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1/21 ストロング缶というモンスター

サントリー・ストロングゼロ、言わずと知れた人気商品です。

私自身、ビール会社の担当をしたことがあり「ストロング系チューハイ」のプロモーションに携わった経験があります(個人的にはK社の本搾りが好きです)いわゆるストロング系に手を出したことがありますが、500ミリ缶を買ったは良いものの味が合わず飲みきれなかった。350ミリ缶でもキツイかもしれない。なんとも言えないキツイアルコール味というか、これを好きで飲んでる人いるかな?くらいに思う商品です。

しかしながら売れている。天海祐希のCMで有名なストロングゼロはサントリーでも主力商品だ。だからあれだけCMも打てている。

昔、ストロングゼロ文学というのがネット上で話題になったのを覚えているだろうか?大正時代の退廃的な空気感をまとったような言葉の数々がジワジワと笑いを誘うが、よくよく噛み締めてみると背筋が寒くなる恐ろしさを感じるような気もする。そんな言葉の数々が並んでいる。一度読んでみてほしい。例えばこんな感じだ。

下人の眼は、羅生門に棄てられた死骸の中に蹲くまっている人間を見た。背の低い、痩せた猿のような老婆である。老婆は、若い女の死骸から頭髪を引き抜いていた。売って得た金でストロングゼロを買うのだろう。

まぁ、こんな感じなのでみんな節度を持って楽しく飲んでいるのかと思ったら、そうではなかったようだ。こんな記事を目にした。

正直なところ、プロモーションを考えるにあたり消費者の「手軽に酔える」「コスパよく酔える」というようなインサイトがあったことは把握している。酒税の影響でビールから発泡酒、発泡酒から第三のビール(新ジャンル)、そしてチューハイへとコスト感覚に厳しい消費者の目は移って行った。やばい、金が無い。けど仕事の辛さを酒飲んで忘れたい。けど、ビールは高い。居酒屋に行くのもダルい。むかし、その辺のおじさんが飲んでいた大五郎やビッグマンじゃあカッコ悪いしダサい。じゃあ何を飲むか?ストロング系チューハイだ。アルコール度数9%?よく分かんないけどなんか酔えそうだね。そんな感じだろう。

ビールが相対的に高くなってしまったから、消費者に自社製品を買って欲しい一心で企業努力を重ねた上に生まれたのがストロング系チューハイ。それが、図らずも消費者を苦しめているというのがやるせない。そもそも、それがストロングゼロ文学じゃないか。

それにビール各社がアルコール度数で競争し始めた時は正直驚いた。消費者が求めているのはそうなんだけど、競争するポイントがアルコール度数になるとは。。若干、企業側の考えもズレ始めてしまったのかもしれない。売れるから、どんどん作れ。アルコール度数もどんどん上げろってね。

記事を読んで驚いたのはストロングゼロ500ミリ缶1本で日本酒2合に相当すると。日本酒二合飲んだことある方なら分かると思うが、そんなカブカブ飲むもんじゃありませんよね?それなりに高いし(安い鬼ころしとかもあるけど)。しかし、ストロングゼロは飲みやすい?かは別にして、安い。安いんだよ、とんでもなく。

少し責任を感じる

アルコール商品に関しては、少なくとも健康を害する恐れがある商品であるから良識を持って向き合わなければならない商品である。クライアントも、お酒があることでコミュニケーションが円滑に進んだり、人と打ち解けたり、お酒がある生活・文化というものを作り世の中に幸せになってもらいたいと思っている人たちだ。何もアルコール依存症を作り出して、金を搾り取ってやろうなんてことは思っていない。しかしながら、結果としてこういう意図しない飲み方をしてしまう人たちが一定数現れてしまうのは致し方ないことでもある。

自動車は世の中に移動の自由をもたらした画期的発明だけど、同時に交通事故という悲惨なものも付属的に生み出してしまった。だからと言って、トヨタは車づくりを止めないのである。

それでも、もうちょっとプロモーションの仕方に工夫の仕方があっただろうか、とか考えた方が良かっただろうか。いや、それは不可能だ。それを考えていては消費者が買いたいと思うCMやプロモーションはできない。そこに、面白い広告とそれが引き起こす社会的なマイナスの矛盾がある。

最近のことで言えば、仮想通貨交換業のコインチェックだってそうだ。なんだかよく分からないけど出川哲郎さんが出てくるCMとか。ありましたよね?

広告代理店はあくまでクライアントの利益を最大化することが仕事であるから、商品が売れた先のこと、つまりその商品なりサービスが社会にどんな影響を及ぼすかまでは突き詰めて考えられていない。というか、広告代理店はそこまでしては越権行為?というか求められていない。

あくまで受注産業であるから、クライアントが求めてもいないことをズケズケと言っても「じゃあ他の代理店に頼むからいいよ」と一言刺されてしまえば終わりだ。クライアントの言う通りに作ってくれる代理店なんてこの世にいくらでもいる。世の中的にコンプライアンスが重視されているとしても、どんな社会的弊害を生み出すかまで考えている人は少ないだろう。

タバコのCMが規制されたように、遅かれ早かれお酒のCMも規制の対象となっていくだろう。クライアントや広告代理店側からすれば、収益の柱を奪われるわけだから相当な痛手になると思うが、社会的な趨勢というのを考えるとすれば、それも致し方ないことなのかな。

ちなみに、YouTubeで「ストロングゼロ」と検索したら地獄です。それでも見たいのなら止めはしませんが、お勧めはしません。消費者が求めているからとは言え、大変なものを生み出してしまったんだな。



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