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「生」でしか分からないことをnoteで【パリのデモ編】

 オーロラ編に続いての第2弾。今度はパリでの話。

軽い気持ち
 
卒業旅行の直前。2018年の11月17日に、フランスのパリで「黄色いベスト運動」という大規模デモが行われた。それは毎週土曜日に断続的に開かれていた。
 12月8日、土曜日。卒業旅行と被った。エッフェル塔やルーヴル美術館、オペラ座。行きたいね、と話していたところ全てが閉鎖された。
 前日には「デモがあるらしい」「大規模だって」となんとなくの情報は掴みつつも、日本のデモみたいなものを想定していた僕たちは「意外となんとかなるっしょ」。明日は朝から凱旋門に行こう!と呑気なものだった。そしてあわよくばデモを見に行こう、とも考えていた。

 僕らはその恐ろしさを何も知らなかった。 

2018年12月8日第四週―「アクトⅣ」
 パリは4週間連続で抗議活動が起きた。ルーヴル美術館、エッフェル塔、パリオペラ座も閉鎖され、多くの店が襲撃を予想して、店に板を打ち付けた。警察はエリゼ宮殿の周りに鉄柵を立て、暴力を抑制するために路上に装甲車を配備した。(Wikipedia)

 デモ当日、凱旋門までのメトロが封鎖されていた。冷静になるとそれだけの危険性を孕んでいる訳だが。ならば少し遠いところで降りて歩いて行こう、となった。

 凱旋門でそのデモは開かれていた。向かう人はまばら、そしてそのまばらな人たちは〝黄色いベスト〟をつけていた。

 凱旋門までの道は遠かった。いや、複雑だというべきか。至るところが通行止め。警察もうじゃうじゃといた。
 一向に辿り着かない。諦めるべきか、と思っていたところで、警察官が何かを確認しデモの人々を通していた。
 パスポートだった。

 「デモへの参加は革命を経験した私たちのDNAに根付いている」。(中日新聞「パリ デモの権利 いつでも」)

 こうフランス人が話すように、警察も参加する人を止めはしない。抗議する権利の尊重だろう。僕らもパスポートを見せると、ボディチェックもそこそこに通してくれた。
 こうしてスタートラインに立った我々は、凱旋門へと足を進めた。

 想像を超えていた。凱旋門は封鎖され、至るところに警察官。2005年以来だという装甲車までもが準備されていた。

いざ行かん
 自分は一眼レフカメラが趣味だ。この貴重な光景を収めたい、という気持ちが恐怖を勝っていた。
 デモは新たな課税からのガソリン価格の高騰への抗議。そして若者の失業と生活費の高騰に対しての政府の無策が理由だと言う。
 シャンゼリゼ通りを歩くと、「マクロン辞任しろ!」の声が鳴り響く。プラカードを持ち主張する人もいる。ただ、カメラを向けると笑いかけてくれたりポーズを取ってくれたり。
 参加するだけで意味がある、と言われた気がした。

 見応えがあったしフランス人の価値観にも触れた。さあ帰ろう、と思ったその時。
 ダーン!ダーン!という何かを発砲した音が鳴り響く。警察官からの催涙弾だった。
 逃げ惑う人々、凱旋門から逆流してきた人に押され、道を進むと正面には機動隊の列。

 小道へ進むと催涙弾が。
 目が開けられない、息ができない、喉が痛い。苦しい。涙が止まらない。
 前の週には催涙弾の破片で一人の死者が出ていた。命の危機を強く感じなんとか逃げ出した。

デモの裏側
 その後凱旋門を離れても、救急車が15台連続で遠ったり、乗ったUberの運ちゃんが「never seen」って言ってたり。ファイターズ(デモに参加する市民。フランス人はこう呼んでいる)が街中に火を付けてる動画も見せてもらった。ご飯食べる店も慌ただしく16時で閉めてたし、扉を割られないようにテーブルやイスを使って強化していた。

 驚いたのはストレス発散にだけでも行こうという若者がすごく多かったこと。参加してる人たちの中にはオーシャンゼリゼを歌ってたり、楽しんでいる雰囲気もあって、あくまでも怖いだけの、マイナスだけのイメージは消えた。

 それでも3000人ほどの死傷者を出し、1968年以来の最悪の混乱と言われているこのデモにのこのこと参加してしまったことは良いことではないのだが。

生の力強さ
 大勢が起こす影響力は計り知れない。それはエンタメにも通ずると思う。
 超満員で歓声をあげてライブを観ること。無観客でライブを観ること。
 超満員で、応援歌を歌いながら野球を観戦すること。5000人で、手拍子のみで観戦すること。

 コロナ前とコロナ後で、選手のプレーや歌手のライブの質はなんら変わりない。つまり観客の「生」の声があって、エンタメは今まで成り立っていたと改めて思う。
 参加者の力次第で企画や興行がより良くなる。参加することの大切さを、コロナとデモという物騒な2つで学んだ。
 やっぱり「生」が一番。ビールにも言えるこの一言を、はやく堂々と言える日へ。待ち焦がれている。

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