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僕の経験では、クレームで怒る客は、対応次第ではファンになる

「文句はこれに書いて会社に送りなさい」

15年ほど前のことです。ミラノのリナーテ空港からナポリ空港に向かう便に乗る予定でした。しかし、搭乗時間になってもゲートは閉じたまま。機体整備に時間がかかっているらしいのですが、一向に詳しい説明がありません。

搭乗予定の数名がゲートの係員に説明を求めて詰め寄り始めましたが、体格のいい女性係員は腕組みをして同じ説明を繰り返すばかり。係員は話が途切れたタイミングで立ち去り、10分ほど後に何かを抱えて戻ってきました。

周りから「ミールクーポン(食事券)?」という声が挙がりましたが、配られたのは封筒と便箋。係員は「文句はこれに書いて会社に送りなさい」といったのです(たぶん)。怒りの声が高まったのはいうまでもありません。

「虎屋の仕事と思われるのは遺憾です」

ネットがそれほど使われていない時代の話です。岡山の取引先から虎屋の和菓子の手配を頼まれました。お客さまへ贈る品でかなりの数でした。当時の勤務先の近くにあった百貨店内の虎屋に発注し、納期通りに到着しました。

しかし、発注時に確認しなかったために、包装紙が百貨店のものになっていたのです。取引先の社長からは「虎屋でないとダメだ」という怒りの電話。困り果てて虎屋に相談すると、30分ごとに状況説明の電話が入りました。

結果的には、京都の虎屋の担当者が、その日の夜に取引先を訪問し、包装し直してくれたのです。スタッフが手伝おうとすると「すべて私がやります、包装に乱れがあったときに、虎屋の仕事と思われるのは遺憾ですから」。

クレームは処理するものではなく、誠実に対応するもの

こちらの確認ミスにも関わらず、誠実な対応に心から感動しました。包装された方の一言にも痺れ、僕も取引先も虎屋のファンになりました。「ところで櫻田さんは何時に来るんだ」という社長の強烈な皮肉も忘れられません。

ないにこしたことはありませんが、クレームはゼロにはなりません。先の二つの事例から学んだのは、起きたときの対応です。クレームの怒りの火は、起きた後の対応次第で、大火にもなり、ボヤ程度ですむこともあります。

さらに誠実な対応によっては、怒りの火が消えた後に、ファンに変わる可能性もあります。念のためにクレーム処理という言葉を使っているとしたらその時点でアウトです。クレームは処理ではなく、誠実に対応するものです。

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