見出し画像

しぶにぃ物語 ファミレス編①

そんな訳でお笑い芸人の道も断たれた俺はしばらくスロットで食っていく事にした

クズである

歳はすでに27歳になっていた

人生で1番大事な時期をスロットに捧げたのだ

当時はキングパルサーというストック機で食っていた

朝128ゲーム回して他の店へ

画像1

原付で近所のホールをめぐる

設定⑤で5000枚抜いて、優雅にウナギを食って戻ってみるとその台が1000ゲームで捨ててあったりしてまた3000枚抜けた日もあった

基本おじさんおばさんばかりで当時はまだネットもそこまで発達しておらず、もっぱら雑誌の情報で知識を得ていた

なのでその台のスペックが知れ渡るのに大分タイムラグがあり、おいしい思いが出来たのだ

しかし、おいしい期間はわずかでキンパルだけでは食えなくなり、基本設定の入っていない実家近辺のホールでは稼ぐ事が困難になってきた

加えて大学を中退しいつまでもプラプラしている俺に母ちゃんがついに切れた

「自立するか。自宅にまだ居たいのなら食費として月6万円入れろ」今思えば実家暮らしの成人した社会人からしたらまあ、まっとうな額だが、働いてない俺には目ん玉が飛び出る大金だ

「オニだ…オニババだ…僕はこの人の息子じゃないんだ

腹を痛めて産んだ長男にこんな仕打ちをするわけがない

この人の子供じゃないんだ

どこかの橋の下で拾われてきた子なんだ

そう思った

画像2

「働くか…」

俺はついに決意した

とりあえずバイトから始めよう

俺は雀荘と居酒屋でしかバイト経験がない

何か手頃なバイトはないものか考えた俺はファミレスで働く事にした。何故かファミレスのバイトは楽だと思ったのである

実家から原付で15分の海老名駅交差点の角「ビルディ」というファミレスで働く事にした。今では全部「ガスト」に代わってしまったが当時は関東で100店舗手前までいく勢いのあるファミレスだった。

画像3

コンセプトが確か女性も1人で入れるファミレスでパスタとかサラダに力をいれてる店だ

すかいらーくグループの四男坊がチャレンジさせてもらってる感じの店それがビルディだった

面接は問題無くオッケー

「じゃあ明日9時からお願いします」面接をしてくれたマネージャーが言った

(ビルディでは店長の事をマネージャーと呼んだ)

聞けば同じ明治大学ということだった

歳は俺の一個上で明大中野から明治の生え抜きで普通の会社に就職したのだが、退職しこのビルディに再就職をしたという人物だ

次の日朝の9時に行ったら「あれ? 夜の9時だよ」とすっとぼけ顔のマネージャー

おいおいおい

お前ちゃんと午前か午後か言えよ

こっちは久しぶりの労働なんだ

お前らの常識がニートの俺に通用すると思うなよ!

俺のやる気をそぐな

気持ちが折れそうで危なかったが残金が数千円しかなかったのでちゃんと夜9時にもう一回行った

夜のシフトはそんなにツラくはなくて基本忙しくはなかった

深夜の面子は大学生が多かったがいいヤツばかりで歳上のプー太郎の俺にも気兼ねなく接してくれた

深夜のシフトは片付けがメインみたいな所がある

店自体は1時までの営業で閉め作業に3時くらいまでかかった

とにかくファミレスの片付けは時間がかかる

鉄板は特別な洗剤を使い焦げを削り落とさなければならない

床も水を撒きデッキブラシで隅々まで磨く

全てのシンクには水滴一滴ないようにピカピカにするのだ

ホールはトイレ掃除から始まり全てのテーブルを拭き直し椅子を上げ掃除機をかけ外の旗を回収しレジ閉めを行う

これをキッチン2人、ホール1人のバイトで全てやるので平均でも2時間…忙しい時は3時間つまり4時までかかる事がザラにあった

だがランチの忙しさに比べたらヒマだし、自分らのペースで閉め作業出来るので俺は深夜のシフトは苦ではなかった

いつも一緒の相方もいいヤツだった

1ヶ月週6で一生懸命働いた

時給は850円だったがそれなりの給料になるはずだ

計算では12万円くらいになるはずだ

給料は振り込みのために通帳を作らされていた

わざわざ作った三菱銀行に向かう

給料は今まで手渡しだったので初めての振り込みに俺はワクワクしていた

ちゃんと振り込まれていた

その額8万2000円……

ん? あれ? 8万2000円……

どう計算してもあわない

確実に12万は超えるはずである

まあ、いい今日マネージャーに聞いてみるか

俺はいつもの時間に出勤してマネージャーが帰る前に聞いた

「給料あってないと思うんすけど…」

「え? マジで? 調べてみるよ」

マネージャーはそう言うとパソコンに向かった

「いくらだった?」

「8万2千円なんですけど……もっとあると思うんです」

「んーいやあってるよ」

「え? いやいやだって少なくても130時間以上は働いてるはずなんで」

「……いや、渋谷君は先月98時間だな」

「は?」

俺はフリーズした

聞けば毎日1時半でタイムカードは切られているという

つまり毎日2時間もしくは3時間閉め作業に時給は発生してなかったのだ

完全なるサービス残業だという事だ

俺は戦慄した

「え? それっておかしくないですか?」

「本部に1時半以降タイムカード押しちゃダメって言われてるからねー」

だから何だ?

「いやどんなにヒマな日でも全部の掃除終わるの早くて2時半ですよ」

「おおげさだな〜30分あれば終わるっしょ。じゃ後よろしく〜お先に〜」

マネージャーは颯爽とスカイランで帰ってしまった

納得のいかない俺は深夜のバイト仲間に聞いた

「なあ、1時半でタイムカード切られてたの知ってた?」

相方はバツが悪そうに言った「ええ……まあ」

「何で言ってくれなかったんだよ! てか何で文句言わないんだよ!」

「すいません。渋谷さんコレ言ったらバイト辞めると思って…深夜人いなかったから…」

そんな事はお前が気にする事じゃないんだよ……

社畜である

いや我々は社員ではない

ただのバイトである

ただのバイトがただ働きとはうまいねこいつは…じゃねえ!  

「渋谷さんと深夜だと早いし、話してると楽しいから俺はいいかなって」

とんだ七夕野郎だ

だがお前はいいヤツだ

そして世の中はいいヤツは利用されて損をする

マネージャーの言い分はこうだ

「どんなに忙しくても閉め作業は30分で終わる」

「終わらないのは君らのやり方が効率的でないからだ」

「でも時間がかかってもちゃんとキレイにしてね。時給は出ないけど」

まったくふざけている

つまりこのマネージャーはバイトの人件費を削って利益を出していたのだ

バイト3人で閉め作業していて時給が出ないからといって終わってないのに帰れるわけがない

戦友を戦地残して逃げるくらいの卑劣な行為に思える

バイト同士の責任感や連帯感を利用した実に巧妙な手口である

俺は頭に来た

じゃあこのバイトすぐに辞めたかというと実は一年近く勤め上げた

理由はバイトの連中がいい奴だったからだ

いや、正直に白状しよう

同じバイトにとても可愛い子がいたからだ

若い子達に囲まれて俺にとって20代最後の青春がこのファミレスで始まろうとしていた。

夏はすぐそこだった……

続く

そんなわけでファミレスでのバイトを続ける事にした俺はその子に気に入られるために仕事は出来るようになりたいと思った

いつでもいつだってオスがやる気を出すのはメスに気に入られるためである

元来が面倒くさがりのサボり魔の俺が彼女に気に入られるためにバイトを頑張ったのだ

まったくいじらしい男である

世の女子達に言いたい

男はバカで可愛い生き物なのだ

うまく転がして欲しい

え? 彼女の名前? 

確か小林さんだったと思う

え? ちゃんと覚えてないのは薄情だって? 

しょうがないだろう何十年前の話だと思っているのだ

女の方が上書き保存で前の前の彼氏なんて覚えてないじゃないか! 

男はいつまでも初恋を覚えてる純粋な生き物なんだよ! 

話がそれた

小林さんは専門学校に通う大人しめの女の子だった

眼鏡地味っ子だ

マニアからするとたまんジャンルの子だと思うが、当時でもダイヤの原石だと思った

そこの店には可愛い子が多くて目立つ存在ではなかったが俺にとっては女神だった

小林さんはホール担当で俺はキッチンだったが、シフトの関係で同じホールを担当して仲良くなった

なんとも思ってないのを隠すのに必死で年上の大人の男を演じた

自分が相手の事を好きだというのを悟られては負けである

それは最大の武器を相手に与える事になる

俺は仕事の出来るちょっと年上のおにーさんの高位置でいたかったのだ

俺は頼られた

なにせみんな学生だ

俺だけフリーターだった

「しぶやさん明日ゼミなんでシフトかわってもらえません?」「いいよ」

「しぶやさん明日デートなんでかわってもらえません?」「いいよ」

「しぶやさん明日遊び行くんでかわってもらえません?」「いいよ」

「しぶやさん明日休みたいんでかわってもらえません」「いいよ」

なんのことはない

いつでシフトに入れる都合のよいフリーター……

それが俺だった(笑)

だがそこは俺

ただただ利用されていた訳ではない

相手によっては条件を出したし感謝されるような人間関係を作り上げていた

いいように利用されるてるとも言えるが店にはなくてはならない存在になっていったのだ

そう

聞いた事くらいあるだろう

バイトリーダーである

人間関係というのは一朝一夕で出来るもんではない

みなさんも経験がおありだろう

ん? そういえばいつのまにかコイツ俺にタメ口だな? ま、いいか

あれ? いつのまにかコイツこんなポジションにいるんだ? 

誰も敵に回さず俺は細心の注意を払い店での地位を手に入れていた

社員でも俺に敬語で気を使う立場になっていたのである

「マネージャー深夜のタイムカード2時半まで伸ばしてくださいよ」

「う~ん」

「労基とかに訴えられたら面倒くさいし出世に響くよ。ウチは十分利益出てんだからここでバイト全員抜けたら店回んないでしょ?」

「辞めるって言ってるヤツいるの?」

「このままだとね。俺が説得するからさ。タイムカードの件だけ頼むよ」

「わかった。なんとか頼むね」

「はいよ」

完全に店の裏ボスになっていた

バイトに頼る飲食店ではよくある出来事だ

居酒屋などでもこの現象は多い

おっと話しがそれたな

これは俺の恋の物語だった

店の王様になった俺はストレスフリーてフリースタイルフリターを楽しんでいた。

女子高生が新しく入れば俺が教育係だった

手取り足取り親切丁寧に教えた

「トイレ行ってもいいですか?」

「ダメだ」

「ええ」

「漏れそうなのか?」

「はいい」

「ならば『漏れちゃいます~』と言え」

「漏れちゃいます~」

「よしいけ」

まて通報するな

わかる

わるよ今では(昔でも)完全に変態だ

しかしこれくらいの軽口は今の何かとうるさい世の中でもあると信じたい

俺は楽しく働きたいのだ

後にキャバクラ業界に入ったのは必然ともいえるかもしれない

そんなお気楽生活をしていた俺に一本の電話がなった

高校時代の一個上の先輩だった

「俺と一緒に東京行かなねえか?」

何かとても楽しい事がおこる

そんな予感がした

続く

いいねが何よりのモチベーション🙋‍♂️ よろしければサポートして下さい🙇‍♂️