ヒマ

暇の過ごし方と見つけ方

本来 ヒトはヒマだった
そしてそれを受け入れることができた
世界中のいたるところ 
その足跡を見つけることができるだろう
大仏 ピラミッド 巨乳 万里の長城
この世の多くのデカイものの
発想自体がヒマの賜物
地図を作ったやつのゆとり
並大抵のものではあるまい
うるう年に気づいたやつのヒマさかげんを
想像してみろ
(スチャダラパー『ヒマの過ごし方』)

ご存知、スチャダラパーの『ヒマの過ごし方』である。
実家で過ごすお正月。まさに、ヒマそのもの。2019年のスタートではあるが、今年いちばんのヒマなひとときと言っても過言ではない気がする。

さて何をしよう。

Kindleに入ってる本でも読むか。昔懐かしいアルバムでも開くか。犬とゴロゴロ戯れてみるか。掃除でも手伝ってみるか。などと考えてもみるものの、どれにも手を出さずにコタツでごろり。東京にいたら、きっと何かで時間を埋めようとするものの、実家では何もする気が起きないものである。せっかくなんで、ヒマな時間をヒマなまま過ごしている。

iPhoneで「巨乳」を検索してみたりして。

熊「ご隠居、いるかーい」
ご隠居「おや、熊さん。突っ立ってないで、まぁこっちへおあがり」
熊「それじゃ、あがるよ。どうだい、あがったよ」
ご隠居「それで、今日は何しにきたんだい?」
熊「ちょっとヒマだったもんでね、考え事してたわけよ」
ご隠居「熊さんが考え事?珍しいことがあったもんだね」
熊「おれにだってアタマがくっついてるからね」
ご隠居「何を考えてたんだい?」
熊「ヒマについてよ」
ご隠居「ヒマだからヒマについて考えてたわけか。ヒマだねぇ」
熊「それでちょっと気になったんで、教えてほしくてね。このヒマってやつは、いつやってくるんだい」
ご隠居「そりゃヒマなときだろう」
熊「そのヒマなときってのがいつやってくるのか教えてくれ」
ご隠居「ひとそれぞれだよ、そんなもん」
熊「ご隠居のとこにもやってくるのかい?」
ご隠居「そりゃ、あたしのところにもやってくるよ」
熊「ほう、いつの話だ?」
ご隠居「熊さんがやってくるまでヒマしてたから、さっきの話だよ」
熊「ほう、それで、ヒマはどこにいった?」
ご隠居「どこいったって、どういうことだい?」
熊「さっきまでヒマで、おれがきたからどこかにいったんだろ?」
ご隠居「どこにもいってないと思うがね」
熊「とすると、いまもヒマかい?」
ご隠居「ヒマではないな、こうして話してるし」
熊「話してるときはヒマじゃないのね。じゃあ、ヒマだなぁと思ったときに、ぶつぶつ独り言なんてするけど、あれはヒマじゃないのかい?」
ご隠居「それはヒマと言って良いだろうね、ひとりなんだから」
熊「なるほど、ヒマはひとりのときにやってくるのか」
ご隠居「誰かといるのにヒマってのはないから、そうだろうね」
熊「でもカカアと一緒にいるときなんか、あいつ、ヒマだな〜ってよく呟いてるよ。あれはどういうことだ?」
ご隠居「お前のことが見えてないんだろう」
熊「失礼なやつだな」
ご隠居「まぁ夫婦ってのは、そんなもんかもしれないね」
熊「ってことは、夫婦にはよくヒマがやってくるってわけか」
ご隠居「ヒマがないと子供も生まれないからな」
熊「なるほど、子供はヒマが連れてくるってことか。するってえと、コウノトリってのはヒマのことかい?」
ご隠居「トリとヒマは関係ないよ」
熊「トリにはヒマがこないんで?」
ご隠居「ヒマな動物ってのは聞いたことないからねぇ」
熊「じゃあ人間にしかヒマはこないんですな」
ご隠居「そういうことだろうな。人間の贅沢ってやつだな。寄生獣って知ってるかい?」
熊「アメリカで話題になってるやつだろ?ときたま乱射事件なんて怖い話もあるもんなあ」
ご隠居「それは寄生獣じゃなくて銃規制だな」
熊「なんの話だっけ?」
ご隠居「寄生獣って漫画があってだな。そこに出てくるミギーってやつが良いこと言ってたぞ」

「道で出会って知り合いになった生き物が、ある日突然死んでいた。そんな時、なんで悲しくなるんだろう」 
「そりゃ人間がそれだけヒマな動物だからさ。だがな、それこそが人間の最大の取り柄なんだ。心にヒマ(余裕)がある生物、なんと素晴らしい」

熊「なるほどなぁ。ヒマってやっぱ大事なもんじゃねぇか。ちゃんとヒマを大切にしてるかい、ご隠居」
ご隠居「熊さん、あんた隠居って言葉の意味を知らないようだね」
熊「そんなご隠居に聞きたかったのは、ヒマの見つけ方よ」
ご隠居「ヒマの見つけ方?」
熊「いやねぇ、さいきん八の野郎が付き合いが悪くってね、いくら誘っても、ヒマがねぇヒマがねぇって言ってて、ヒマを探してるけど見つからないみたいでね」
ご隠居「なるほど、だからヒマを見つけてやろうってのか」
熊「その通りよ。あいつヒマを探すのに忙しそうだから、代わりにヒマなおれがヒマを探してやろうと思ってね」
ご隠居「なんだか話が分からなくなってきたね」
熊「とにかく、ヒマの見つけ方を教えてくれい。石をひっくり返しても、木を蹴ってみても、ぜんぜん見つからないもんで」
ご隠居「虫を探してるんじゃないんだから。そんなとこ探したって無駄に決まってるよ」
熊「それじゃあ、どこを探せばいいんだい?」
ご隠居「それ相応の準備が必要だよ。寒いのは平気かい?」
熊「んなもん慣れっこだよ、うちの長屋みたことないのかい?」
ご隠居「壁にも穴空いてて、いつも寒そうだったな。じゃあ、足腰は鍛えてるかい?」
熊「うちの長屋みたことないのかい?」
ご隠居「そういや毎日穴を埋めるために大工仕事やってるもんな。それじゃあ、山登りは得意かい?」
熊「だから、うちの長屋みたことないのかい?」
ご隠居「そういや山の上にあったもんな。よく住んでるな。まあいいや。教えてやろうか、ヒマの住処を」
熊「ほ〜、ヒマの住処! それはどこにあるんでい?」
ご隠居「ネパールと中国の国境沿いにあってだな」
熊「ちょっと待ってくれ、ご隠居。もしかして、ヒマってのは外国産かい?」
ご隠居「ああ、そうだ、天然のものが良いだろ?」
熊「養殖でも構わないから、国産にしてくれ。そういやこの前、ヒマをつくる、って誰か言ってたなぁ」
ご隠居「隣町の和尚さんじゃないか?」
熊「あー、そうだったかもしれないっ!和尚さんがヒマをつくるって言ってたな!こうしちゃいられない!ちょっと行ってくらあ」
ご隠居「今から行くのか? お茶でも飲んでいきなよ。将棋でもさしながら、話相手になってくれんかい?」
熊「悪いな、ご隠居、そんな無駄話に付き合ってるほど、ヒマじゃないんで」


徒然なるままに、毒にも薬にもならないことを書いてみました。
ぼーっとヒマにまつわる話を考えてみたけれど、ヒマの正しい過ごし方ってのは分からないもんで。

ただ、ひとつだけ言えるのは、
ここまで読んでくれたあなたこそ、
いちばんの暇人ですね。

おしまい

最後まで読んでくださり、ありがとうござました! 映画や落語が好きな方は、ぜひフォローしてください!