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インダストリアルデザインの発想とプロセス

はじめに

持続可能な社会をめざして


この地球上で発生するモノやコトは、取り巻く 環境との関係で、常に新しい状況へと変化している。 そして今、持続可能な社会への考え方が広がり、 かつての「量」的な考え方から「質」的な考え方へ と大きく変化した。

今までの時代は、量的な考え方、すなわち、大 量生産と大量消費を中心に考えられてきた。ブルドーザーで土を掘り、モーターをつかって高速に、生産は大量にという時代だった。しかし、これからはエコロジー・持続可能な社会を目指さなければならず、「質」的な考え方への転換期なのだ。

CATV「The History Channel」にて放送「Life After People」 人類が突然地球上から永久に消滅したら地球に一体何が起きるのか? 生態系は?人類が築いてきた産業社会は? それらの疑問に対して一定の回答を見せてくれる。

先日、アメリカの CATV「The History Channel」 にて放送される「Life After People」が放映されていた。人類が突然地球上から永久に消滅したら地球に一体何が起きるのか?を科学的にシミュレーショ ンした番組だった。人間がいなくなれば放棄された 超高層ビルはこわれ、数百年後には鳥や齧歯類、植 物などを含めたエコシステムで地球上の自然は、ほ ぼ元の状態に戻るとシミュレーションしていた。地 球環境破壊の諸悪の根源は人間の存在だ。と暗に明 示しているようだ。しかし、人類が滅亡するわけに はいかない。つまり、持続可能なというのは、地球 に対してだけではなく、人類に対して言っていると 認識にすべきだ。自分たちの祖先を含めて、これか らの子が持続可能、生きつづけられる社会をつくる ためにはどうすればいいのか、ということがそこの 言葉の中に入っている。

問題解決のための 6 段階 スパイラルを描くように徐々に問題が昇華される

人間が自然界の生態系の循環から離脱したとき に「創造する」行為がはじまった。創造は、破壊の 上になりたっている。そして、創造によって、人は「感 動」を得る。最初のデザインは、道具であり、農業 だ。定住することで、多くの創造行為が起きた。こ れをアグリデザインという。創造によりうみだされ たモノやコトはスパイラルを描くように改良・改善 が加えられ進化してきました。

デザイナーの担う役割

「デザインマインドカンパニー」の著者、クリス トファー・ロレンツは、「IDのデザイナーは、技 術と消費者の双方に直接接触することができる唯 一の人間だ。彼等は、製品マネジャーやその他のさ まざまな調整役が導入されても、コンセプトから市 場導入まで、すべての開発と生産プロセスを通じて 新商品に関わるただ一人の人間である」と述べてい ます。デザイナーは、経済産業の中で、モノをつく る人たちの調整役やユーザー、使う側などの問題点 や感覚・意識まで捉え、トレンド、時代性などの価 値などいろいろ考察し、それらを情報化し、整理し て、開発すべき商品にどう向けていくかという役割 をにない、今後も担い続ける

デザインの担う役割

デザインはどのような位置で、どのような役割 を果たしているのか、また、その進化に対してデザ インはどのようにかかわっているのか、行動する場 合のポジションは何なのか、それらを人と生活、人 と社会、人と企業、人と機械といった角度から捉え てみることが、インダストリアルデザイナーとして 重要であり、その視点を持ちながら常に行動しなけ ればならない。

引用:
デザインマインドカンパニー―競争優位を創造する戦略的武器
クリストファー ロレンツ ( 著 ), 紺野 登 ( 翻訳 ), 野中 郁次郎 ( 翻訳 )
1990 年 4 月 初版 発行:ダイヤモンド社

デザインとは

デザインとは

“ デザイン ” は、もともと定義が曖昧で、一般的に、 ものの姿や形を構想、設計することとらえられてい ることが多い。
2008 年経済産業省より発表されたデザイン政策 ハンドブック 2008 には、「デザインとは、デザイ ンは付加価値ではなく、もの作りをおこなう上で “ 必要不可欠なもの ”」として捉え、そして、「デザ インの領域が表面的な視覚で捉えることができる (タンジブルな)デザインだけなく、視覚では見え ない(インタンジブルな)デザインへと拡大していると考えることができ、この傾向は今後更に進展していくと考えられます。」と述べている。

デザイン政策ハンドブック 2008 より
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/ human-design/handbook2008.pdf


このように、デザインは、決してカタチや色を 決定する行為ではなく、ものづくりを通じて企業のブランド形成を促したり、生活提案をおこなったり する「企てる」部分が重視されている。 また、デザインは、芸術と科学の真ん中に位置している。文化的と工学的、右脳と左脳、理論と経験、デジタルとアナログなど様々なわけかたがある が、ちょうどデザインはその両方の考え方が必要であり、二つの創造行為が必要になる。 芸術の「美しい」と感じられる姿が必要であり、 科学の「経営的」要素や「工法」など2つの領域の どちらもがデザインには、求められている。以上のように、デザインは、芸術と科学の二つの創造行為 を関係づけて、その中から具体的な答えを出すこと だ。

インダストリアルデザインは、社会に対する質 の高い価値(メッセージ)を、商品を通じて提供 するための仕事だ。そして、「問題解決の提供者/ solution provider」として、商品を通してデザイン の概念を社会に提供し、問題点の抽出や判断基準の 設定など、その過程で生じたものが経営資産となる ようにという姿勢でデザインをすることが求められる。

デザイナーの資質

デザイナーに必要とされる 3 つの資質に、知恵 と知識と技術がある。 知恵は、先見性や発想、企画構築力など、知識は素材、色、加工、構造などの情報、文化的、社会的、歴史的背景など、技術は造形能力や設計能力表現力などだ。 “ デザインする ” ということは、ソフト面とハー ド面の二つの創造行為を関係づけて、その中から具 体的な解決策を出すことの一言につきる

求められるデザイナーの資質と知識

課題の発見、発想のポイント

課題発見のポイント

人々がより楽しい生活をおくるために社会の問 題を解決しなければならない。モノがたくさんある 時代といわれているが、まだ、解決されていない問 題は山積みになっている。この問題解決のためにこれから述べるポイントをを把握して発想をすることが 重要となる。

時代(トレンド)を読む

 時代の流れを読むことは、消費者のニーズやウォ ンツを知るための重要なポイントだ。ニーズは必要 性、消費者がハッキリと感じている欲求、ウォンツ は、潜在的な欲求。提示されてはじめて「これ便利 だね!」と言われるような欲求だ。これらの調査で 「だれが」「どんな商品を」購入しているか、「どんな商品が評価されているか」から、「今の市場がどうなっているか」を知るために行う。そして、市場 の傾向と人口や生活に対する調査結果から「未来」 を予測して「求められる商品像」を導き出す。

データはどのように読み解くかが重要 図:高齢者白書より

 市場の傾向や生活に対する調査は、自ら調査をすることもできるが、莫大な時間と調査費用が必要となる。そこで、官公庁が行っている調査や業界団 体が行っている出展のはっきりした調査結果を積極的に利用し、ある程度の傾向をつかんだ上で、費用を投じて調査するようにする。

 各官公庁より発行される「白書」には、おおき な人口や生活などの傾向が掲載されている。代表例 としては、人口構成の動きだろう。人口のほかには、 経済成長、GNP、産業構造、スポーツレジャーの傾 向、家計出費など、さまざまな面において調査が行われている。

 データは、集めることが主目的ではなく、分析して、時代を先取りする商品を企画するための情報として利用することが主目的だ。これらのデータが 語るモノを注意深く読み取ることがよほどためにな ることは間違いない。また、インターネットを利用 データはどのように読み解くかが重要 図:高齢者白書より 課題の発見、発想のポイント インダストリアルデザインプロセスの実際 8 すれば世界中から情報を集められるようになった。 かつての紙面による情報提供時代に比べると質と量 も大きく変化している。いわゆる情報化社会の波は 情報収集方法も大きく変化させた。 同じデータでも切り取り方や視点を変えれば新しい発見ある。そこで求められるのは、デザイナー の視点で、適切な情報をいかにあつめ、どの情報が 正しいのか、質を見極める目を持つことだ。

 トレンドの把握はいっそう難しい時代となって いるが、こういう社会の動きに積極的に対応する姿勢が必要だ。

得意分野、興味の対象をどう活かすか

世の中の表面的な変化にまどわされて、今、人 が何を求めているのかわからないと商品開発に携わ る人が嘆くのを聞くことが増えている。いいアイデ アが浮かばないと嘆くことがあるかもしれない。世 の中が変わって何をやってよいかわからないときは、あれも、これもでは結局迷ってしまう。
 そんな時は、一度自分の得意分野、興味の対象にこだわってみてはどうだろうか。そして世の中の 動きをよく見て、自分の得意分野や興味の対象から 何が出来るのか、あくまでその線でとことん追求し てみることだ。

 蓄積された技術や得意分野を積極的に活かし、 見事な仕事や事業を展開している例もある。伝統産業といわれる分野でも、得意な技術や専門技術を活 かし、現代の技術とあわせて新しい展開をして成功 している例は数え切れない。

鋳物技術と現在デザインのコラボレーション

 また、多くの人のもつ「強み」を生かせれば、 もっと大きなプロジェクトができるときがある。東 大阪の町工場がうちあげた人工衛星などもよい例だ ろう。それぞれの企業の持つ技術や専門性をコラボ レーションすることでなしとげられたのだ。

 それぞれに得意分野があるからこそコラボレー ションができる。一芸にひいでるではないが、自分 の強みを活かすことは、重要だ。


自分の体験にもとづいた発想で

 アイデア発想や商品開発のときには、幅広い情 報を把握し、かつ、既成概念にとらわれない、自由で独創的な発想をすることが求められている。

 KJ 法やゴードン法などの発想の諸手法を活用し、自由発想により色々なことを自由に考えながら沢山の案をだし、あとでこれを絞っていく方法をとる。そして、より価値のあるアイデアを求めようとする。 様々な発想法を利用することもアイデア発想の方法の一つだ。アイデア発想法は、多種あり、それぞれ に特徴がある。

 個性的なものを生み出したいときには、むしろ 自由に考えずに自分が現在最も心をひかれるものを 探し、そのイメージを目前の課題にあてはめる方法 をとる。また、比較の発想法といって、二つのもの を比較してその共通点と相違点を見出し、その要素 とは何なのかを探し出す方法などを用いることも必 要となる。自分の最も得意とする知識や技術を活かすように心がけることも一つの方法だ。

知恵、知識、技術にも非体験的情報と体験的情報がある。

 また、アイデア、発想の行為で大事なのは、非体験的情報と体験情報の活用方法だ。知恵や知識には、自らが体験して得た体験情報と本や他人から得た情報の非体験情報がある。非体験情報は、コン ピューターなどで情報収集がある程度でき、体験情 報は自分が体験しないと理解できない。

 デザイナーは、問題や課題を見つけて、それに対処するが、なるべくなら体験情報にもとづいた発想することが必要だ。例えば、「介護するための商品」 を発想しようとしたとき、どのように介護している かの行為は非体験情報として得ることができるが、 実際にどのぐらい力がいることなのか、どこに配慮 すればよいのかなどは、体験してみないとわからな い。バラの香りはどんなもの、口では情報伝達はむ ずかしい。バラを嗅いてみればすぐにわかることで も言葉をどれだけ並べても、画像で流しても、伝えることはできない。それが体験情報だ。
発想するときは、非体験的情報にばかり頼らず 体験情報との組み合わせ、コラボレーションが大切だ。

生活者を読む

生活者の意識や商品に対する考え方は次第に変 わりつつあることはいうまでもない。

商品開発の歴史を振り返ってみてもわかるよう に戦後すぐの昭和 20 年代はあらゆる物資が不足お り、物さえあれば売れる状態だった。昭和 30 年代 から 40 年代にかけては均一量産の時代であり、基 本的な機能が満足されていて価格が安ければ売れ た。結果、マスセールスによって開発されたマーケ ティングに沿って画一的なコンセプトの商品づくり がおこなわれてきた。高度成長期にあったため市場 がどんどん大きくなり画一的なコンセプトの商品で あっても問題はなかった。耐久消費財の需要消費財 の需要動向を探る場合、商品の開発時期、成長期、 普及期、衰退期等にわけて、その普及率から商品が 一般化される度合いを測定すれば把握できた。

社会潮流の変化・1995 年 ICI 作成

 しかし、現在では、こういう商品ライフサイク ル論だけでは需要を把握できなくなっている。今や マーケットを購入者の各層にわけてそのニーズを見 ようというマーケットセグメンテーションの考え方 だけでなく、人々の生き方、生活の仕方、ライフ スタイルを基本的に考えるべきだといわれるように なった。ライフスタイル別、マーケットセグメンテー ションは常識となっている。そして、求めている層 の傾向を分析し、生活者の嗜好を読み商品のデザイ ンを検討することが一般的となった。

「自らが求めるもの」「欲求を満たすもの」など 自己実現のためにモノを購入するようになった。生 活者のニーズは進化し、もとめる人にフィットする 商品化のありかたがひとつでなくなり、同じ機能の 商品でも、だれが、どんなふうに使うなどのターゲッ トをデザインし、またそのターゲット層にフィットする、デザインコンセプトの的をはっきりと絞って たてることが重要となっている。 そして、自らを生活者として認識し、発想する ことも大切なことだ。まず自分の生活の周囲を見回 す。そうすると、生活者としての自分が何を求めて いるかがわかるのではないだろうか。

そしてその問 題・課題を判断し、それを追い求めていっても必ず 一つや二つは新製品をモノにすることができる。常 に自分の、周りの生活に意識をはらい、地に足をつ けたデザイナーの視点を持つべきだ。


デザインコンセプトを明確に

イメージづくりのデザイン

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