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『東九龍絶景』 目次・プロローグ

題 東九龍絶景(トンクーロンぜっけい)

目次

プロローグ
1  ソラの512号室
2  イズキのアレキサンドリア
3  カザミのギャラクシー・マカオ
4  ミルイザのダマスカス
5  アラムのカオサンロード
6  キミカのデルフォイ
7  フライのサグラダ・ファミリア
8  タカマのミロゴイ
9  コシャリのキャニオン・ドゥ・シェ
10 ドクター・ビイのコーニー・ハッチ
11 DJイエロウのディスコ・インフェルノ
12 ハルカの天国
エピローグ


  プロローグ

 葬儀の日、降っている雨のようには僕らは泣かなかった。
 初めて来た建物の暗い部屋で、目の前に横たわる遺体には黒い布がかぶせられ、やはり黒い布の、裾の長い服を着た男が、遺体のそばで何か唱えながら香炉のようなものを振っていた。僕と姉は手をつないでそれを見ていた。
 その場に父親はいなかった。
 姉のハルカがいった。
「こんな日にどこかへ行ってるなんて、許されないよね」
 それは沈んだ声だったが、ハルカが本当に怒っていることはわかった。僕はいうことが見つからず、黙っていた。
「ねえ、ソラ、強くならなきゃ早死にするよ。この町では特にそう。お母さんだってこんなに若いのに、弱かったから」
 ハルカはそう僕に語りかけた。目は母の遺体に向けられたままだった。そのときのハルカの横顔と、つないだ手のあたたかさを覚えている。この日の他のことはほとんど忘れてしまった。
 父が帰ることはなく、僕とハルカは引っ越しをして、しばらくはふたりで暮らしていた。イズキさんという男の人が世話を焼いてくれた。彼が管理する図書館で僕らは勉強をしたが、ある日ハルカはいなくなった。葬儀から何ヶ月か経った日のことで、この町、東九龍(トンクーロン)はよく晴れていた。
 ビルやマンションなど、町中にある荒れた建物を回り、イズキさんはハルカを探してくれたが、結局見つかることはなかった。
 ハルカは何かを盗んだらしい。
 それから数年が過ぎ、僕は十三歳になった。

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