見出し画像

しぶにぃ物語 麻雀編

俺の本格的な麻雀デビューは大学に入ってからだ。

それまでは友達の家の手積みで遊ぶ程度。

入ったサークルが映画研究会と言う名のゴリゴリの麻雀&飲み会サークルだった。

キャンパス内にある部室はゼミ(理系)の実験があるという大義名分(実験検証が24時間以上かかるため)で泊まる事が出来た。

狭い部室だが二段ベッドとソファーで4人は寝れた。

1年生ながらほぼ部室にいる俺は当然のように麻雀面子要員になった。

部室に行けば4人そろう。2卓立つのもザラだった。

キャンパス近くの雀荘はセット専門の13卓でいつも学生で一杯だった。

講義をサボりがちになり、このままではいかんと断るのだが「2限目だろ? 間に合う間に合う」と先輩方。

間に合うわけ無いのである。

麻雀は時間を食う遊びなのだ。

だが、それだけ熱中出来るゲームとも言えた。

「金ないですよ」も通用しない

「勝てばいいんだよ(ニヤリ)」

この魔法の言葉で(魔法か?)ズルズルと雀荘へ。

最初はボコボコにやられた。

「みんなそうやって覚えるんだよ」

悪魔のように微笑む先輩方。

「ケケケ」と悪魔そのもの笑い方をする先輩もいた。

実際、今思っても強者だらけだった。

とにかく1発ツモが多い上地先輩(実名)は部室の主であり常に金欠で「やべ300円しかねえ! セブンスターと緑のたぬきどっちがいいと思う?」と聞いてくるような人だった(結局腹を鳴らしながらセブンスター)

中高エスカレーターの岡本先輩(実名)は「配牌で2面子しかないよ」と嘆く幸運の持ち主でパチンコでも「この人だけ確率違くないか?」と勝ちまくっていた。

俺が負けて落ち込んでいると「俺勝ちすぎたからさ! ほらよ!」とライターの石をドサっとくれる剛気で優しい先輩でもあった(ライターの石は近くの古物商で現金に換えられるのだ!)

とにかく上がりの早い増田先輩(実名)は他の先輩から嫌味を言われながらも麻雀の腕は確かだった。

いつも腹を空かしておりエビピラフを食べながら麻雀中に「腹減ったなあ」とかボヤき「今食ってるだろうが!」と突っ込まれ「あ、ホントだ!」と驚く天然な面もあった。

とにかく個性的な先輩に囲まれて昼は麻雀そして…

夜は飲み会である。

画像2

(すぐ脱ぐのが俺だ)

この飲み会が激しかった。

ビールがジョキ禁止で瓶なのには理由があった。

みんなコップで飲む。

数少ない女子もだ。

勧められたら空けなくてはならない。

自分のペースなぞない! 

さらに先輩の杯が空いたら後輩は注がなければならない。

もし先輩に手酌をさせると罰として飲まなければいけない(これを罰符という)

2人の先輩に挟まれたら地獄である。

同時に乾杯されると片方にしか注げない。罰符として飲んでる最中にもう片方が手酌…さらに飲んでる最中にもう片方が手酌…そう無限ループ永久期間の完成である。

画像3

今のこのご時世決して褒められたものでも無いし、過去を美化するつもりも無いが只々当時はこれが日常だった。

画像1

(一度脱いだら2度と着ない)

12時間麻雀を打ち、朝まで飲んで部室に泊まり、次の日はまた違う先輩と麻雀。

先輩方でさえ1日ローテなのに俺だけ毎日ヘビーローテンションで打ちまくった。

麻雀は楽しかった。

飯を食わなくても寝なくても麻雀は打てた。

画像4


そんな日々が3ヶ月くらい続いたある日「ちーす」と、見知らぬ先輩が部室に入って来た。

「なんだ鈴木。久しぶりだな」上地先輩が笑う。

後に俺の麻雀の師匠になる鈴木先輩(実名)との出会いだった。

「あれ? 上地さんしかいないの?」

鈴木先輩はそう言うとソファーに座り煙草に火を付けた。

「昼休みにはみんな来るんじゃね。あ、コイツ1年の渋谷(実名)」

上地先輩に紹介されて俺は「初めまして」と挨拶した。

鈴木先輩は煙草の紫煙を曇らせてたっぷり一呼吸置いてから「どーもー」と言った。

どこか人を食ったような態度だが不快では無かった。

独特の雰囲気と間を持つ人だった。

「3ヶ月も何やってたのよ?」

上地先輩がバイクの部品をいじりながら言った。

余談だが上地先輩はバイク好きで常に部室で何かしらの作業をしていた(一体ここは何サークルなんだよw)

「ずーと仕事よ。打ちっぱなし」

聞くと鈴木先輩は歌舞伎の雀荘でメンバーをしてる人だった。

俺は興奮した。

この人メチャクチャ強い人なんじゃないか? 

入って来た時から只者じゃないオーラを感じていた。

「麻雀しませんか?」

俺は無邪気に言った。

この頃の俺は勝ちまくりの絶好調で麻雀が楽しくて仕方ない時期だった。

負けるのが嫌で麻雀の戦術本(当時は基本的な物しかないが)を読みまくって勉強しゲームを購入して研究しまくっていた。

PSのソフトで名前も忘れたがそのソフトはおさらい機能(局をやり直す)がついていてifの選択が出来る事で俺の雀力は飛躍的にアップした。

当時はそう思っていた。

漫画に出てくるような強い人と打ってみたいと思っていた。

「大学来てまで麻雀かよ」

鈴木先輩が初めて笑った。

笑顔は少年のような人だった。

上地先輩が首を振る。

「鈴木は強えぞぉ」

「強い人打ちたいじゃないですか」

「俺はいやだね。弱いヤツと打ちたい」

上地先輩が舌を出して肩をすくめる。

彼はアメリカン的なリアクションをするのが癖だった。

画像7

この頃になると本当に強いと認める先輩は俺の中で2人しかいなかった。1人はこの上地先輩でもう1人は……

「おう。鈴木じゃねえか」

部室に入るなり岡本先輩は言った。

俺は椅子から立ち上がると

「岡本先輩行きましょう」

と、促した。

「え?」

「大三元」

※大三元は雀荘の店名(実在)

画像8

「え? 麻雀? 鈴木いるじゃん。ヤダよー」

「強いヤツと打ちたいんだと」

乗り気じゃ無かったはずの上地先輩はすでに咥え煙草でジャケットを羽織っていた。

「後輩の挑戦は受けなきゃな。まあまあ、本気は出さないよ」

鈴木先輩が岡本先輩の肩を叩く。

「鈴木! 点5だからな!」

岡本先輩が観念したように言う。

「いくらでもいいよ」

それは仕事ではないお遊び麻雀の時の鈴木先輩の口癖だった。

結果だけ言うとその日の俺の麻雀収支はトントンくらいだった。

だが、鈴木先輩が本当に麻雀が強いのはわかった。

麻雀というゲームは「勝てば強い!」「負ければ弱い!」という単純なゲームではない事は賢明な読者諸君は理解していると思う。

運が大きなウェイトを占めるこのゲームは1ゲームで格付けは出来ない。

だが皆さんご存知の片山みさゆき著「ノーマーク爆牌党」の主人公爆岡弾十郎が「半荘4回で分かりあえる」と、言っているようにある程度はその人の強さはわかる。むしろ負け方でツキで勝ちまくるよりもその人の雀力は分かると思う。

具体的にどう強いかは専門的な話になってしまうので別の機会にしようと思う。今は

鈴木先輩は麻雀超強い人

この認識でいいです。

この日から俺は鈴木先輩と遊んでもらうようになった。

麻雀ももちろんだが色んな事を教えてもらった。

初めてのキャバクラも鈴木先輩。

場所は町田。

初めての叙々苑も鈴木先輩。

場所は歌舞伎町。

肉も美味かったが叙々苑サラダに感動した。

遊ぶのは大体町田か歌舞伎町だった。

S先輩の職場の雀荘が歌舞伎町だったし、町田はお互いの実家の中間地点だからだったと思う。

どちらの街も雀荘と飲み屋には不便しない。

「今日何食べたい〜?」

と、鈴木先輩が聞く

「蟹!」

と、俺が答える。

かに道楽行って、キャバクラ行って、スナック行ってタクシーで帰える。

「今日何食べたい〜?」

と、鈴木先輩が聞く

「肉!」

と、俺が答える。

叙々苑行って、キャバクラ行って、スナック行って、タクシーで帰る。

毎週こんな感じだった。

大抵、蟹か焼肉だったと記憶している。

もちろん会計も全て鈴木先輩だ。

ある日その事に感謝すると鈴木先輩は言った。

「俺が誘っておまえと遊んでもらっている訳だから、会計払うのは当たり前だろ? おまえの時間もらってんだから」

そういう人だった。

「なんか俺キャバ嬢みたいですね」

「だったらもっと可愛い子指名するわ」

そういえば鈴木先輩は初めて飲む店でも指名する。

フロントの黒服に話しかける。

「2人だけどいける?」

「はい。ご指名はございますか?」

「まりちゃんいる?」

キャバ嬢にいそうな適当な名前を言う。

「申し訳ありません。まりさんは本日お休みです」

俺(在籍はしてるんかい!)

「あみちゃんは?」

「出勤しております」

(いるんかい!)

「じゃあ、あみちゃんで」

(指名するんかい!)

「ありがとうございます。お連れ様は?」

「フリーで」

(俺ら初めてだっちゅーの)

店に入ると「その店のあみちゃん」と黒服の会話が聞こえる

「え? 知らない知らない?」

「ご指名だから」

「え? 本当にわかんない」

「指名だから」

怪訝そうな顔で隣に座り探り探り言うあみちゃん

「初めまして…ですよね?」

「そだよ〜」

「ですよね! ほらあ〜! だから言ったじゃん! マネージャー! わたしはお客さんの顔忘れないから!」

これには俺達とマネージャーで笑ってしまった。

そういうイタズラをする人だった。

帰りに「今日のあみちゃんは可愛くなかったけどオッパイはデカかったなあ〜」と、さして残念そうでもないし、嬉しくもなさそうに言うのだ。

画像6

数年後、俺がキャバクラの店員になって指名の子をつける時たまに

「え? わかんない、わかんない、誰?誰?」

と、キャバ嬢が言うたびに俺は鈴木先輩の顔を思い浮かべて懐かしい気持ちになっていた。

「とにかく着こう。着けば思い出す」

「え〜(猜疑心からの)久しぶり〜(豹変)」

ちなみにこの場合はただ単にキャバ嬢がド忘れしているだけであるが酷いと思ってはいけない。

忘れるくらいご無沙汰な客がいけないのだ。

話がそれた。

そう、鈴木先輩は金を持っていた。

何故か?

麻雀で勝っていたのである。

え? 麻雀ってそんな稼げるの?

そう思ったでしょ?

俺も思った。

鈴木先輩の働いていた歌舞伎町の雀荘は著名人も来る界隈では有名な店だったのだ。

具体的な名前は押川雲太朗先生だけ思い出したので書いて置く。

表のレートはMAXだったろうし、裏のレートは…

ただ、楽して儲けている訳では無い。

麻雀はギャンブルだと言うもいる。

雀荘で安定して収支を上げる事がどれだけ大変かは経験者には痛いほどわかるであろう。

技術が確かでも精神を保つのが大変なのだ。

どんな時でも打たなければいけないのは相当大変な事だ。

「麻雀久しぶりだーわーい(大人な子供)」ではないのだ。

鈴木先輩は強靭な精神の持ち主だった。

だが、能力には代償が伴う。

その代償が夜遊びだったのかと思う。

当時キャバクラをご馳走になりながらも俺は「お金もったいないなぁ」と思っていた。

大人でも思う人がいるのに学生時代なら尚更だ。

だが、キャバクラで勤務し沢山のお客さんを見てきた今なら「あれで均衡を保っていたのかな?」とも思う。

危うい感じのガラスのエース…

キャプテン翼で言うところの美杉淳。

そんな人だった。

俺はと言えば鈴木先輩と遊ぶようになって逆に麻雀だけの生活では無くなった。

自分の麻雀に限界を感じたと言えば大袈裟だが、当時はそんな気持ちだったと思う。

どんなに勉強しても勝ったり負けたりの繰り返しで情熱も冷めていたと思う。

「所詮は運ゲー」

誰もが1度は思う壁に例外なく俺もぶち当たった訳だ。

もうひとつはスロットの存在だ。

当時は獣王などのAT機全盛で麻雀より稼げた。

生活スタイルがスロット7、飲み2、麻雀1に変化していた。

そしてある日を境にすずき先輩は部室に顔を出さなくなった。

だがまあ、元々そういう人だったので当時の俺はそんなには気にしていなかった。

しばらくして鈴木先輩が久しぶりに部室に来た。

「ずーと麻雀ですか?」

「うん。借金を返してた」

「え? 麻雀負けたんですか?」

「俺が麻雀で負けるかよ」

「じゃあ…?」

「渋谷君。コインで表が8回出る確率は?」

「え? 2分の1×2分の1×2分の1……」

「256分の1だ」

「はあ……」

「じゃあ次は何が出ると思う?」

「裏なんじゃないですか? 流石にそろそろ」

「表なんだなこれが!」

鈴木先輩が珍しく大きな声で言った。

「あの…何の話です?」

「バカラ……」

どうやら裏カジノで負けた話らしい。

画像5

「あちゃーいくらですか?」

「300万」

「300万!」

「おかげで3ヶ月麻雀漬けだよ」

鈴木先輩は麻雀以外では熱くなるタイプだった。

しかし、300万もの借金を3ヶ月で返せる雀力は流石だと改めて俺は感心した。

スロットでの調子が悪く負けが込んでいた俺はやはり麻雀は稼げると思い本格的に教えを請う事にした。

ただ途中で投げ出した。

俺には無理だと思ったのだ。

麻雀に必勝法なぞ無く。地味な勉強の作業の積み重ねで、それを突き詰めると対戦相手がドコからナニを出すかまで全て覚えなければいけない。

これが難しい。

というか無理。

そして努力の割に見返りが少ない。

相手の待ちがわかったところでツモられたら終わり。

圧倒的運量の相手に押し潰される事も多いゲームだ。

鈴木先輩は見た光景を写真として脳裏に焼き付けてそれをいつでも取り出せる能力の持ち主だったのだ。

だがそれだけではない。

とにかくミスをしない、迂闊な一打をしない細心の麻雀で勝ち額を積み重ねていったのだ。

誰もが考える事であろう。

言うは易し行うは難しだ。

シンプルだが難しい。

ちなみに鈴木先輩は流れ論者でもある。

その後も鈴木先輩は中国マフィアと揉めたり「本物の青龍刀はビビった」とか、キャバクラで金持ち自慢のお客さんにムカついて「そんなにお金あるならじゃんけんで100万円かけましょうよ」とその場で勝負して負けたりとかした。

色々と逸話はあるのだがそれはまたの機会とする。

鈴木先輩は8年かけて無事大学を卒業し

俺は5年で除籍になった。

随分と昔の話である。

また最近麻雀熱が復活した。

Mリーグの影響だ。

自分が打ち込んだコンテンツが華やかな舞台で注目されるのは嬉しい。

Mリーグを観てると麻雀漬けだった学生時代を思い出す。

あの黄金の日々を回顧するのは心地よい。

そして、あの夢の舞台でも鈴木先輩なら飄々と対等にやりあえるんだろうなと想像してしまうのである。





終わり

いいねが何よりのモチベーション🙋‍♂️ よろしければサポートして下さい🙇‍♂️