見出し画像

【教養】としての、戦前・戦中・戦後 基礎知識⑥

皆さまこんにちは。1976newroseです。

前回までは、中国の対外構想「一帯一路」、それに基づく勢力圏を米国の圧迫から守るための「列島線」の設定、そして具体的な軍事戦略としての「A2AD」をご紹介しました。

今回は、中国のこうした対外膨張策に対抗する、自由民主主義陣営の動きに迫ります。


【米国の対外構想】

トランプ政権は、2017年頃から、「自由で開かれたインド太平洋戦略(Free and Open Indo- Pacific Strategy : FOIP)」(以下「FOIP」と表記します)を掲げています。FOIPが、安倍首相の提唱に協調したものであることは前回述べたとおりです。

日米間でFOIPの内容に違いはありますが、コアとなる価値観はおおむね共通しています。具体的には以下の通りです。

「自由」であること。どの国も、他国に強制されることなく主権を維持し、そして国内においてガバナンスが維持され、国民が基本的な人権に基づく自由を享受できることを表します。

「開かれ」ていること。主に経済的観点について、すべての国家に海洋の自由が保障され、紛争が平和的に解決されること。公平で相互的な貿易関係がもたらされることを表します。

これら2点は、武力と経済力を背景に国際秩序の変更を試み、また国内では一党独裁体制を敷く中国への、強いアンチテーゼです。

【JAM-GC】
一帯一路を守る軍事戦略にA2ADがあったように、FOIPにもそれを守るための軍事戦略「グローバル公共財へのアクセス及び操作のための統合構想」(Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons)」(以下「JAM-GC」と表記します。)があります。

これは、前身となる米国の戦略構想「エアシーバトル」の発展形です。
エアシーバトルは、中国軍の侵攻を、海・空軍の統合運用で漸次撃滅する構想でした。JAM-GCでは、ここに陸上戦力の統合運用も付け加えられ、反撃能力により一層重きが置かれました。

JAM-GCでは、陸・海・空軍の統合運用能力を極めて重視します。しかし米本土と極東との距離は大変に離れているため、その点では中国より不利です。
そこで重要となるのが、FOIP陣営諸国との戦略・経済・軍事・情報そして信念の共有と結合です。
これらのピースが一つでも欠ければ、高度な統合戦略など到底成り立ちません。JAM-GC自体は軍事的戦略構想ですが、その実現のためには、平時から友好諸国と極めて密接に連携しておく必要があるのです。


【「一帯一路」と「FOIP」の対立】

さて、中国の一帯一路と、日米を中心としたFOIPが、価値観をベースに対立するものであることはご理解いただけましたでしょうか。

ここからは、一帯一路とFOIPの対立が、インド太平洋地域にもたらしつつある影響を説明してまいります。

結論から申し上げると、米ー日ー台ー比ー豪ー印を結ぶFOIP寄り陣営が既に形成されつつあり、一帯一路に代わりうる選択肢として、地域で存在感を示しています。
皆さま、ぜひGoogleマップを開いて、FOIP陣営の位置を指でたどってみてください。そこには、中国の影響力をインド太平洋地域から締め出すためのラインがくっきりと引かれていることがお分かりになると思います。

(なお本来であれば、ここに駐在米軍を抱える韓国が加わって然るべきなのですが、文在寅政権は特殊な政策方針からどっちつかずな態度を取り続けています。米国による駐韓米軍負担の増額要求は、韓国の出方を見極めようとする「値踏み」の一環ともいえるでしょう。)

ここで特に注目すべきなのは、豪州と台湾の参加です。

もともと資源国でもある豪州は「中国経済が好調だと豪ドルも上がる」と言われるほど、中国経済への依存度が高い国でした。しかしここ2年ほど、豪中関係は急速に冷え込み、今やお互いの経済交易を損なうかのような制裁の応酬を繰り広げています。
これは、豪州は中国の対外膨張的な意図に気付いており、経済的利害関係を損なってでも、FOIP陣営としての立場を鮮明にしつつある、と理解すべきでしょう。

かつて大日本帝国が、南方作戦成功の後の第二段作戦として、米豪遮断を目指したのは、本稿パート②にて述べた通りです。
今度は中国から米豪遮断の圧力を受けかねない豪州は、早々に勇気ある決断に踏み切ったのです。

もう一つ重要なのが台湾です。
これまで、米国をはじめ西側諸国では、中華人民共和国を中国の正当な国家とし、台湾を公式には認めておりませんでした。
経済交流はあったものの、政治および軍事的な協力は、中国共産党への配慮から少なくとも大々的には行われなかったのです。
しかし、ここにきて米国は台湾との連携を急速に深めています。政治・経済・軍事のあらゆる面で、台湾を国家に準じた扱いに格上げしつつあります。

中国共産党の論理では、台湾は中華人民共和国の省の一つという位置づけですから、省が勝手に米国と外交する事態など到底許せるものではありません。

しかも、地図を見ていただければわかる通り、台湾は日本ー沖縄諸島ーフィリピンを結ぶきわめて絶妙な位置にあります。ここに米軍の戦力が集中することは、中国の国家戦略を強く損なうことを意味するのです。


【「第二次太平洋戦争」?】

ここまで、米中の対立構造がインド太平洋地域にもたらしつつある変化を眺めてまいりましたが、いかがでしょうか?

最後に、現状をどのように整理して理解すればよいのか、私の主観も交えつつ論説してまいります。

私は、現状を「第二次太平洋戦争」に近いものだと認識しております。

戦前、大日本帝国は、中国大陸での権益を守ろうとして米国と対立を深め、太平洋を挟んで直接対決するに至りました。

翻って現在、中国は一帯一路を軸とする地域覇権を守り、更に拡張すべく、米国との対決姿勢を深めています。

両者には以下のような共通項が見られます。

①自由民主主義陣営と、覇権主義的陣営との対決であること。

②両者の対立が、太平洋を挟んで行われること。

ひとつ違うのは、今度は我が日本は自由民主主義陣営としてすでに米中対立構造に深くコミットしているということです。


思いのほか長編となってしまっている本シリーズですが、あと2回ほどでいったん完結する予定です。ここまでお付き合いいただいている皆さまに感謝申し上げます。

次回、このような国際秩序の変化の中で、「大日本帝国時代の反省は、リベラル国家群の一員となった日本の国家戦略に十分活かされている」という私の結論に向かって論を進めてまいります。

ご期待ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?