作る人の献立学 (ちょっと長文😅)

はじめに
主に家庭料理で、あまりにも当たり前に一日3食の食事を準備されているかたに「今日何を食べるか」を繰り返し絶え間なく考えることを、少し客観的に献立というものからお話しようと思います。今回は長めですが、お付き合いいただけたらうれしいです。

1.私と献立
(1)習慣化された「食事のスタイル」
私は栄養指導をするときにクライアントの食事記録を使います。食事記録といっても“食べた物を書き出したレベル”のメモです。まず献立を拝見したいのです。献立を見ることで大まかでもクライアントの「食の傾向」が把握できます。

自己紹介でもお話しましたが、私の栄養士としてのスタートは学校給食なので、まさに献立のことでアタマがいっぱいになる日々でした。数か月先の献立をいろいろな条件も加味して考えるお仕事。一日3食のうちのたった1食が、これほどの情熱と労力を費やして作られていたことが作る側になって初めてわかりました。そして学習の一環として「生きた教材」である給食が、献立をもとにするからこそ健康に資する食事のお手本として存在することを強く認識しました。学校給食時代に私は職業病的な変わった習慣が身につきました。それは“食事をしているときに次の食事を考える”というもの。自分では特別なこととは思っていなかったのですが、人から見るとどうやら「特殊なこと」のようです。しかし私の場合献立は“前の食事とあとの食事との関係があるもの”だんだんと忘れないうちに考えをまとめられるようになっていました。そして学校給食の栄養士デビューと同時に母が亡くなり、実家の食事作りも私の仕事になったので、給食の献立は私生活でも頼りになるものだったのです。
ちょっとしたポイントをつかめば、献立は栄養バランスの整えかたにも配慮した食事の習慣になります。まずは日々「食事を作る人のため」の献立について考えてみようと思います。

(2)なぜ給食はパターン化するのか?
この文章を読んでくださっている方のほとんどが学校給食を食べた経験のある方だと思います。皆さんそれぞれに印象的な学校給食の献立がひとつふたつはあるのではないでしょうか?(作っていた側からすると、どうかひとつぐらいは思い出せる献立があってほしいと切に願います!)

学校給食は制約だらけの食事です。一日3食のうちの“たった1食”なのに、その1食に費やす知恵と情熱と、衛生管理の労力は本当に凄まじいものがあります。まず最優先の制約は「時間」絶対に何がなんでも給食は時間に間に合わせなければなりません。一年に数回、学校行事の関係でイレギュラーな給食時間への対応もあり、まさに“そんな日のための絶対間に合う給食”の決め手も献立です。次に「予算」お預りする給食費で作ることは、野菜などの生鮮品の価格変動にも対応しつつとなると緊張の連続です。社会情勢や環境変化にも左右される給食。今現役で学校給食に携わっている方たちのご苦労に現場を離れても頭が下がる想いでいます。
他にも給食を食べているだけでは気付かない制約を挙げると「食器の数」があります。お盆に食器が乗っている“あのスタイル”を思い浮かべてください。食器の数がいくつの給食ですか?仕切りの付いた大きめのお皿を使った給食もあったりしますか?家とは違って給食室では、限られた納場所に500人とか1000人近い人数の食器を保管します。また、当然給食の片付けも時間内にします。もちろん食器洗浄機と食器乾燥機を使いますが、一度で校内で使ったすべての食器が片付けられるようにすると、1食の献立で「出せる料理の内容」はある程度決まってしまいます。今振り返ると、まさに制約を掻いくぐって“栄養バランスのとれた子どもたちの喜ぶ献立”を私は途切れることなく考えていました。
また学校給食の献立作成における大切な制約には「調理設備と人員」があります。人員は児童生徒数によって決められますが、調理設備は微妙に給食数(その学校で給食を食べる人の数)に見合わない場合もあります。(児童生徒数や学級数などは、徐々に増加することがたまにあるので…。)栄養士も調理の手としてカウントされている場合もあります。私は献立作成に調理作業の経験は必要と思っていたので、出来るだけ調理もするようにしていました。献立作成のときに「出したい料理がどのくらいの作業を必要とするか」を知るには、作る経験が不可欠と感じていたからです。

『学校給食の献立がパターン化する理由は、制約にあり』
給食の献立は、さまざまな制約をクリアして生まれた“ベストな組み合わせ”といえます。特に児童生徒数や給食設備は急には変えられないし、栄養士の力ではどうにもできないことなため、うまくいったメニューはなかなか変わらずパターン化してしまうのです。逆な見方をすれば、くり返し出し続けている献立は、栄養面でも作業面でも嗜好面でも“三方善し”の無敵の献立。
家庭の献立における制約は何でしょう?時間がないとか食費を節約したいとか、料理が得意でないとか…。便利な時代ですし、選択肢の豊富な現代。便利なものも活用して制約を掻いくぐるとか、制約をクリアにすることを少し優先させることが「作るストレス」を解消するヒントかもしれません。

“憶えている給食の献立”を見様見真似で作ってみるのもいいかもしれません。

(3)献立は「栄養バランスの基本でお手本」
学生時代『遍食』という言葉を教えてくださった先生がいました。好き嫌いの“へんしょく”は偏食と書きます。こちらは「かたよる」という意味の漢字です。教わった“へんしょく”のほうは「めぐる」という意味の漢字です。広くいろいろな味に出会う食べたかたが健康のためにも大切という話で“なるほど!”と感心したのを覚えています。私も最近はまさに「たくさんは食べられなくなったこと」を実感するので、いろいろなものを少しずついただく食事を目指しているので改めて『遍食』を意識しようと思うところです。

学校給食では3食で食べものを分類して、3色がそろう食事を意識することで栄養バランスもとれるめやすにしていました。覚えていますか?
黄色…熱や力になる食べもの(米、パン、麺、芋類、油脂、砂糖)
赤…からだをつくる食べもの(肉、魚、卵、大豆大豆製品、牛乳乳製品、海藻)
緑…からだの調子をととのえる食べもの(野菜、果物、きのこ)
大人向けには「食事バランスガイド」が一般的でしょうか。

農水省や厚労省ホームページにも掲載あります。


主食・副菜・主菜を揃えて食べることで、栄養バランスの整った食事のスタイルのめやすになるものです。まさに「献立先行の考えかた」です。
(単品メニューの栄養バランスのとりかたなどについては、また別の機会に書く予定です。)お気付きのかたもいるかと思いますが、副菜が先なんです。おかずよりも野菜がたくさん入った汁物を優先させると野菜不足解消にも役立ちます。例えば私は夕食に汁物を多めに作り、翌朝まで食べるようにします。朝はご飯を炊いてちょっとしたおかずを出せば、なんとか献立のカタチは整います。一日3食汁物を食べてしまうと塩分のとり過ぎにかなり近づくので、昼食はサラダや野菜の料理を選ぶと「野菜から食べて血糖値の急上昇を起こしにくい食べかた」にもなります。

今回はここまでにします。次回は献立を決めるための要素などについてまとめてみます。


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