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霊チェキ屋

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 このアイデアを、ゲーム化する前提でストーリー仕立てにしました。
 ゲーム導入部分を想定しています。

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 僕はいつにも無く荒れていた。そして友も同じように。
「腹の虫がおさまんねえ、次の店行こうぜ」
「いいね、僕もそう思っていたんだ」
 普段は軽く引っ掛けて飲む程度の二人は、もう日付も回ろうと言う時間にも関わらず次の愚痴会場を求めて彷徨う。
「大体、おめぇの作った衣装の良さをわからない会社なんて辞めちまえばいいんだ」
「そうだよねえ!あれすっごく可愛く作れたんだよ!なのになにが『うちのブランドにはヒラヒラは要らない』だ!そんなんだからネットに『全部同じ服に見える』とか書かれるんだ!」
 僕は道すがらにある電信柱をバンと叩いた。それを見て友はカカと笑う。
「きみの曲も、なんでどの事務所も駄目なんだ?この前の新曲だって、すごく良かったのに!」
 僕は笑う友を指差しながら叫ぶ。酔ってはいるが、あまり大声を出しては迷惑に鳴ってしまう…と思う程度にしなくてはと言う自制心は辛うじて残っていた。
「声でけーよ、んはは」
 いや、残っていなかったようだ。
「昨日来た評価通知にゃ『貴殿の声質が活かされていないように感じました。ポップ過ぎます』って書いてあったなあ。俺はああいうポップでキャッチーな曲が作りてえんだよ!」
「わわ、声おっき」
 飲み屋街はとっくに抜け、いつの間にか郊外の公園まで来ていた。目の前にあるコンビニの灯りで、走光性の羽虫がスパンコールのようにキラキラと輝いていた。
「もうそこのベンチで飲もうぜ、酒買ってくるわ」
「そうだね、あ、お金」
「先行って待ってろー」
 友はそう言うと、横断歩道を渡りコンビニへ入っていった。

「んーここのベンチでいいやー」
 正直歩くのにも疲れた僕は、公園の入り口から最も近いベンチに腰掛けた。公衆トイレを背にする形で、ぐでっとベンチに座る。ベンチ横にある防犯灯が、ジジッと漏電音を放ちながら昆虫採集をしていた。
「はぁー…これからどうするかなあ…」
 背もたれに頭を乗せながら、空を見る。防犯灯の向こうに見える空は、薄い雲で街の灯りを反射していた。星は一つも見えない。
――ジ…ジジジ…ジ…ジジ…
「はぇ」
 防犯灯の漏電音が大きくなり、照明が点滅し始める。公園の通路を挟んだ反対側の照明は問題無く明りを落としていた。
「調子悪い…ちかちかするー違うベンチがいいかなあ」
 点滅する照明の下では落ち着いて話は出来ない、いやそもそも落ち着いた話をするつもりでも無かったな、と少しおかしくなって笑いながらベンチから腰を上げる。
――ジ…パシンッ!
 腰を上げた瞬間、破裂するような音を上げながら、照明が消えた。
「え、あれ?!」
 消えた事に驚いて、そして更に違う事に驚く。身体が動かない。ベンチから腰を上げ、立ち上がった状態で、固まってしまった。
「え、え?えっ?」
 あ、口は動くのか!と思いながらも、混乱した素っ頓狂な声しか出てこない。足、動かない、手、動かない、首、あ、動く、腰…動かない…。
 自由がほぼ効かなくなった身体で、混乱が少しずつ恐怖へと変わっていく。
「え…これ…なに…?金縛り?金縛りって立ったままなるの?」
 ふ、と嫌な事を思い出す。
「え、やだやだ、後ろトイレじゃん絶対なんかいるじゃんやだやだやだ」
「あの」
「はあああああああああああああああん」
「きゃっ!?」
 後ろに全神経が集中している時、左から声をかけられ飛び跳ねる。いや、身体は動かないから飛び跳ねたのは心臓だけど。
 首は動くので見る事はできるが、怖くてそちらを向くことが出来ない。僕はギュッと目を閉じたまま、殆ど叫ぶように返事をする。
「すみませんすみません!どうされました!どなた様ですか!?今立て込んでて、すみません!」
「驚かせてすみません…落ち着いて下さい」
 そこで初めて、声が女性だと気づく。落ち着くことは無理だが、思考回路は少し正常に戻って来た。恐る恐る首を左に振った。
 女子高生くらいの黒髪の女性が、僕をおずおずと見上げていた。肌は白く、夏なのにシャツの上にグレーのカーディガンを羽織り、手をお腹の前あたりでイジイジしていた。
「可愛い」
「へ?」
 脊髄反射で声が出た。網膜から入ってきた視覚情報がそのまま脳を経由せずに口へ流れ出たような、そんな感覚があった。
「あっ、す、すみま…」
 恥ずかしくて視線を下におろした先に、彼女の下半身は無かった。
「やっぱりいいいいいいいいいいいい」
「おい!どうした!」
 公園の入り口から声がして首をそちらに向ける。片手にエコバッグを提げた友が、僕の元へ駆けて来るのが見えた。
「?誰その子…え、ナン…パ?」
 僕の2メートル手前あたりまで来た友は、エコバックを持つ反対の手で女の子を指差したと思ったらそこで止まった。君も固まっちゃうのかよ!と心の中で突っ込んだ。
「え!なになになに!!!」
「僕にもわかんないよ!」
「めっちゃ可愛いじゃんその子!!!」
「そこじゃなくてえ!」
 とっくに酔いは薄れ、現状を少しずつ脳が理解しつつあった。深夜の公園、トイレの前、壊れた照明、動けない身体、足のない女性…。これはもう、言い逃れは出来ない。
「あの」
 何度目かの「あの」を言った彼女の方を向く。対話だ。対話をしなければ。
「僕に何か…動けるととっても嬉しいんですけど…」
「それは…出来ません。本当は一人のつもりだったんですけど…」
 彼女はもじもじと僕を見上げ、ちらと友を見たあと再び僕の目を見た。
「二人には、死んでもらいます」
「…」
 もう声を上げる気力が無かった。やっぱりそうなるのか~と、何故だか諦めの境地だった。
「てかさ」
 急に友が口を開いた。身体はエコバッグを提げ、彼女を指差したままだ。ちょっとその体勢面白い、あとエコバッグ常備してんの可愛い、あと酒買いすぎ。
「その子、おめぇの服めっちゃ似合いそうじゃね?」
「え?」「え?」
 言われて、彼女を見る。胸の下くらいまである黒髪ロングヘア、身長は150半ばだろうか。カーディガンは割とタイトで、上半身だけはスタイルがいい事がわかる。下半身はまあ、無いのだけど…。
「いやいやいや!下半身みて!足ないの!幽霊だよ!」
「そ、そうですよ!私は幽霊ですよ!あなた達を呪い殺す為に来たんです!!何をわけのわからない事を…」
 とうとう幽霊を自称してしまった彼女は、友に向かって声を上げた。
「…ん…?」
 友が眉をひそめた。何か引っかかるような、何か気になっているような、そんな顔だった。
「お前、ちょっとドレミファソラシドって言ってみろ」
「え…?私?」
 友が訳のわからない事を言い出した。長い付き合いだが、いつも物怖じしないこの性格は見習いたくもあり、空気読めとも思う。
「いいから」
 不審がる彼女をよそに、友はなお促す。
「ど…ドレミファソラシド…こうですか?」
「違ぇ!音程つけて!」
「ひぇ…ド、ドレミファソラシド~♪」
 僕は今何を見せられているんだろう。どういう状況?身体は首から上以外は動かない、目の前でポルターガイスト現象が起こり、幽霊が現れ、その幽霊を同じく身体の動かない友達が歌わせている。なんだ、これは。
「…もう1つオクターブ上げて!!」
「ド…ドレミファソラシド~♪」
「これだ…いや、お前だ!!!」
 友は動かない身体の代わりに首をブンブン振る事で、感情を表した。
「友、ど、どういうこと?説明してよ」
「俺の歌をお前に歌わせたい!!!!!!」
「へ?」「え?」
 僕と彼女が同時に声を上げた。
「歌だよ!俺の!お前なら間違いなくヒットさせられる!!俺の歌は俺の声で歌っちゃ駄目なんだ!」
 早口にまくしたてられ、目を丸くしていた彼女は少し友と僕から離れながら手を拒絶するように体の前で振る。
「む、無理です!歌は好きですけど…私幽霊です!死んじゃってるんですよ!!それに、私はあなた達を殺しに来たんです!!」
 そりゃそうだ。死んでるし、僕たちを殺しに来てるし、当然だった。いや、幽霊がいることは当然ではないか…?なんだか、自分の常識がものの数分で置き換えられている事が不思議でたまらなかった。
「どうして…どうして僕たちを殺そうとするんですか?」
 自分達は危害を加えられる覚えはなかった。無差別なのか?少なくとも、対話してみた感じこの子にはちゃんと理由がありそうだった。直感だけど。
「…私、夢があったんです」
 一瞬躊躇ったあと、彼女は下を向きながら口を開いた。
「その夢を叶えないまま、死んじゃった。だから…その夢を叶えたいんです。だから、殺します」
 あまりピンと来なかった。
「お前意味わかんねーぞ」
 それは友も同じようで、ズバっと言ってくれた。ナイス。彼女はうっと顔をしかめ、下を向いて数秒黙った。
「…私の夢は、誰かと同じお墓に入る事だったんです!」
「は?」「え?」
 今度は僕と友が同時に声を上げた。
「わわ、私ずっと独り身で、彼氏いた事もないし、でもいつかかっこいい旦那さんと結婚して、幸せになって、一緒のお墓に入りたいなーって小さい頃から思ってて」
 急に饒舌になった彼女を、僕と友は呆然と見ていた。彼女は実体が無いのをいいことに、浮遊しながらその場でくるくる回っている。幽霊的照れ隠しなのだろうか。黒髪が花びらのように開き、お淑やかさと華やかさを感じる美しいモデルのようだった。
「なのに急に事故で死んじゃって、もちろん親も予想してなくて、おじいちゃんとおばあちゃんと同じお墓に入ってて…」
 回るのを辞め、しゅんと下を向いて止まった。
 僕は僕の中に、「どうにかしてやりたい」という感情が沸いて来ているのを自覚した。
「だから…殺して一緒のお墓に入れて貰おうと…」
 今にも泣きそうな、か細い声で彼女は言葉をこぼした。
「いや殺したらその人のお墓ができるだけでお前は入れないだろ」
 友、正論どストレートやめてあげてよ。
「…!!!!」
「君も今気付いたんだ…」
 ふっと、身体の硬直が緩んだ。唐突に緩んだせいで、僕も友もよろける。
「…本当ですね…私、昔からドジって良く言われてたけど…ドジは死んでもドジなんですね…」
 足も無いのに器用に体育座りをし、いじけ出した。僕は一層、助けてやりたい気持ちになった。でも…。
「力にはなれない…残念だけど…。一緒のお墓には入れないし…君のためのお墓を作って上げたいけど…お墓って確か結構な値段するよね…」
 現実問題、既に亡くなっている人と同じお墓に入るのは無理な気がした。力になりたいとは言え、見ず知らずの、しかも既に死んでしまった人のためにお墓を立てる程の経済力はない…。
「まて、お前、こいつに触れるか?」
 唐突に、友が僕を指差しながら彼女に言った。なんだか幽霊に対して威圧的なの、ちょっと面白い。
「え…はい、触れますよ。ほら。服もつかめますし、自分の意思で触りたいものと触りたくない物を選べます。あと、姿が見えるかどうかも」
 そう言って彼女は僕に近寄り、僕の右手を握って見せた。体温を感じない、けど柔らかい、動くシリコンのような感覚で「本当に死んでるんだ」と再認識した。その後彼女は僕の座っていたベンチをすり抜けて後ろに行って見せたり、僕たちの目の前から姿を消したり出したりしてくれた。
「便利だね~」
「カメラには映るのか?」
「写りますよ~、写ろうとすれば、ですけど」
 なんとなくのほほんモードに戻ってきた僕だったが、友はそうではなかった。
「行ける…」
 顎の下を手でさすりながら、うんうんと唸り顔を上げた。
「行ける!!!!!」
「な、何が?」「?」
 友が新曲の構想を思いついた時のようにキラキラとした目をしていた。
「お前、俺の歌を歌え」
 友は彼女を指差しながら言った。彼女は目をぱちくりさせ、「歌…?」と首をかしげる。僕も同様に首をかしげた。
「そして、こいつの作った衣装を着て踊れ」
「へ?」
 今度は僕を指差して言った。え?なに?僕の衣装を着て踊る?
「なになに?どういう事?」
「踊るってなんですか?え?なんですか?」
 友は混乱する僕たちをまぁまぁと制止するように手を前に出し、んん!と咳払いをして、宣言した。
「お前のお墓を俺たちで作る!」
「…へ?」「…えっ」
 僕と彼女は呆然とするしかなかった。何を言っているんだ?僕たちで?たち?
「え、え、僕と友で作るの?お金無いんじゃ…」
「ちげえ!」
 狼狽えながら質問する僕に、友はバッと手をかざした。彼女はというと、ぽかんと口を開けて僕たちのやり取りを見ていた。
「コイツに歌を歌わせる」
「…うん、さっき歌って欲しいって言ってたね」
「そして、おめぇの衣装を着せる」
「え?」「衣装…?」
 彼女が"衣装"というワードを復唱する。
「それから、コイツをアイドルデビューさせてボロ儲けして」
「…は?」「…はい?」
 今なんて?アイドル?デビュー?ボロ儲け?
「それで、コイツの墓を立てる」
「ま、……まてまてまてまて、友なに言ってるの?」
 本当に脳が追いつかなかった。友はいつも突拍子もない事を言う人だが、今回はぶっ飛び過ぎだ。何を言ってるんだこの人は。僕たちを殺そうとしてきた人をアイドルにする?いやその前に幽霊だよ、いや幽霊に殺されそうになるって凄いシチュエーションだな、いやそうじゃなくて!幽霊のアイドル!?僕の服を来たこの子が、友の歌を…。あれ?いいかも。いやいや!そんなの聞いたこと無いよ!
「やります」
 か細く、けれども芯のある声が通った。友はにんまりと笑いながら「ほっ?」と声を上げた。僕はというと未だ押し寄せる全ての混乱に声も出せないでいた。
「私、アイドルになります!!!!!!」
 彼女は顔を上げ、胸の前でガッツポーズを作りながら叫んだ。
「お墓のために!!!!!!!」
「…ほんとに…?」
 目眩のような感覚に襲われ、空を仰ぐ。頭上では防犯灯がジジと鳴いて明りを灯した。

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『ネット映像配信でライブをして、チェキを撮ろう!
チェキを撮るとマイルがたまるよ!
10回チェキを撮ると1ハカマイル貰えるよ!
10ハカマイル溜めたら、お墓参りをしてアイドルを成仏させよう!』

ゲーム性:
友が作った曲に合わせて、キャラの相性、衣装の相性などで採点される
キャラや衣装にはステータス「可愛さ」「かっこよさ」「踊りの上手さ」「歌の上手さ」「身体的スペック」等が登録されており、それらをどう組み合わせるかでファンが増えたり減ったりする。
物語をすすめると、他の霊を紹介して貰える。
他の霊の紹介を受けずに、一途エンドもある。

一度成仏したキャラは二度と登場しない。
10ハカマイル貯まると、お墓が立てれるけど、墓参りをしないと成仏はしない。

基本的には、日本の有名な幽霊や妖怪(トイレの花子さん、口裂け女など)を成仏させて回るゲーム。


提供者:satori
所感:めっちゃおもろそう。

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