見出し画像

THE SECONDと音

前回の「THE SECONDの誤解と弁解」を読んでいただきありがとうございました。自分の恥部を曝け出すのが怖く、また拡散されることも望んでいなかったので有料にしたのですが、お笑いファンを見くびっていました。
ディレクターの記事に400円も払わないだろうと思っていました。
まさかこんなに購入していただけるとは・・・。

↑無料部分だけでいいので読んでいただけると、この後の文章が読みやすくなるかもしれません。

感想もありがとうございました。好意的に受け止めてもらえて良かったです。そして業界関係者にも「読んだよ〜」と言われて、リアクションに困ることもしばしば。

今回も有料記事になっていますが自分の制作の考え方的な部分を多く書いたブロックを有料にしていますので、無料部分をサラッと読んでいただければと思います。本当に。

ダラダラと書いていたら、そのうちにお笑いナタリーさんに取材していただいたり・・・そしてその記事の方が先に出たり・・・(ナタリーの狩野さんは仕事が早すぎる)

前回も書いたのですが、本当に「THE SECONDをしがんでる」と思われるので早く出したほうがいいですね。このnoteは完璧を求めずに出す方が良さそうです。
次回どこかで採点について書こうと思います。(そっちは完全無料でいきます)

選曲の誤解と弁解

僕は音楽を知らない

僕が音楽に疎いということは前回も少し書きました。
THE SECONDの選曲を褒めていただいておりますが
僕はあまり音楽を通ってきていないです。音楽に全く精通していない人間です。
中学高校大学とカラオケに行ってワイワイするぐらいのことはありました。
初めて買ったCDはMr.Childrenの「innocent world」でミスチルのCDは全て持っています。小沢健二の「LIFE」と「犬は吠えるがキャラバンは進む」にハマり、「渋谷系」という音楽に出会ったこともありました。
でも、熱心にライブやコンサートに通ったり、フェスに行ったり、洋楽を聴き漁ったり、ちょっとギターを引いてみたり・・・みたいなことは全くありません。

今思い返すと子供の頃に食卓で音楽がかかってたことはなかった気がします。親が全く音楽にこだわりがある人ではありませんでした。
ドライブの時にユーミンと長渕剛が入ったカセットテープがかかっていて
それが鬼のようにリピートされていた記憶しかありません。
何の曲だったかはあまり覚えていません。長渕さんは「なに〜が自由だ〜」みたいな歌詞でした。ユーミンは「卒業写真」がかかっていた気がします。
そんなわけで、僕の音楽の文化はクラスメイトと「HEYHEYHEY」と
ラジオ(特にオールナイトニッポンと文化放送の斉藤一美のとんかつワイド)からしか入ってきていません。

この業界に入ると学生時代にバンドをやっていた人や音楽好きがものすごくたくさんいます。なのでオリコンヒットチャート20位までしか通ってない僕には到底知識で太刀打ちできません。

番組の音楽やBGMというのはディレクターによって様々だと思いますが

①ディレクターが全部決める
②音効さんに全部お任せ
③ディレクターと音効さんで打ち合わせしながら決める

大まかにこの3つのパターンに分かれると思います。
僕は基本的に③のパターンでいくことが多いです。
音楽を全く知らないので②と思われがちですが
全部お任せにすると、「この曲どういう意図でかかってるんだろう?」とか
「ずっと全部同じ曲がかかっている気がする・・・」とか
僕が曲を知らなさすぎて仕上がりに自信が持てなくなるからです。

そんなわけでTHE SECONDの神選曲という記事も書いていただいて恐縮なのですが、選んでいたディレクターは音楽に対して無知な人間でしたという弁解をさせていただきました。

THE SECONDの出囃子

出囃子を決めないと・・・

そんなわけでテーマ曲は「バラ色の日々」に決めたわけですが

漫才コンテストでかなり大事な
漫才師の登場の時にかかる「出囃子」を決めないといけません。
一番意識したことはやはり漫才コンテストの権威、M-1グランプリです。

これはすごいです。漫才といえばこれ、これといえば漫才。
それぐらい有名な曲です。
優勝した漫才師は翌週の生番組で漫才を披露するときは
大体この曲が使われます。
これに負けないような出囃子を選ばないといけません。
優勝者が他の番組で漫才する時もTHE SECONDの出囃子を使ってもらえたら市民権を得たということです。そうなるような出囃子を選びたいのです。

そこで音効さんとした最初の打ち合わせで提示した条件は・・・

  • ベテラン漫才師らしい渋い感じ(ギターが鳴ってるロックな感じ)

  • 歌詞が入っていない(または英語だったりして何て言ってるか初見「初聴」では分からないこと)

  • 邦楽(配信や円盤化の時に権利の関係で曲を変えたくないので洋楽はNG)

  • 最新曲だったり流行りの曲ではない、有名な作品の主題歌ではないこと

  • 他の賞レースや人気バラエティ番組で使われている曲ではないこと

この5つを加味して持ち寄りましょう。ということになりました。
難しいのは何秒の出囃子にすればいいのか分からないこと。
セットができていないので漫才師が何秒ぐらいでマイクに辿り着くか
分からないのです。「まぁ大体10秒ですかね〜」ぐらいの感じで最初の打ち合わせを終えました。(※ちなみにM-1は7秒でした)

そこから決定まで200パターン以上の出囃子を作りました。
200パターンと言っても200曲候補があったわけではなく
1曲につきイントロを使って構成したら・・・とか、サビだけで・・・とか同じ曲のパターン違いや尺違いを作るのでそれぐらいの数になっていくということです。

そのうちに美術セットの打ち合わせも始まり、
「格闘技会場のようなイメージのセットで漫才師はその花道から登場する」
という外郭が決まっていったので
自ずと花道から登場するイメージに合うものを選んでいく形になっていきました。

BROTHER/OKAMOTO'S 

最初に作った50個ぐらいの中に
OKAMOTO'Sの「BROTHER」がありました。

最終的にこの曲が決勝戦の出囃子になるわけですが、
この曲は僕がとても好きなドラマ「火花」のテーマ曲です。僕はドラマをほとんど見ませんが「火花」は3周してます。
ただ、僕が出した条件の4つ目
「最新曲だったり流行りの曲ではない、有名な作品の主題歌ではないこと」
これにガッツリ違反してしまっています。
多分、他のディレクターや音効さんは
「お前が出した条件を自分で破ってんじゃねーよ」
と思ったに違いありません。

ドラマ「火花」はまさに漫才師の物語です。

「漫才師」がテーマのドラマの曲を出囃子に使うのは悪くないんじゃないかと思ったのです。それと同じ理由でボクシングなどの「格闘技」がテーマの映画の主題歌はOKとしていました。
この大会が「格闘技」のリングのセットで「タイマン」で対決するものだったからです。
これが有名な恋愛映画で使われていたような曲となってくるとちょっと意味が変わってきます。その映画の内容に引っ張られて漫才の邪魔になる可能性が出てきてしまうからです。ましてや、今回のスピードワゴンさんの漫才のような「恋愛」をテーマにしているものだとより邪魔になってしまうかもしれません。

そんなわけで「BROTHER」を編集したものを自分で持ってきて他のスタッフに聞かせました。「いいじゃないですか!」という反応でした。
しかし自分でルールを破ったこともあり、
「ちょっとエモくなりすぎちゃうかもね・・・」と言いました。

春夏秋冬/泉谷しげる

同じ理由で出囃子にするのを断念したのが
泉谷しげるさんの「春夏秋冬」です。

音楽音痴の僕は、実はこの曲を5年前まで知りませんでした。
2018年の「阿蘇ロックフェスティバル」にワイドナショーで参加した時に、泉谷さんがフェスのクライマックスで歌っているのを聞いて
「なんていい歌なんだ」と感動したのです。

↓めっちゃいいホームページの写真の数々


くまモンを撮らせてもらった 撮影:日置

それを思い出して、10秒に編集して持っていきました。

「ちょっと良すぎて泣いちゃうな〜」
自分で持ってきて他のスタッフに聞かせて
そんなことを言ってるもんだから
後輩たちは「何がしてーんだよ」という感じだったと思います。

なぜオリジナルバージョンじゃなく、
with LOSERバージョンだったかというと出囃子にした時に
オリジナルバージョンのイントロだと登場感がなかったからです。
最初、オリジナルバージョンで作ろうかと思っていたのですが
どうもイメージしている出囃子っぽくならない。
調べるとこのバージョンがあることを知り、こちらを採用しました。
とはいえ、歌詞の部分を使ってしまうとメッセージ性が強くて
出囃子にならないということで断念しました。

出囃子は「平等」じゃないといけない

他のディレクターや音効さんが持ってきたロックな曲を
たくさん聞いたのですがどうもしっくりこなかった。
理由としては「ものすごく骨太ロックがハマる漫才師」と
「骨太ロックがはまらない漫才師」がいるからです。
THE SECONDは番組ですが賞レースです。
つまりどの芸人にも極力平等でなくてはいけないと考えていました。
もちろん全てにおいて完全に平等であることは難しいですし
本当に平等にするなら出囃子はかけない方がいいです。
でも賞レースでありながらショーにもしないといけないので出囃子は必要です。

平等にするために実は、漫才師さんの登場のカット割は
先攻後攻を極力同じにするようにスイッチャーさんにお願いしていました。
(もちろんカミシモ逆ですけど。)
細かいことですけど、「あっちのカット割の方がよかった」というクレームを無くすためです。

とりあえず最初に提示した「ギターがバリバリ鳴ってる感じの曲」は忘れてみようということになりました。

なぜ出囃子を統一するのか?

各芸人さんが寄席やライブで使っているそれぞれの出囃子にして欲しかった
という声をいただいたのですが、

・勢いがある曲とそうじゃない曲で審査に不公平性が生まれる可能性がある
・出囃子の尺がまちまちになってカメラやスイッチングのミスが起こる可能性が出る
・洋楽を使っている漫才師がいた場合、配信できなくなる可能性が高い
・生放送で違うコンビの出囃子が流れたら取り返しがつかなくなる

このような理由でその選択肢は今後も取らないかなと思いました。
生放送でミスをしないシステムや構造を作ることも総合演出の仕事です。
たくさんテロップを出したり、音楽を細かくつけたりすると番組のクオリティは上がるかもしれませんがミスをする可能性が増えます。
「ミスしないように頑張れ」「気合い入れてミスするな」
は誰でも言えます。

「みんながミスをしないシステムを作れるように頑張る」
これを自分に課すことが大事だと思いました。
とにかくノー炎上賞レースを目指してますから、
ミスは一番炎上しますから!そしてミスした人はずっと辛い思いをすることになりますから。

本当に出囃子を決めないと・・・

2%/10-FEET

あれでもないこれでもないと言いながら3月になり
そろそろ決めないと・・・と思い
自分のiPhoneに入っている曲をずっとかけていて流れた曲が
10-FEETの2%でした。

「スラムダンクで流行ってるから10-FEETね〜」
って思われるのが嫌で選択肢から外していたのですが
改めて聞いてみるとやっぱりいい。
特にタイトルは意識せず大学時代によく聞いていた10-FEETの曲をシャッフル再生していて
「あー、この曲好きだったな。タイトルなんだっけな〜」
と思いタイトルを見たら「2%」。2入ってるじゃん!!セカンドじゃん!
そんな偶然も相まってこの曲を採用する方向に一気に加速しました。
シングル曲ではないのであまり曲に対するイメージが強すぎないのも
大会の出囃子向きです。

また、ネット記事でも書いてくれていましたがサビの
「いつかいつかは皆還る 貧乏も裕福も皆還る」
という歌詞がすごくいい。

けどここの部分を使うとメッセージが強すぎて
漫才に抵触していく可能性も出てくるので
冒頭の疾走感のあるところを編集して持っていきました。
「エゴエゴはしばいたれ」という歌詞が入っていますが
初見ではあまり何て言ってるか分からないし
「しばいたれ」はこのタイマントーナメントには合っている。
さらに後輩ディレクターが
「最後に『マンザーイ』って言ってるように聞こえますね」
と言ったことが最後の決め手になりました。

これならM-1の「Because we can」に負けないTHE SECONDらしい出囃子になる。そう確信しました。

※当日「マシンガンズをしばいたれ」って聞こえましたと出場者に言われた時は「そう聞こえるんだ!?しまった!!」
とは思いましたが・・・

ここから先は

2,785字 / 7画像

¥ 400

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?