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尾道(広島県尾道市)〜50分の尾道散策〜

 この日、青春18きっぷを使って瀬戸内海に面した町を巡る旅に出た。少し前には「瀬戸内海に浮かぶ島を全部巡る」なんてことも考えたりしたが、ちょっと人生を終了するまでに達成するのは難しそうだ。今回は島ではなく本土をメインに、まずは尾道へ足を伸ばした。

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 この町は既に何度も足を運んでおり、本来であれば立ち寄る必要はない。しかし、車窓に飛び込んでくる風景が、「何となく立ち寄りたくなる」という気持ちにさせてくる。「海の見える駅」といえば色々あるが、この駅だって海が見える。海と認識するには、この水道は少し狭いかもしれないが。

 改札を出ると、サイクリストたちが雨宿りをしながら、この後の予定をどうしようかと逡巡していた。この日は雨が強いだけでなく風も多少吹いていたのに、大したものだと思う。他人の楽しみというのは、時として理解しにくいというもの。しかし、だからこそ尊敬できるという一面もあると思う。

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 駅前の商店街を通っている。南を見れば、路地から海が顔を見せる。振り返れば、密集した建造物が厳かに鎮座している。斜面に建てられた建築物群は、一見無造作にも見えるし、逆に秩序立っているようにも見える。この町が見せる顔は多種多様、だから何度訪れても飽きないのかもしれない。

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 古寺を巡りならが、ふと海の方へ顔をやる。しかし、そこに海は見えない。大きなクレーンが、辛うじて港湾か造船の施設かと思わせるくらいか。山間部の小京都と言われても特段違和感を持つこともないかもしれない。実際には、奥の山は既に海を隔てた向こう側の島にある。瀬戸内の町は、こういう場所が多い。地理的に古き時代から発展してきたことは何となく分かるが、それにしても、よくこんな場所に町ができたなと思うばかりである。

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 ふと左右を見渡せば、器用に敷き詰められた民家を見ることができる。人が住んでいるのかいないのか、曖昧な感じも良い。これも尾道の個性的な部分かもしれない。狭い区画に、商店街も、住宅地も、古寺群も、港も、全てが集積している。数百年前、日本の街というのは、どこもこんな感じだったのかもしれない。そういうものは古地図を見れば分かることかもしれないが、足を運んで得た雑感に思いを馳せるのも、また一興だろう。

 結局、滞在時間は50分程度しかなかった。この後のこともあったので、時間を割くわけにもいかない。しかし、その50分さえも濃密な時間にしてくれるのが、この町の魅力だ。尾道という町は、何度来ても迷い込んでしまう。そして、この町で生まれたわけでも育ったわけでもない自分を、ノスタルジックの中へ吸い込んでいく。

 この町を歩くのに、ガイドブックは必要ない。アテをつくらずに、自分の足で歩いてみる。それだけで、有意義な時間を過ごすことができる。そんな町だ。

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