見出し画像

12/5 「BOSS」を深める

本業を思い出すシリーズ始めました。早速ですが缶コーヒー市場について調べていきたいと思います。

当時の缶コーヒー市場

サントリーの「BOSS」が登場したのは1992年8月のことです。当時の缶コーヒー市場はというのは大きく成長しており 1兆円規模の市場に成長しつつありました。

当時のブランドシェアは、「ジョージア(日本コカ・コーラ)」が圧倒的で他社を大きく突き放していました(下グラフ参照)。しかし、1997年を境にシェアを徐々に下げてきています。なぜでしょうか?そこで躍進を遂げたのが「BOSS(サントリー)」です。

缶コーヒー市場推移

ちなみに、ジョージアが発売を開始したのが1975年(そんな前から!)。それに続くかたちで、サントリー、カネボウ食品、ダイドーが参入、続いてキリンやアサヒなどのビール会社も参入しはじめ、コーヒー市場は急激に拡大。それと同時に競争も激化しました。

サントリーの商品展開


サントリーは75年に「サントリー珈琲」で缶コーヒー市場に取り組みはじめ、86年には新ブランド「WEST」を立ち上げます。

サントリー_WEST

焚火を囲んで飲む西部劇風に描き、広告展開を行っていました。「サイフォンだから、飲んでます」。なるほど、味訴求ですね。

サントリー_WEST2

当時(今もですが)缶コーヒーの売り上げは自動販売機の保有台数に大きく左右されます。当時はコンビニが今のように普及していませんでしたので、いつでもどこでもコーヒーが買える時代ではありませんでした。つまり、販売チャネルはほぼ自販機といってよく、台数が多ければ多いほど売れたという訳です。

当時冬季向けのホットベンダーの設備も整いはじめ、缶コーヒーは通年商品として定着。自販機のなかでも最も売れ筋の商品となりました。サントリーも順調に設置台数を増やしていき、清涼飲料の売り上げは87年から91年の4年間で2倍以上になっています。

しかしながら、それ以上に成長したブランドが出現しました。それが後発のキリンが発売した「JIVE」です。サントリーはマーケティング上手い企業の筆頭に挙げられますが、キリンも上手ですよね。

キリン_JIVE

後発の「JIVE」の伸びに比べれば、WESTはもっと売れるはずだ!という声が当時のサントリー社内にはあったようで、ブランドの見直しが行われました。その結果誕生したのが「BOSS」です。

どんな見直しが行われたのか?

ときはバブル絶頂の1980年後半。市場規模が年々拡大していくコーヒー市場において、「WEST」は年間1500万ケースを販売していました。それでも市場シェアは4%と少なかったようです。自販機の設置台数を増やしていけばある程度は順調に成長していくだろうと思われていましたが、「WEST」という商品がどういうブランドであるか、明確なターゲットが定まっていなかったと言われていたようです。

商品コンセプト

コンセプト、コンセプトって簡単に言ってしまうけど、コンセプト考えるのはとーっても難しいんです。

WESTの商品コンセプトは「香りが強く、苦みや渋みのある、本格的なレギュラーコーヒーの味を追求する」というもの。当時、起用していたのがアーノルド・シュワルツェネッガーというのが驚きですが、そのTVCMが印象的すぎたことも一因だったのでしょうか・・商品の認知(商品名とか味とか)はそこまで伸びなかったといわれている。

ブランドを確立するのは一朝一夕ではできません。バブル期の日本はお金があったようで、海外のタレントを起用できるだけの力も体力もあったのだろうけど、タレントパワーがあるからブランドが確立する訳ではないというのは皆さんご存じのとおりです。

そういった色々な反省をもとに「新しいブランドを構築しなければならない!」そう考え実行できたのは、やはりサントリーの「やってみなはれ精神」の強みだと思う訳です。

ターゲットの再設定

いまでこそ、缶コーヒーのヘビーユーザーがどういう人かマーケティング界隈では常識な感じですが、当初はそこからの手探りだったわけです。先発の競合他社はコーヒーのヘビーユーザーをターゲットに既に取り組んでいました(まぁ当然か)。一方で後発の「WEST」はライトユーザーである若者やホワイトカラーをターゲットとしていました。サントリーはその辺のターゲットが昔から得意だったのかもしれません。

WESTって割には西部っぽさを感じないCMですね。内容自体は今見ても面白い、群像劇風で。

しかしまさにその点が、ブランドが成功するための障害になっていた訳です。その点というのはターゲティングの曖昧さです。消費者調査を進めるうちに見えてきたのは、缶コーヒーヘビーユーザーが実際どういう人で、どういう飲み方をしているかという具体的な姿です。

ヘビーユーザーは誰だったのか?

缶コーヒーの消費量全体のうちの約6割をヘビーユーザーと呼ばれる人たちが消費していました。彼らは缶コーヒーを多い時には1日に3~4本飲用していました。

画像5

土方の兄ちゃんたちだった

それはドライバー、外回りの営業マン、建設作業員、工場勤務者といった肉体労働者の方々でした。身体を酷使して働く彼らは疲労回復のため、手軽に糖分を摂取することができる缶コーヒーを重宝していました。

普段街中で目にする彼らはいちいちカフェや喫茶店に入って寛いでるわけではないですよね?(中にはそういう方もいらっしゃるだろうが)、自動販売機などで気軽に購入し、その前で同僚とコミュニケーションを取りながら飲むのです。以前、工事現場にどのメーカーの自販機を導入するかはそのエリアの売り上げに大きく影響するため、自販機導入の営業担当者において建設現場・工事現場というのは非常に重要な設置ポイントだと聴いたことがある。

つまり、競合他者が「レギュラーコーヒー100%」であったり、「こだわりのネルドリップ方式を採用」ということを謳っていても、ヘビーユーザーである彼らにはほとんど刺さらなかったのだと言える。

ターゲティングを失敗すると、その後に続くコピーライティングもアートディレクションもクリエイティブの中身も全部チグハグになる。想像するだけで怖い、恐ろしい、という重要な学びを後輩である我々に教えてくれていると思う。有難い。

ちなみにそのターゲティングは今になっても他者も真似るものになっています。(これはジョージアね)

ダウンロード

続いて、次回はコミュニケーションコンセプトやネーミングの妙について迫っていきたいと思う。色々と学んでいきましょう。

参考資料(色々あって書ききれませんが、、)


もしサポート頂けることがあれば、それは金額の多寡というより、そのお気持ちが私に多大なる自信を与えてくれます。それに感謝致します。