見出し画像

競技大会におけるドーピングはなぜいけないのか


ドーピングは、肉体を使うスポーツおよびモータースポーツの競技で成績を良くするため、運動能力・筋力の向上や神経の大きな興奮などを目的として、薬物を使用したり物理的方法を採ったりすること、及びそれらを隠蔽する行為を指す。(ウィキペディアより)


」」」」」」」」

 北京オリンピックたけなわの昨今、冬のスポーツの華の一つ、フィギュアスケート。しかし今回もというか、やはりというかドーピング問題に揺れています。このたびの不名誉な主役はロシアのカミラ・ワリエワさん。令和4年現在15歳。金メダル候補。

 皆さんは15歳のワリエワさんが勝手にドーピング薬を入手して飲んだとは思わず、彼女よりもコーチ陣に厳しい目線を注ぐべきです。泣いている彼女が本当に気の毒。しかし競技上では出場停止措置は当然と思いきや、一転して出場許可がでてしまい、アンフェアが過ぎます。今からでも出場停止にすべきでしょう。

 検出されたドーピング禁止薬品はトリメタジジン。古くからある心臓薬です。日本ではバスタレルFという商品名で散薬も錠剤も現役です。


トリメタジジンは筋肉増強や覚せい剤的な作用は皆無です。しかし心臓薬に使用されるということは⇒⇒⇒健康なアスリートに使うと、持久力を高めます。こっそりでも祖父のワイングラスを使った、知らなかったなどと妙な主張をしてもダメです。彼女はたったの15歳ですよ。長時間の諮問を受けたようですが、とても可哀想に思います。

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

以下は基本に立ち返りなぜドーピングがいけないのかの理由です。ずいぶん前に書いたエッセイだけど、疑惑が後をたたないので、NOTEでも公開します。一応私は現役薬剤師です。

導入部はこれを書いたきっかけの日常からです。

」」」」」」」」」」」」」」」


 ある日の昼下がり。

 えらく体格の良い学生さんが処方箋を持ってきた。よく出る組み合わせの風邪薬だ。顔はまだあどけなさが残るのに、私を頭上から見おろして超低い鼻声で話しかけてきた。

「あのー、ぼく競技大会があるのですが、これ、大丈夫ですか?」

 言葉足らずな話し方をするコだが、私は彼が何を心配しているかすぐにわかった。

「競技大会はいつですか? 陸上? 水泳?」

「あさって。陸上。先生は多分大丈夫だと思うけど、薬剤師さんにも一応聞いてみてって言われました」

「わかりました」

 と、調べる。彼は出された薬を飲んだために、ドーピング検査で反応がでて出場停止になる事態を心配している。ドーピングは「薬をつかった不正行為」のこと。記録をのばすために薬品を使うなってこと。理由は言わずもがなで、アンフェアだからです。

 競技にあたり、違反者は出場禁止、もしくは停止、一定期間選手になれないなどのきまりがあります。それも競技の種類によってこれはOK,これはダメなどあります。だから競技名を聞いたのです。

 単純に鼻水を止める薬だと思って飲んだのに、尿から禁止薬物が出た、ドーピング違反だと指摘されて出場禁止になった実話もあります。わざとじゃないのに、違反で出場停止と言われたら選手として泣くに泣けない。私は少し待っていただいて、慎重に検索した結果OKで大丈夫ですよ、薬を飲んでゆっくり休んでくださいといいました。私のような巷にいる薬剤師は、ドーピングの知識は大体の基本はわかっていても輪郭ぐらいで、全薬品名を把握しているわけではありません。詳細は世界アンチドーピングサイトを閲覧するなどして最新情報をチェックします。本年度版とあっても、禁止薬品がある日突然加わったりすることもありますので気が抜けません。うっかり見逃したために選手が哀しい思いをすることがないようにと気を遣います。

 ドーピング専門の薬剤師も存在します。スポーツファーマシストと言います。スポーツファーマシストさんも認定制度で数は少ないながらも医師同様活躍されています。(ファーマシストは薬剤師の英語読みです。)

 また話がそれますが、薬剤師会はなんでも英語化したい? ので、一般向けではないなあと思う言葉を使いたがりますね。スイッチOTCオーティーシー、インペアード・パフォーマンス(インパフォ)とか……何も全部英語化して啓蒙しなくてもいいのにと思う。

 持病のある選手はドーピング薬品であっても治療上必要な場合にはちゃんと救済処置があります。TUE(Therapeutic Use Exemption)といって「ふだんからこの薬を飲んでますよ、ドーピングというズルじゃなくて治療ですよ」という証明書を提出するわけです。救急医療でステロイドを使われてしまった場合でも、特例として事後報告でのTUE申請もOKなので、もうだめだ出場できない、と思わずあきらめないでと思います。パラリンピックなどではTUE申請が非常に多いと推測され、個人的には内情や実態を伺ってみたいところです。

 日本の選手は臨時の風邪薬でもちゃんとこうして礼儀正しく聞いてくる……これはコーチや競技大会の主宰団体の指導が行き届いているという現れです。公平で正々堂々と勝負する選手で当たり前なのですが、国家や団体ぐるみでドーピングまみれになる論外なこともやるところはやりますので、私はそういうささいなところでも日本の有りようを誇りに思っています。

 ドーピングの種類はそれこそたくさんあるし、増加する一方です。薬品だけでなく故意の自己輸血までドーピングになるので要注意です。遺伝子操作レベルになると血液や尿検査でも出ませんのでよりハイレベルになってきています。事実筋肉だけで脂肪がない牛も誕生しています、お肉ばっかり食べれる捨てるところが少ないお得な肉牛さん~ではなく、これが人間の身体に応用して重量挙げ選手にでも使いましょう、まだ副作用とか詳しいことはわからないけど記録が伸びるだろうからやっちゃおうよ、というところもあるのです多分。

 医療職としては、過去人間が記録を伸ばすためにいかに研究してきたか、こうやったら瞬発力があがる、心肺能力が向上するなど、その進歩には驚くべきものがあり、かつ興味もあります。

 しかし競技大会となれば話は別で、正々堂々と戦わなくてもいいから、どんな手段を使ってでも記録を伸ばしたいと思う人もいるのです。見つからねばいいだろっていう人も。そういう人たちだけが集う非公式な競技会ならば、覚せい剤を使う以外は日本では犯罪でないので開催も自由です。しかし県や国の税金が動く国内大会ではその成績が正式記録となり、国の代表になれるかどうかが決まります。そして国際的な「大会」オリンピックともなれば己の努力とプライドと国の威信がかかるはずです。おのずと厳しい処置が出てきますが、それを乗り越えるためにメンタルと体力を鍛え風邪にも負けぬよう危機管理も怠りなく……それも競技のうちだと私は思うのです。


」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

下記は日本スポーツ協会の公式ホームページです。

ここからドーピングについての記事が詳細に書かれています。


ドーピング検査手順など

 下記は使用可能薬一覧、ドーピングかどうか迷ったらここを見てください。処方薬の場合は薬剤師に相談してください。ドーピングになりますかと聞かない人には薬剤師は薬をそのまま渡しちゃいますので、心配な人は必ず聞いてください。

 また仮にドーピングにあたる薬が処方されても治療上必要な人は、ちゃんと救済措置があります。医師に出場大会規定の証明書を書いてもらえます。

↓ ↓ ↓

anti-doping-med-list_2022.pdf


」」」」」」」」」」」」」

(追記)

 他の2種類も2/16に発表されましたね、カルニチンとハイポクセン。  もう一つのスプラディンはバイエル薬品のサプリメントです。カルニチン以外、日本ではなじみが薄い。いずれもドーピングではありません。でも心臓薬などの選択は、ワリエワが一人でやったとは考えにくいですね。

① カルニチンは脂肪の燃焼作用があるのでダイエットにいいと言われるサプリメントです。元々カルニチン欠乏症に使われていました。代謝異常や肝臓や腎疾患、高齢者の低栄養失調状態を改善する目的で使われています。


② ハイポクセン⇒Hypoxen(酸素消費量を減らすサプリメント、低酸素カプセルという名称、個人輸入で入手可能です。下は文献)


③ スプラディン(バイエル社公式、スポーツに最適とある)

ひとことでいえば、総合ビタミン剤サプリです。

https://www.bayer.com/de/at/supradyn-sport?field_news_context_target_id%5B781%5D=781&page=2


ワリエワちゃん、まだ15歳なのに、たくさん飲んでるのね。


」」」」」」」」」

(2/18追記・4位に終わりました。オリンピックで4位は相当なものですが、金メダルを目指していたコーチ陣から見たら不本意だったのかも。コーチがワリエワを叱責したという記事を見て心痛みました。彼女の心理ケアが必要ではないかな…)

ありがとうございます。