキ」という感じで、オタク文化を吸収した世代の少女漫画表現について考えさせられる。ただ、ライバルの男の子へときめく雰囲気が、どう見ても少女漫画なのだ。『ちゃおプラス』の、『少女マンガのヒーローになりたいのにヒロイン扱いされる俺。』は、より明らかにBLであり、これをベテランの八神千歳が描いているのが非常に興味深い。八神千歳は『溺愛ロワイアル』の強引な迫り方の描写で炎上したが、きちんと読んでみると、ギャグを使った、強引だけれど嫌味のない帳尻合わせが非常に上手いのだった。
『ぼっちざろっく!』のはまじあきが『ちゃお』投稿者だったことを理由に、「少女漫画はもう終わり」論が囁かれたが、小森チヒロなどを見るに、必ずしもそう結論づけられるわけではないのだ。

◯『少コミ』の位置
『Sho-Comi』(かつての「少コミ」)はゼロ年代の過激な性描写で悪い印象がつき続けている。しかし、佐野愛莉の『仁義なき婿取り』は、ヤクザもの少女漫画の中での最高傑作だと思われる。ショタが実は邪悪なヤクザだけれど頼もしい王子様タイプで、ヤクザの娘であるヒロインも普通にボコボコ殴られるので、これぞ男女平等なのだ。しかるべき評価を受けてほしい。

◯『なかよし』の終焉?
『なかよし』をもはや過大評価してはいけない。『しゅごキャラ』以降はかなり苦しい。星野リリィ、西炯子、鈴木おさむ、天樹征丸などを起用したところで、少女漫画の生え抜きが育たない雑誌ならば、気を衒ったものでしかない。

◯『花とゆめ』の現状
師走ゆきがいい。『多聞くん今どっち』が高評価。推しの時代に合っている。ただ、初期の短編『不老姉弟』の雰囲気もまた見たい。



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