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J. サグレラス「マリア・ルイサ」〜 「青本」和声分析37


J. Sagreras: Maria Luisa 概要

昔、村治佳織の演奏で流行った「はちすずめ」の作曲者の作品。
イ短調。A - B - Aの3部形式。中間部ではハ長調に転調。
拍子は3/4で伴奏はそれから外れることはないが、旋律はヘミオラ的なものが頻出すると捉えてもいいかもしれない。
和声はシンプルなものだが、一見教科書的な和声進行になっていないような部分がある。

和声分析

A1

12小節目までは特に変わったところはないが、その後のIの第二転回形からが教科書的な和声とは違ったものとなっている。

Iの第二転回形からドッペルドミナントというのもイレギュラーな感じではあるが、ここをホ長調で捉えるとIVの第二転回形からVの基本形への進行となり、これもまたイレギュラーな進行だ。
これを「フォーレ終止」だと聞いたこともあるが、検索して出てくるそれとはちょっと違ったりするので詳細不明。いずれにしても出てくるのは「近代」といったところか。
尤も、バスのE音をミュートしなければ属音の上での動きということで古典的な和声の範囲内と捉えることもできる。

イ短調の導音Gisが下段最後まで登場しないのも意識してみてもいいかもしれない。

A2

基本的にはA1と同じ。最後は前半と違って通常の終止形となっている。

B

ここからハ長調に転調。
34小節目で第3音が省略されていたりB音が出てくるあたり、素直なハ長調ではない印象。かといってニ短調的というほどではないか。

45小節目からが古典的な和声の考え方でいくとまた不思議な感じになっている。
譜面で見ると45小節目でまずIの第一転回形となり、直後に第二転回形となって、そのまま終止形に入っているように見える。こういった進行は通常は行わない。またIの第一転回形で第3音を重ねるというのもあまり良いものとはされていない。
しかし実際に聴いてみても特に違和感はないし、Iの第一転回形をオマケのようなものと考えて、IIからIの第二転回形という通常の進行としてもいいのかもしれない。

その後の46小節目も楽譜で考えると通常の和声進行ではない。
Iの第二転回形からVの七の和音の第三転回形という進行は可能だが、その場合その後に続くのはIの第一転回形となる。
ところがここではIの基本形へと進んでいる。
楽器で弾く場合も3拍目でG音から指を離すから音は消えてしまう。
尤もここも、3拍目に休符を置いてあったら通常の進行となってしまう程度の話ではある。

ややこしいことを書いてはみたが、実用としては(他の部分でも同様ではあるが)ドミナントからトニック等の和音の解決を自分がどう感じ、表現するかという話になるだろう。


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