見出し画像

ライオン級戦艦 : 果てない夢の向こうに

 ついに未完成艦にまで手を出し始めたのでなんというかこう、もう泥沼に入ってきた感じがすごいけどまあなんとなくいろいろ可能性が見えてきたんで未成艦についていろいろ見ていくのもアリだろうなというところで今回はイギリスが建造する予定だったイギリス最強戦艦「ライオン」について考えていこうと思います。

 御託はいいんでね、とにかく始めていきます。

イギリス最強戦艦

はじまり

 世界各国が海軍軍縮条約を締結し海軍の軍事力が抑制されていた時代を過ぎ、日本が軍縮条約を更新することを拒否した。これを受けアメリカの提案で軍縮条約のエスカレーター条項が適用され、建造可能な戦艦のサイズが35,000トンから45,000トンに拡大された。
 イギリス海軍は16インチ(40.6cm)砲搭載艦として条約の制限である35,000トンの範囲内で戦艦ネルソンを建造したものの条約の制限内に収めるため速力は23ノットと低速戦艦となってしまった。さらに条約型戦艦としてキングジョージ五世級を建造し速力28ノットと比較的高速な戦艦に仕上げたもののこちらは主砲を14インチ(35.6cm)にせざるを得なかった。
 イギリス海軍も排水量35,000トン、16インチ(40.6cm)砲で攻防のバランスを保った戦艦を作ることは困難だという認識で、40,000トンであれば攻防バランスを保った戦艦を作れると判断していた。

 当時欧州ではイタリアのリットリオ級やドイツのビスマルク級のような15インチ砲搭載で攻防性能の高い高速戦艦たちが続々と就役していた。イギリス海軍にはこれら高速戦艦たちに対抗できる高速戦艦はフッドしかおらず、旧式のクイーンエリザベス級などを引っ張り出したとしても性能不足戦力不足は否めなかった。
 さらにアジアでは日本海軍に戦艦長門という当時世界最強クラスの火力を持った戦艦がいたうえ、新型戦艦として18インチ(45.7cm)砲を搭載した軍艦を建造しているという情報が入ってきた。
 エスカレーター条項の発動を以てイギリス海軍は本気の16インチ搭載戦艦を建造することが可能となったのである。

 ライオン級はKGVからのイギリス戦艦の系列に続く戦艦であり、その設計に特筆すべきポイントがあるというわけではない。しかしイギリスが初めて入手する本物の16インチ搭載艦であり、そして何よりこの戦艦をイギリスは8隻も建造しようとしていた。世界最強クラスの火力を持ち、戦艦としてかなりの高い機動力を発揮する戦艦を8隻も揃えるのはイギリスが再び世界最強の海軍に返り咲く道筋であったと言える。
 一方で日本海軍が18インチ砲搭載艦を建造しているという情報を鑑みるとライオン級は条約の制限によってどれだけ頑張っても世界最強の戦艦にはなれなかった。だからこそ8隻という数の多さで相手を凌駕するという方針にならざるを得なかったのである。

新たなる標準

 KGV級の配備を以てイギリス海軍は新たなステージへと突入していた。そしてその新ステージの第二弾の目玉が戦艦ライオンだったのである。それまでイギリス戦艦は低速であったのに対しKGVを以て戦艦の速力が28ノットに引き上げられ、戦艦としては俊足で機動力が高くなった。これは欧州、ドイツフランスイタリアが建造した新戦艦群の足の速さに対抗するべく作られたシリーズでもある。
 40,000トンという数字になったのはイギリス国内のドックの問題によるもので、日本海軍が戦艦大和を建造するためにドックを拡大する必要があったことを考えればライオン級がこのサイズになったのは条約の制限がなかったとしても現実的なラインであったものと思われる。
 そしてサイズが拡大したことで対16インチ防御を施す余裕も生まれ、技術の進歩によりネルソン級よりも高速を発揮することが可能となった。攻防走においてすべての性能を底上げした新型戦艦なのである。

 その火力の根幹を担う主砲もネルソン級から設計を新たに新型砲を開発。徹甲弾の重量が929kgから1,080kgに増え、砲弾重量を増すことで遠距離側の貫通力を向上させるいわばSHSというべき砲弾を採用。連射速度も向上しアメリカ新戦艦の16インチ砲と同等の連射性能を発揮している。
 防御性能はKGVから引き続きの設計思想で基本的に砲弾を中に入れないという新戦艦の設計方針を踏襲しており、イギリス戦艦はとくに条約の制限で船体のサイズが厳しいことから舷側の傾斜装甲を採用していない。傾斜装甲は防御する際の効率で勝るが船内容積を減らすことからイギリス条約型戦艦は垂直装甲で船内容積を確保しつつその分装甲を厚くすることでカバーするというスタイルを貫いている。
 機関は12万馬力、過負荷で13万馬力を発揮する機関を搭載。新技術の採用により機関部のサイズは小さくでき、KGV級において大きなトラブルなく稼働していることから信頼性も十分なものであった。

 ここまで書いてきた通りライオン級は条約の制限の中でイギリス海軍がそれまでの戦艦の系譜を継ぐ新戦艦を作るとこうなる、という形であってそこになにか目新しいものがあるというわけではない。いわば縛りプレイの中で最強戦艦を作ってみたというゲームの一つの答えであると言えよう。

比較

 では実際ライオン級が完成した暁にはどういう性能バランスになっていたのか、これについて考えていく。

火力

 戦艦の火力において重要なのはとにかく重い砲弾を撃つということ。重い砲弾を遠距離まで届かせることができればそれが最強の主砲の条件と言える。そういう点において口径の拡大というのは最も砲弾重量を稼ぎやすい。欧州最大の主砲である16インチ砲に加えその砲弾はSHS的な性質を持っており遠距離での水平装甲貫通能力に主眼を置いた非常に厄介な主砲である。

 実際の貫通能力を比較してみるとライオン級の16インチMk.2砲は18kmで垂直装甲389mm、水平装甲82mmを記録、32kmでは257mm、184mmで条約型戦艦の水平装甲が150mmクラスであることを考えれば実用的な射程範囲内で高い貫徹能力を発揮している。
 サウスダコタ級に搭載されていたMk.6は18kmで448mm/109mm、32kmで266mm/268mmと大重量砲弾による異常な貫通力を叩き出すバケモノで正直このバケモノと比較するのはさすがにかわいそうなところもある。
 長門に搭載されていた41cm砲について詳しい貫通能力は不明であるがライオン級とほぼ同程度の砲弾重量で長門型のほうが初速が速い。性能的にはライオン級よりも若干近距離性能が勝る砲だったのではないかと思われる。
 欧州で対戦する可能性があったドイツ戦艦ビスマルクの主砲SK C/34と比較した場合18kmで419mm/75mmとドイツ戦艦特有の軽量高初速砲による舷側装甲貫通能力の高さを見せつける。27kmではMk.2が292mm/143mmに対し304mm/126mmとやはりビスマルクは軽量高初速特有の水平装甲貫通能力に不安を覚える。
 イタリア新戦艦であるヴィットリオ・ヴェネト級の15インチ(38.1cm)砲は18kmで510mm/73mmとやはり欧州最強戦艦の一角を名乗るだけの異常なほどの貫通性能を見せつける。戦艦大和ですらこの距離なら無傷では済まない性能である。28kmでは380mm/130mmで高初速砲特有の水平装甲貫通能力の低さは否めない。とはいえヴェネトは砲弾重量も軽くなく遠距離でもそれなりの貫通能力を発揮する砲であり、それをもってしても大口径大重量のMk.2砲の水平装甲貫通能力には勝てないということであった。

 戦艦というのは遠距離から砲撃戦を開始し状況に応じて撤退か前進かを選定しつつ戦うものであるから、遠距離における攻撃能力の高さは戦闘序盤における優位を握りやすいと言える。
 一方でイギリス戦艦は第二次大戦中多々主砲塔のトラブルに見舞われてきた前例があり、ライオン級の主砲塔もトラブルに見舞われた可能性は大きい。

防御

 ライオン級の舷側装甲は傾斜していないとはいえ374mmという分厚さを誇る。サウスダコタ級が傾斜した310mmであることを考えるとこれと同等クラスの防御性能を発揮すると考えられる。当時の戦艦群と比較してもかなり厚い。
 水平装甲は149mmでやはり欧州新戦艦群と同等の厚さを誇っている。サウスダコタが150mmクラスとは言いつつもSTSと合わせての複合装甲であることを考えると一枚板の装甲と比較してどの程度強いかは不明。そういう点においてライオン級の149mm一枚板はある種かなり硬い。
 これによりライオン級は自身の主砲に対し16km~28kmの範囲内で貫通を防ぐ。実際の交戦距離が20~30kmが主流だったことを含めその防御性能は十分自分と同等の戦艦に耐えうると言える。

 同時期のほかの戦艦と比較していくとサウスダコタ級とかいうバケモノ火力を誇る戦艦に対しては安全距離が存在しない。これはとにかくこいつの主砲が頭がおかしい性能を発揮していることによるもので、まあしょうがない。ダコタはライオンに対し16km~22kmが安全距離となり超絶火力のダコタに対しかなり善戦している。特に25kmから以遠で貫通するということは遠距離で殴り合えば互いに殺し合い、互いの主砲弾が貫通する状況、あとはどっちが勝ってもおかしくない。
 欧州新戦艦シリーズはまずビスマルクと比較。ライオン級はビスマルクの主砲に対し23km~32kmを安全距離としていてこの距離であればビスマルクの主砲はライオンを貫通できない。ビスマルクはライオンに対しまず安全距離が存在しない。ビスマルクはライオンに対しほぼ勝ち筋がないと言える。
 ヴィットリオ・ヴェネトの場合はライオンの安全距離は28km~30kmとかなり狭い範囲になる。これはヴェネトの主砲が異常な垂直装甲貫通性能を発揮するが故のもの。とにかく貫通性能は正義なのだ。一方ヴェネトはライオンに対し16km~32kmを安全距離とする。自身の異常な主砲に対応した防御を施したヴェネトはもちろん非常に硬い。

 まあこの通り性能的には条約型戦艦群と比較して互角レベルの性能で、攻撃強め防御弱めがサウスダコタ級、バランス型のライオン級と評することもできる。
 あくまで条約型戦艦の延長線上であり、その性能は戦艦大和に対抗するには物足りない性能であったことは否めない。だからこそその性能不足を数によって補う方針となったのもうなずける。

機動力

 KGV級から引き続きの機関であり信頼性は十分だと言われていた。しかし船形の選定もKGV級と同等であることから航海性能において問題を抱えた可能性は大きい。これは機動力という面においてカタログスペック通りの性能を戦場で発揮できるかという部分に疑問符が付く。この問題は次のヴァンガードにならなければ解決されなかった。
 とはいえ過負荷で走れば30ノットを発揮できる機動力の高さは欧州新戦艦群が20ノット台後半を出して走り回れることを考えればその性能は素晴らしい。
 航続力に関してはKGVやヴァンガードが設計時よりも航続力が落ちるという問題があり、新機関の燃費はかなり悪かった模様。太平洋での運用において航続距離不足に困った可能性は高い。

手にするはずだった本物の戦艦

 結局イギリスはライオン級の建造を途中で取りやめることとなった。もし完成していたとすればイギリス最強の戦艦であったことは確かで、欧州の海軍バランスを大きく変動させていたであろう。でも新設計の戦艦ゆえの問題も多いし、信頼性という部分ではこの後に作られたヴァンガードはすでに信頼性が担保された主砲とエンジンで手堅く高速戦艦としてまとめ上げられた。
 正直に言ってライオン級は火力で優位とはいえ総合的にはヴァンガードの方が完成度の高い戦艦であったと私は思う。主砲塔の不具合の可能性や航海性能をすべて解決した戦艦がヴァンガードであったからだ。そしてなによりヴァンガードは無条約時代の産物ゆえにだいぶ設計に余裕があり格上の戦艦とも殴り合える性能を持っていた。40,000トンギリギリでまとめあげようとした結果余裕のないライオン級は格上と殴り合うには少々厳しい性能と言わざるを得ない。

 まあだからこう、なんだろうな、ライオン級は面白くないんですよ結局。どうせ作るなら条約の制限なしで好き放題作れればよかったのに微妙に縛りが発生したせいで抜けきらない、性能的優位を得ることができなかった。まあ数作るつもりだったからいいんだろうけど、なんだろうな、もうちょっとやりようがあったんじゃないかみたいな気がすごいんですよね。うーん、何だろうこの気持ちは。そんな感じです。

サポートしてくださると非常にありがたいです。