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赤本に射精する受験生のように。

将棋の終盤には、「寄せ」という概念がある。
相手玉を詰ませることが将棋の究極的な目的であることは言うに及ばないが、詰みに至るまでの道程では寄せが肝要。
つまり、寄せとは相手玉を追いやって追いやって詰めるまでのプロセスを指す。

寄せについての格言は枚挙にいとまがない。
「王手は追う手」
「金はトドメに残せ」
「玉は包むように寄せよ」
まさに実践で必須となるアフォリズムだが、これがなかなか指すとなると難しい。
ある程度の定跡を覚え、序盤・中盤と巧みに指せるようになっても、寄せが下手ではどうしようもない。
それほど、寄せとは勝利に欠かせないプロセスなのだ。

では、どうやって寄せの感覚を養うか。
これは難儀な命題だが、持論を展開するなら、こうだ。
まずはプロ棋士の棋譜を並べてみる。
特に終盤に意識を集中し、次の一手を考えてみたり指し手の意図を咀嚼することが大切。
棋士の呼吸を体感するといい。
しかし、理解に苦しむ局面や指し手は星の数ほどある。
なぜなら、プロ棋士は人生を賭して将棋を指しているのだから。
アマチュアの及ばないところはやむを得ない。

そこで、だ。
私はこれこそ太鼓判をおして奨励したい。
金子タカシ『寄せの手筋200』
この名著を熟読し、ときには盤に並べてみて、寄せの手筋を吟味するのだ。
もう、それだけで終盤はアマ有段者と互角にやりあえるのではないだろうか。
金塊のごとき寄せの手筋が溢れんばかりに収録されているのだから、それはそれは骨が折れるし根気が要るが、寄せを制する者は将棋を制する、ひとえに強くなりたいなら読まない手はない。

余談だが、大学受験を経験した者なら「赤本」は知っているだろう。
大手予備校が出すものは「黒本」や「青本」とも呼ばれている、例のあれ。
多くの受験生は赤本で実践形式の演習を繰り返し、また、自身の誤答を入念に振り返るのではないだろうか。
私は、『寄せの手筋200』を赤本のように思っている。
詰みにたどり着くための実践的な演習としても使えるし、自身の寄せの甘い部分を見つめることにも使えるし、これは毎日読んでも有意義な本なのだ。

この本に射精するくらいの気持ちで読むといい。
きっと最高のオーガズムがやってくる。

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