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人に困らない経営 〜すごい中小建設会社の理念改革〜(読書メモ)

中小企業向け理念経営の教科書となる良書です。

本書は「働きがいのある会社」ランキングに5年連続ランクインや、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の審査委員会特別賞の受賞実績を持つ三和建設・森本社長が、同社を成功に導いた理念経営の秘訣を纏めた1冊となっています。

また、中小企業&建設業という、人に関することにおいて最も「困りそう」な会社における経営の考え方やその実践例が詳細に記されています。

では、いつも通り特に印象に残った内容をピックアップしていきます。

経営理念は繰り返し伝える

経営理念は形骸化してるケースが大半ですが、浸透するかはシンプルにトップが繰り返し伝え続けられるかで決まる気がします。

そして、経営理念をあらゆる取り組みや事象と無理矢理にでもくっつけるといった、この後付け理論も納得感あります。

経営理念は単なる言葉に過ぎないので、そこに意味をもたせ、その概念を広げていく努力が必要である。そのためには、経営者自身の責務として、とにかく理念を繰り返し伝えていかなければならない。同じことを繰り返し伝えることを面倒くさがる人は多いが、誰にどう思われようとも必要なことは何回でも繰り返すべきである。
先行していた取り組みの意味づけや経営理念との整合性確保の多くは後付けなのである。多くの経営者が、ビジネスモデルは後付けだといっているが、それと同じことだ。

組織はトップが求める方向に向かう

その通りだと思います。だからこそトップは結果責任も重く、ブレない意思決定が求められることを再認識しました。

経営理念はトップの願望や価値観そのものであると私は思う。そして、組織はトップが求める方向に必ず向かう。
経営者が意思決定をあいまいにしておきながら、望まぬ結果が現場に生じることを嘆くのは筋違いである。会社に生じることはすべて、よいことも悪いことも、経営者に 100%の責任があり、この結果責任は誰ともシェアできない。会社で起きていることは経営者の願望による結果でもあるからだ。

ルールや規範などは明文化して伝える

社員がすぐに行動に移せる粒度で明文化することは大事ですね。抽象度が高い経営理念を聞くだけでは到底理解できません。手帳形式は良さげなので一度検討したいです。

2013年に「つくるひとをつくる」という経営理念を定めてから、三和建設は大きく変わった。すべての経営資源を理念の実現のために集中させて、「つくるひとをつくる」を目に見える形で会社のしくみの中に落とし込んでいった。額に飾るだけ、唱えるだけの経営理念ではなく、徹底して仕組みの中に具体化していったのである。
もちろん組織においてはすべてのルールや規範が明文化されているわけではない。しかし暗黙の了解を社員の行動に期待するのは間違っている。ルールや規範などの順守を求めるものは明文化し、何回も繰り返し伝える責任が経営者にはある。ルールがあらかじめ共有されていることは、社員のモチベーション維持の大前提であり、組織を組織たらしめているのはルールとそれを守る文化であると思う。
一般的なクレドは、最上位概念だけをまとめた折り畳み式のカードになっていることが多い。しかし、三和建設のものは手帳形式であり、経営理念をはじめとする上位概念、会社の向かおうとしているビジョンと戦略、仕事における指針やルール、会社や仕事に関わる基本情報、その年度の全社目標など、全社員が共有すべき基本事項が網羅されている。

経営情報はしっかり公開する

これには強く同意です。個人的な考えとして、経営者が社員への信頼を示す1番の方法が「経営情報の公開」かと思います。本書で書かれている通り、知ることで他人事が自分事に変わる社員も多いはずです。

会社や組織が社員から信頼を得るための要素は数多くあるが、情報とルールの共有はとりわけ重要であると思う。一部の者だけが経営に関する重要情報を独占しているより、可能な限り社員に共有されているほうが、その組織への信頼が高まるものである。
仮に今期赤字の危機を抱えていたとして、ありのままの状況をオープンにしないまま社員に危機感を煽ってもそれこそ空振りに終わるだけである。全員が同じ情報を共有して初めて同じ課題に取り組むチームが結成される。
財務部門にいるわけでもない一般の社員に決算書は読めないのではないかという疑問もあるかもしれない。しかし、まずは知らせることが大切なのであり、最初はわからなくても、わかろうとして調べたり誰かに聞いたりすることから成長が始まる。

利益で計画を考える

利益重視は本質的な考え方だと思います。利益で計画を考えることは、営業などの直接部門だけでなく、間接部門もコスト削減で貢献できるため、全員で目標達成を目指す体制が作りやすいと感じてます。

どの業種でも売上は確かに大切だが、三和建設では売上至上主義をとってはいない。マネジメントの対象はあくまで売上ではなく利益である。ビジョンや目標設定においても常に利益にフォーカスしている。
私は、社員1人当たりの利益という概念は、その会社の収益性をはかる指標として業種業態を超えた普遍性があると考えている。社員をモノや手段を超えた存在として位置付けるならば、会社の利益に対する考え方は社員 1人当たり利益を軸とするのがベストであると考える。

今いる社員が活躍するために新たな社員を迎える

この考え方、好きです。事実として新卒が入社することで既存社員が成長するのは間違いないと思います。

世の中には、いつまでたっても新しい社員が入ってこず、自分がいちばん若手だという会社も多いだろう。しかし、後輩をもつという責任感、若い人に負けられないというプライド、若い血が入ってくるという組織の成長感は、社員にとって理屈を超えたモチベーションの源泉となる。
そこで三和建設は、毎年少しずつであっても社員数の絶対増を目指す成長戦略に大きく舵を切った。今後の仕事と利益見込みから社員数を増やすという「予測の経営」から、社員数を増やす以上、今後も仕事を生み出し続けるという「意志の経営」への転換である。このことは自分の経営者人生の中で最も大きな思考の転換点である。売上や利益のためではなく既存の社員活躍のために、新しい社員を迎えることにした。

まとめ

現在自分は家業の中小メーカーで経営理念の見直しに取り組んでいるのですが、作り直した経営理念の浸透施策を検討している中で、過去に読んだ本書の存在を思い出し今回再読しました。

全体的には創業70年超の中小建設会社が、経営理念を軸とした改革により業績回復を実現し、採用倍率20倍の人気企業となったサクセスストーリーですが、読めば読むほど理念経営が浸透するまでの著者の覚悟と苦労が強く印象に残りました

これから理念経営に取り組もうと考えている経営者や、一族経営の事業承継予定者にもおすすめしたいです。

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