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ウクライナ情勢を自力で追いかけたい方のための基礎知識

こんにちは。1976newroseです。

ここ数ヶ月、ウクライナ情勢に関する情報が日々流れてきます。
大規模な正規戦ということもあり、防衛研究所や大学研究者などの専門家の方々が精力的にメディアに登場され、私たちに正確な情勢が伝わるようご尽力されています。誠に頭が下がる思いです。

さて今回は、メディアの情報に加えて、海外のシンクタンクやオシント(OSINT=open source intelligence、一般に公開されている情報源からアクセス可能なデータを収集、分析、決定する諜報活動の一種)分析者、学者、ジャーナリスト等が発信している質の高い情報に自力でアクセスしたい方々のために、理解の手助けになればと思い本稿を記します。

よく「情報は多面的に取得し、理解すべき」と言いますが、そもそも専門性が高い軍事という領域について、何の予備知識がないのに情報を多面的に取得すること自体が困難だと私は考えています。
本稿はそういった方々のために、少しでも参考になれば幸いです。

なお、これらの記述は、「理解しやすさ」を一番重視していること、また軍事という領域は国、時代、平時/戦時によって、思考の体系から運用までかなり違うことから、ざっくり概要を知るための読み物程度にご理解いただければ幸いです。
より専門的な知識をお持ちの方からのご指摘もお待ちしております。

それでは参りましょう。

【軍隊の編制】

①まずは、現代の軍隊で一般的に使われる単位からご紹介します。
国、時代、平時/戦時によって、内訳がまったく異なることにご注意ください。

上から大きい順に、

・総司令部…軍種(陸/海/空軍、のような種別のことです)ごとに置かれる。国によっては、軍種を全て統括する統合司令部、等が置かれる。
・戦区/軍管区/方面隊/方面軍、等…軍隊全体を主に担当地域ごとにざっくり分けたもの。平時の軍行政機関としての役割をあわせ持つことが多いイメージ。
・軍(軍、という一つの単位です。単位なので、ドイツ第6軍、とか、2個軍、のように使われます)
・軍団(これも単位。なおメディアで「チェチェン軍団」のように言うときは、単なる俗称で必ずしも軍事上の編成・規模ではないこともあるのでご注意ください)
・師団
・旅団
・大隊
・中隊
・小隊
・分隊/チーム/班、等

②続いて、ロシア軍の頻出編制と略称。
現代ロシア軍は、軍-旅団-大隊戦術群、の3階層を特に重視しているようです。

・軍管区…中央、東部、西部、北部、南部の5個。
(army。略称A)…歩兵(ロシア軍では伝統的に狙撃兵(rifle。略称R)の呼称を使う)を基幹に、砲兵、装甲部隊、電子戦部隊、ドローン部隊、補給・修理部隊、などをくっつけてパッケージ化した諸兵科連合軍(combined arms army。略称CAA)の形式を取ることが多い。
・軍団(army corps。略称AC)
・師団(division。略称D)…伝統ある部隊などで一部残る編制。増強旅団のイメージ
旅団(brigade。略称B。大隊battalionの略称Bと被るため注意)
大隊戦術群(battalion tactical group。略称BTG)…超重要!歩兵約200名を装甲戦闘車両や砲兵などが支援する、自己完結型の諸兵科連合単位。定数700~1,000名ほど
・中隊(company。略称C)

③続いて、ロシア軍関連の頻出用語と略称をご紹介します。
これらが理解できれば、海外のシンクタンク等が公開している戦況図をざっくり理解することができます。

・諸兵科連合…combined arms。略称CA。前述の諸兵科連合軍CAA参照
・狙撃兵…rifle。略称R。他国で言う歩兵。ロシア軍の伝統呼称。
・自動車化…motorized。略称M。現代先進国の歩兵は基本的にトラック等の車両に乗って移動するので、省略されることもある。
・機械化…mechanized。略称M。自動化歩兵より装甲の厚い車両で編成されるイメージ。
・戦車/装甲…tank。略称T。
・親衛…guards。略称G。ロシア軍の伝統的名誉呼称。これがつく部隊は精鋭であることが多い。
・海軍歩兵…naval infantry。略称NI。他国の海兵隊に相当する水陸両用部隊。
・独立…separate。略称S。通常の上級単位に属さず、より高級な単位(軍、軍団等)に直属して、自律的な行動ができるように編成された部隊。

 ★頻出例★

36th CAA…36th combined arms army。第36諸兵科連合軍
1st GTA…1st guards tank army。第1親衛戦車軍
2d GMRD…2nd guards motorized rifle division。第2親衛自動車化狙撃師団
336th SGNIB…336th separate guards naval infantry brigade。第336独立親衛海軍歩兵旅団
3x BTG…3x battalion tactical group。3個大隊戦術群


【ロシア軍の思考形態】

①ロシア軍は、ソ連赤軍時代から伝統的に次の3つを重視します。

火力…砲、ロケット、航空支援等
戦力集中…戦力を適切なタイミングで、重要な地域に集中させる
縦深攻撃…部隊の大きさごとに担当すべき正面(ヨコ)と縦深(タテ)が予め設定され、最前線だけでなくその後方の敵司令部、支援部隊、兵站線まで一気に打撃する

②ロシア軍は、ソ連赤軍時代から、政治-戦略-作戦-戦術-戦闘、の順に戦争行動を階層分けして整理します。政治が最も上位に置かれるのは、クラウゼヴィッツの影響です。

そして、それぞれの階層ごとに、ふさわしい規模の部隊、支援部隊、担当正面と縦深が予め設定されています。
例えば、「大隊戦術群は戦術階層を担う中核単位として、正面○km、縦深○kmを担当しなさい」、といった感じです。

【NATO兵科記号】

海外の情報ソースでは、分析した情報をNATO(北大西洋条約機構)で標準的に使われる「兵科記号」という記号に落とし込むことが多いです。
全て覚えることは困難ですので、必要に応じて適宜検索してご参照いただけば宜しいかと思います。(取り急ぎ、ウィキペディアの該当ページを貼っておきます。実用には差し支えないかと…)


【実践】

ここまで理解できれば、例えば、海外のライターの方(@JominiW)がオシント分析により作成されたこのような戦況図をある程度読み解くことができます。

Popasnaという街のあたりを見ると、40thSNIB(separate naval infantry brigade) 1xBTG、336thSGNIB(separate guards naval infantry brigade) 1xBTGという部隊が配置されており、それぞれ第40独立海軍歩兵旅団・第336独立親衛海軍歩兵旅団の隷下BTG1個ずつが配置されていることが分かります。

Jomini of the West(@JominiW)氏が2022/05/08にTwitterに公開した戦況図。

またこちらも同じライターの方がご作成された、極めて秀逸な図です。
先ほどの図と組み合わせると、「Izium Axis(Main Effort)=イジューム主攻軸」には第1親衛戦車(GTA)・第20・35・36諸兵科連合軍(CAA)が配属され、最大正面67km、最大縦深50kmを担当させられていることが分かります。
また縦深は、それぞれTactical Depth(戦術)・Immediate Operational Depth(即応作戦?筆者和訳)・Operational Depth(作戦)・Strategic Depth(戦略)という4階層に分けられており、ソ連赤軍時代からの思考形態が今も息づいていることまでわかります。


同じくJomini of the West(@JominiW)氏が2022/05/08にTwitterに公開した図。


【参考になるTwitterアカウント】

最後に、私が情報を得るときに参考にしているTwitterアカウントを一部ご紹介します。Twitterは自動翻訳機能を備え、画像付きかつ短文のため、海外からの情報を手早く得るのには最適な媒体だと思っています。より深く知りたい方は各機関が公開しているレポート等をご参照ください。

①ISW(戦争研究所)…米国シンクタンク。日本メディアも幅広く参照・引用。@TheStudyofWar 
②Jomini of the west…米国作家?研究者?@JominiW 
③OSINTtechnical…米国オシント分析者。@Osinttechnical 
④防衛省防衛研究所…日本。@Nids1952 
⑤小泉悠…東大先端研専任講師。ロシア軍研究専門。@OKB1917


いかがでしたでしょうか?
戦争は一進一退、ロシア軍は長期戦も辞さない構えを見せています。本稿が少しでもこの戦争についての皆様のご理解の一助となれば誠に幸いです。

ただし、今回の戦争は前線からドローンやスマホによって撮影された映像や情報がリアルタイムに公開される「史上最も解像度が高い戦争」とも言われています。
実際に多くの方が亡くなっている戦争で、かなり気が滅入りますので、各種情報はくれぐれもご自身の精神衛生と相談しながらご参照ください。


お読みいただき誠にありがとうございました。


追伸(私見)

この戦争に関する、2022年5月15日時点における私自身の見解を述べます。
繰り返しになりますが、私は各種情報を「ある程度読めるだけの素人」に過ぎません。
私が「月を見ることができる人」とすれば、各種研究者の方々は「月に行くことができる人」というくらいの距離を感じています。

①ロシア軍の大隊戦術群は、基幹となる契約兵・志願兵が1/3、残り2/3を徴集兵が補助する(海上自衛隊幹部学校戦略研究室・高橋、2022)。契約兵は常に不足しており、戦闘により契約兵の損耗が相当程度進むと、BTGは急速に戦闘力を喪う。
②ロシア軍は、制裁等による半導体不足から特に高度な電子機器を必要とする兵器が不足しており、長期的に補充も困難であり続ける。
③ウクライナ軍は、各地で西側インテリジェンスと「ドローン化」砲兵、装甲戦力によって効果的な防御(限定的反撃を含む)を展開している。
④ロシア軍被占領地では戦争犯罪が数多く報告されている。

→以上4点から、ウクライナで人道を守るためには、火力・装甲戦力・インテリジェンスの継続的な提供によって、ロシア軍に早期の損耗を強要し、ウクライナの軍事的な優位を支え続ける必要があると認識しています。
人道支援はウクライナ軍が武力で取り返した土地でしか実施できないこと、ロシア軍占領地では実際に多くの戦争犯罪が指摘されているためです。
したがって、まずは支援のリソースが軍事面に集中されるべきフェーズというのが私の見解です。

ウクライナ支援の窓口は調べれば多く出てきますが、軍事的支援を最も直接的に行えるのが、ウクライナ政府が最近発表した募金ページだと思われます。
クレジットカード等で決済できるようです。自動翻訳機能を使いながら、「DEFENCE AND DEMINING(防衛と地雷除去)」を選択し、数ステップで完了します。

なお、私は開戦時に在日ウクライナ大使館宛に20万円を寄付しています。今後はこちらのサイトから少しずつ募金を継続する予定です。

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