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絶品唐揚げ

「その唐揚げ、食べてみて」
Mさんは毎日美味しい料理に取り組んでいる。
「お店でも出したら、きっと楽しいよ。」
ダイナミックに料理を作って、人あしらいも抜群にうまくて、性格が明るく、人に好かれる性格だから繁盛店が出来る。彼女の極上料理を評価するのが私一人では勿体無いと思うのだが、彼女は決して多くの人に美味しいと言ってもらいたいとは言わない。
「家族が美味しいと言ってくれれば、それで十分。」
Mさんのような母親に日本の家庭は支えられてきた。
「今日の唐揚げ、いつもと少し違うけど、どう?」
「?」
「それは絶品唐揚げよ。」
Mさんの言葉。
「?」
彼女自らが絶品だというのは変だ。確かに上手いが「絶品」かどうかは?食べた私が下す判断であって料理人が口にする言葉ではない。
「えっ。何が絶品なの?」
質問の答えは返ってこないので、別の聴き方をする。
「唐揚げ粉が絶品?それとも鶏肉?」
「違うわよ。レシピの名前が絶品唐揚げよ。」
料理熱心な彼女はいつもと違う唐揚げをしようと考えてブログを調べ、本日採用したレシピの名前が「絶品唐揚げ」であった。

 何事にもタイトルの付け方が変わった。YouTubeを開いて「唐揚げ」で検索すると
「至高の唐揚げ」
「最強唐揚げ」
そして
「絶品唐揚げ」
料理のレシピがネットに上がり視聴された回数で動画制作者に広告料の一部が入る。この仕組みで料理研究家は競ってサイトを立ち上げている。パソコンに疎い料理人は動画制作をプロに依頼する。所謂、YouTuberなる職業が生まれた。

 YouTubeで収益を上げる方法。まず制作した動画が検索で引っ掛かるためにハッシュタグ(#マーク)をつける。
#肉料理
#唐揚げ
#今日のおかず
#美味しい夕食
などをつける。検索に出てくる動画の表紙画面が現れる。これをサムネイルと言い、そのサムネイルの中にタイトルも現れる。多くの視聴者を獲得するためにはタイトルが刺激的でなければいけない。この辺りがタイトルが刺激的になった原因である。
 YouTuberとは動画投稿サイトYouTubeに動画をアップする人のことを言う。とりわけ広告収入を得ているプロを指すこともある。私はYouTube Creatorではあるが収入を得ているYouTuberではない。広告収入を得るためには資格が必要になる。けれど、私は資格を有していない。年間視聴時間が4,000時間以上でチャンネル登録者が1,000人を超えなければできない。私の場合4,000時間は超えていて、登録者も921人まできたからそのうち有資格者になる。しかし、収入が毎月10万円にもなれば考えるが、とてもそんなレベルの人気は出ない。
「70歳の老人が作った動画を,同業者や同世代なら少しは見てくれるけれども、老人がYouTubeを見るとは思えないし、若い人が老人の作った動画を見てくれるはずがない。」
もし、そんなに人気が出たらその時は考える。こう思った瞬間、私にもYouTuberを目指す気持ちがあることがわかった。私には下心のような欲や功名心が未だに残っている事に嬉しくなった。
「君の作った料理をYouTubeに投稿したいんだけど、協力してくれますか?」
試しに聞いてみた。
「いや,です。」
きっぱりした態度に私はMさんを説得する術を持てない。毎日、彼女の美味しい料理を食べるだけで満足することにする。いや、
「十分幸せです。」
ただし、もう少し人生についての修行が必要らしい。
 

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