見出し画像

【厩舎菓子】栗きんとんと干し柿のバターケーキ*スタッフは家族

 このウッディなモザイクに見えるのは、実はパウンドケーキである。

 話はとぶが厩舎関係者になってとみに思うのは、馬業界が家族を巻き込んだ仕事であるということである。家族というと血縁を思い浮かべるが、スタッフ、関係者・・・生産する人、馴致する人、調教する人、休養させる人、運ぶ人、餌を作る人、餌を運ぶ人、餌を売る人、餌を開発する人、病気を診る人、治療をする人、リハビリする人、掃除をする人、餌をやる人、牧草を刈る人、牧草を干す人、厩舎を夜見回る人、トラックを整備する人、検疫をする人・・・・。まだまだまだ、巻き込む人の数は知れず、そういう人たちが皆、家族同様に働く。とはいえ、知り合いたいとか、笑い合いたいとか、言うのではなく、もちろんそうなれたらいいのだけど、そうならざるを得ないプライベートを削るような、労働力の提供によって成り立っており、これはもう、家族と呼べるんではないか。

 十年前、夫が調教師試験に合格した時、開口一番いったのは、
「これからはスタッフという家族が増えたから、頑張らなくちゃ」である。
 正直、「はぁー?!」と思った。ちょうど息子二人の中学受験が終わった直後。それまでも調教師志望の夫は、『子煩悩のアウトドアな父親』などではなく、夏休みには長期不在だし、一年を通して早寝の早起きで、夜のお出かけなんか全くないし、授業参観は徒歩5分の小学校まで、それ以降は土日も休みなしの上、一泊なら関東近県なら良いが、それ以上の宿泊はほとんどしたこともない。だから、家族サービスなら、まずはごく近い家族からお願いしたい、と思ったものだ。

 しかし、遠まきながら、厩舎経営の様子を見ていると、薄々わかってくることがあった。この世界は、未だ、儀礼的なところが残っている。儀礼と言っても私には温かく感じるのだが、そこに最初のスタッフへの気遣いを感じさせるものがある。
 お中元、お歳暮、時にはそれに関係なく、季節の物をいただく。それは時として大きな段ボールに詰まった野菜だったり、旬の魚だったり、びっくりする量が届くのだ。
 私は以前、秘書をしていたことがあって、季節の贈り物に関しては上司のもとで送ったり、返礼の手紙を書いたりの経験がある。だから贈り物については多少の知識はあるつもりだったが、この世界のそれはそこからの企画とは全く違っていた。量も多いし、素材系が多いのだ。さらにいうと、送ってくださった方達の、『みなさんで食べてね』という気持ちが聞こえてきそうなのである。

 開業1年目はその大量かつ素材系の贈り物をどうしたらいいか、迷うほかなかった。そのうちスタッフに自由に持って帰っていただくようにした。が、そもそもスタッフのご実家からもいただくことがあって、なかなかうまくいかなかった。
 他所の厩舎は奥さんが頑張ってるよ、なんて話を、夫はしないが、なんだか怠けているような気がして、色々意見を言ってみるけど、所詮は馬好きというだけの門外漢。競馬のことは何も知らない。馬はみんな一生懸命走るだけだと思っているから、その能力が100%出れば満足できる結果になるんじゃないの?と言っては笑われました。でも、お金の云々は別にして、それ自体は、楽しいもののはずなので、お菓子を焼くことにした。古い厩舎から、外国のステーブル様な新厩舎に引っ越してからのこと。
 それが一番夫にもしっくりくるサポートだったようで、もう五、六年になるだろうか。

 皆さんで食べてね、と聞こえた干し柿、栗きんとん。たくさんいただいていたのを冷凍保存しておいた。これをたっぷりバターを含ませた生地にクリームチーズと一緒に焼く。干し柿も栗きんとんも既に甘いので、メープルシロップは半量にしてじっくり30分。柿は少し酸味があってねっとり、きんとんはほっくり、バターケーキの中で食感の違うモザイクが楽しい。リッチで香ばしいケーキになりました。これもわらしべケーキかな。
 一番コアな家族たちは、独り立ち直前。結局、馬的家族が周りに残った。スタッフは家族なのです(確信)。だって同じ釜の飯、ならぬ同じオーブンの厩舎菓子の仲なのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?