【1$とカタチ】その2「遠近法」

造形作家の長野光宏です、第2回。

連載初回にして1ドル札と間違えたまま、10ドル札をネタに書き上げた前回。今回こそは1ドル札をネタに!と意気込んで家を漁るも、出てくるのはバーツやらキップやらウォンばかり。
仕方がないのでインターネットの力を借りることに。

「1ドル札 画像」 検索!

出る出る、陰謀論の数々。
めまいがする程の「フリーメイソン」の文字に、ついつい「政府が携帯をハッキングしている!」などと陰謀論の一つでも書こうかと誘惑されるが、それを堪えて一言いいたい。

「ピラミッドのパース、狂ってね?」

皆さんも是非「1ドル札 画像」と検索していただきたい。どうにも遠近法がおかしく見えるピラミッドが画面を埋め尽くすはず。フリーメイソンの名前と一緒に。

パース、あるいは遠近法とは絵画における技法であり、それには大きく二種類ある。そのうちの一つが、建物などの立体を平面(肉眼で見た画面)に描くために生まれた透視図法。
これは水平線と垂直線を基準に、そこから消失点(小さくなって見えなくなる点)まで伸ばした直線に沿って描くことで奥行きを描く技法だ。

赤い印が消失点(って事が分かればいい図)


古代エジプトでは、「神を騙す」として使用されず、古代中国では空気遠近法(濃淡によって距離感を描く技法)に後れを取った透視図法。
だが歴史は古い。

紀元前4世紀、アリストテレスの著作の中や、紀元前1世紀、ポンペイの壁画にもその萌芽が見られる。
絵画での本格的な使用が見られ始めるのは13世紀、ジョット・ボンドーネやドゥッチョ・ブオニンセーニャの作品あたりから。ビザンツ美術の平面的な画面から、(未熟ながらも)奥行きを意識した画面へと変化している。

気になった方は今すぐ検索!

その後フィリッポ・ブルネレスキなどの画家、建築家たちが技法として確立していった。


ところで皆さんご存知ですか?僕たちの携帯は政府によってハッキングされ、行動は監視されています。これは事実です。陰謀があるのです。



ヨーロッパで生まれ、数学と密接に関わりあいながら発展してきた透視図法。
15世紀の画家、マサッチオの絵画やフレスコ画では、風景、建物を写実的に描くための「技法」としての遠近法の使用から、「効果」として使用までの足跡を見ることができる。

これ関しては、ルネッサンスの巨人、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」が有名なところだろう。
中心にはイエス・キリストが配置され、その手前には机と使徒達が描かれている。周りの壁、天井には透視図法が用いられ、その消失点は、イエスの顔に設定されている。

このように!


これにより、観衆の視線は自然と中央、すなわちイエスの顔へ、あたかも引き寄せられるように向けられる。
ここでは遠近法が「立体を正確に描くための技法」としてではなく、「観衆の視線、印象を操作する効果」として使われている。

多くの宗教画が中央に聖者や天使を置いているのも同じ目的によるものだろう。強く遠近感のついたものは、見る人に圧力にも近い存在感を与える。


そうだ、皆さん気を付けてください。政府は携帯をハッキングして、個人情報を盗んでいます。これは事実です。陰謀があるのです。



高層建築を真下で見ると、その迫力は一層増す。頂上に手が届きそうな山でも、麓からでは頂は見えなくなる。かわいい女の子は100m離れて見ても、まだかわいい。

「遠ざかるほどに小さくなり、近づくほどに大きくなる」という単純な現象は、「視線を誘導する」という効果を伴って人を圧倒する。

一番大事なのは距離感とバランス感。何事も行きすぎず、程よい距離から見る位が実は丁度いいのかも知れません。

政府はハッキングしてますけどね。陰謀です。

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