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戦艦モンタナは大和に対抗できたのか

 この間戦艦大和について書いたんですけどあれ以来戦艦モンタナは大和に対抗できたのかどうかを考えていると夜しか眠れない状態に入ったので戦艦モンタナは大和に対抗できたのかどうかについて考えていこうかなという感じになってます。実際モンタナは未完成で終わったので激突する可能性はなかったわけですが、もし完成していて対抗して建造されていた場合どうなっていたのかというのは数多の架空戦記で描かれてきたテーマでもあり実際どうなのかについてアプローチしてみたくなったわけです。

 そういうわけなんで、さっそく始めていこうと思います。

概要

計画のきっかけ

 海軍休日が終わり、世界各国が自由に海軍軍拡をできるようになったことでアメリカ海軍は仮想敵である日本海軍に抵抗するため軍拡計画をスタートした。
 当時日本海軍は25ノット級の戦艦群と30ノット級の金剛級を装備しており金剛級は遊撃艦隊としてかなりの脅威になるであろうことが想定されていた。一方のアメリカ海軍の戦艦群は21ノットで統一されており金剛級に対抗するための高速戦艦が不足していた。よって金剛に対抗するための軍艦として高速戦艦アイオワの建造計画がスタートした。
 一方でアメリカはノースカロライナ級、サウスダコタ級と16インチ(40.6cm)砲を搭載した戦艦を量産開始したが彼らはあくまで14インチ(35.6cm)砲艦の改良型であり真に16インチ砲に対応した防御性能は満たしていなかった。よって主力艦部隊を強化するための強力な戦艦が必要という認識が生まれたのであった。
 速力についても低速戦艦とは言いつつもノースカロライナ、サウスダコタ級が26ノットクラスの速力を発揮することからこれらに合わせた性能でありこれによりアメリカ海軍は26ノットクラスの世界最速最強の戦艦群を装備した大主力艦隊を手に入れることになる。そしてそれは21ノット級の旧式戦艦を二線級戦力として保持できるということでもあり、アメリカ海軍が真に世界最強海軍になるための必要な投資であったと言える。

 モンタナの性能については18インチ(45.7cm)砲の搭載も考慮されたが日本海軍が目下建造中の戦艦大和は45,000トンクラス、40cm砲9門、30ノットクラスの戦艦と推定されており大和に対抗するためには16インチ12門クラスで対抗可能と判断した。
 強力な16インチ砲に合わせた防御を備えることが求められ軍艦のサイズも拡大したことでパナマ運河を通過できないという問題を抱えたがこれに関してもパナマ運河の拡大を以て対処することで太平洋と大西洋の移動を可能にすることにした。

 これもある意味大和と同じ、好き勝手戦艦を作れるようになったから好き勝手戦艦を作りますという戦艦で基本的には大和と発想は同じ戦艦であった。ただ日本海軍というライバルを意識した結果大和キラーという要素は強まってしまった。

仮想大和キラー

 モンタナはアメリカ海軍が想定していた戦艦大和のライバルとして作られた。敵が明確ゆえにそれに対抗するための必要最小限の性能という部分がアメリカ海軍最強戦艦ではありつつも大和と異なる点である。米海軍は戦艦大和が主砲9門であること、そして主砲は40cmクラスであると掴んでいた。大和のサイズを考慮すれば30ノットクラスの機動力を発揮しているとおそらく考えていたようである。
 よってモンタナは16インチ砲を12門搭載することで大和を上回る火力を入手し、SHSによる莫大な貫通力で一門当たりの性能でも大和を上回ることで優位を取るつもりであった。ある種保守的な砲の選定ではあったが16インチ45口径砲Mk.6ではなくモンタナに搭載された50口径Mk.7の長砲身砲を搭載することで射程距離の不利も解決。現状アメリカが選定できる中では最善手を取ったと言える。
 おそらくモンタナが主砲口径の拡大を嫌ったのは船体の拡大を防ぐためであると思われ、主砲口径が拡大した大和は全幅39mに対しモンタナは40cm砲の搭載で全幅は37mに抑えられ比較的巨大化を抑えられたと言える。主砲口径が拡大すれば砲塔が大きくなり、砲塔の直径の3倍は全幅が必要であるという日本海軍の試算の通り砲の拡大はそのまま船体の拡大につながってしまう。パナマ運河を拡張する前提とはいえ無理なサイズ拡大を避けたかったものと思われる。

 機関出力は17万2000馬力と戦艦大和を上回る性能を発揮する機関を搭載し低速戦艦とは言えども28ノットクラスの性能を発揮すると目されていた。これもサウスダコタ級で行ったのと類似していて艦形が悪くても大出力機関を搭載すればどうにでもなるとかいう手法だった。とにかくアメリカらしい「力こそパワー」といった形である。
 これによりアメリカ戦艦は26ノット級の戦艦と33ノット級の高速戦艦を手に入れ、日本海軍の25ノット,30ノットの組み合わせよりも速度的に優位を手に入れることとなる。日本海軍は高速艦艇を好む傾向からして速度で優位を取ることは非常に重要であり、そしてアメリカ主力戦艦群の主砲は16インチ砲で統一されていて世界最強の攻撃力を誇っていた。つまり世界最速最強の戦艦群だったのだ。

 防御性能もアメリカ海軍16インチ搭載艦のなかでは初めて対応防御、自身の主砲に耐えうる防御性能を獲得し、かなりの重防御となっている。甲板にも装甲を張りつつ装甲甲板に200mmクラスの装甲を張っている。これはアイオワ級などでも行われていて最上甲板の装甲で砲弾の被帽を破壊することで敵艦の砲弾の貫通力を下げることが期待されていた。
 舷側にも409mmの傾斜した鋼板を装備。アメリカ海軍が比較的近い距離での交戦を想定していたことを考えてもかなりの重装甲を装備していた。
 これらの装甲に加えSTSという特殊鋼を張り足していた。STSは均質圧延装甲であり当時の主流である表面硬化装甲よりも防御力は劣ると米海軍も評していたが、それでもSTSを含め甲板250mm、舷側500mmクラスの性能を発揮すると考えてもいいと思われる。

比較

 実際にモンタナは戦艦大和に対抗できるのかどうかについて比較によって考えていこう。

攻撃力

 主砲の16インチMk.7砲についてですが、前述のとおりMk.6がSHSで莫大な貫通能力を得たのに対し射程距離が短くなってしまった問題を砲身を伸ばし初速を上げることで解決した。これによりMk.6が701m/sという初速に対しMk.7では762m/sと高速になっている。つまりクソ重い砲弾を低速ではなくそこそこの速度で射出することにより性能バランスを保とうとしたのである。
 戦艦の主砲弾は初速を向上させることにより垂直装甲への貫通能力を向上させることが可能で結果的に垂直装甲の貫通能力は向上した。しかし垂直装甲はそれぞれの軍艦の姿勢、角度により変動するもので確実性があるものとは言い難いという問題点がある。

 とりあえずMk.6とMk.7を比較していくと18kmでMk.6が垂直448mm、水平109mmに対してMk.7では509mm、99mmと水平装甲貫徹能力は低下したものの莫大な垂直装甲貫通能力を得ている。32kmではMk.6が266mm、268mmに対しMk.7では329mm、215mmの貫徹能力を得た。条約型戦艦の水平装甲が150mmクラスであることを考えれば実用戦闘距離で異常な貫通能力を発揮している。射程距離の限界である38km地点では241mm、357mmともはやこの距離では破壊できない水平装甲は存在しないことになる。
 つまりこのMk.7はアメリカ海軍史上最強の主砲と考えることもできる。

 主砲弾の重量は1,225kgと非常に重く、大和の46cm砲の1,460kgと比較した場合軽量であるものの旧式の16インチ砲の1,016kgと比してその重量が非常に重いことがわかる。
 主砲弾の口径で負ける分主砲を増やすことで火力増強に努めた結果12門の主砲による砲弾投射重量は14,700kgという数字を記録。大和が13,140kgであることを考慮すれば大和を上回る投射重量である。
 しかし実際には間接射撃であり、主砲数の二乗根に命中数は比例する。よってこれを主砲門数の二乗根で割ることで期待値を得ることができる。これはモンタナ級が4323なのに対し大和は4380と主砲門数を増大したにもかかわらず期待値は大和を下回る結果となった。これは主砲門数の増大は必ずしも火力増大にはつながらないという事実の証左でもある。ただこれだけの火力があるというのはほぼ大和同等の火力があると言う根拠でもある。

防御

 さっきも書いたんですが異常な防御力です。STS込みというところを考慮してもかなりの分厚さを誇り、敵の砲弾を絶対に貫通させないという意図を感じる。
 第一次大戦型戦艦の防御は貫通されてもそのダメージを拡大させないという多重防御を軸とした設計だった。もし貫通し炸裂したとしてもその爆風を二枚目三枚目の装甲で食い止めるという設計が主軸だった。しかし主砲が拡大していったことで多重防御をするにしても50mmクラスの装甲が必要になり、より多くの重量が必要になった。装甲にそれだけの重量を割くのであれば外の装甲に一番重量を割いた方がより防御力を発揮できる。
 つまり絶対に貫通されない装甲というのが第一次大戦後の戦艦の防御思想の基本となった。殴られてもボロボロになりながら死なない奴よりは最悪の場合死に至るが死ぬまでは敵を殴り続けられる戦艦の方が強いという設計思想である。
 比較的重装甲となったサウスダコタ級が舷側310mm、甲板150mmクラスであることを考慮すれば舷側500mm、甲板250mmクラスのモンタナはバケモノクラスの防御力を誇ると言ってもいい。

 実際に大和と交戦した場合の防御性能を考慮していく。モンタナの対大和に対する防御性能は舷側が20km以内で貫通、甲板が28km以遠で貫通となり安全距離は20~28kmとなる。
 一方の大和の対モンタナの防御性能については舷側が18km以内、甲板は30km以遠で貫通となり安全距離は18~30kmとなる。
 主な交戦距離である20~30km圏内において双方ともにある程度の防御力を発揮し互いに致命傷を与えられないという状況であることは間違いない。しかし大和は非常に分厚い装甲を持っていることから大和の方が安全距離が広く、大和に軍配が上がると言ってもいいのではなかろうか。
 モンタナ級の主砲は初速を向上したことにより射程距離が延伸されたものの実用射程距離における性能はMk.6砲を下回ってしまっているという要素は否定できない。Mk.6は現実的な距離において最大の貫通能力を発揮したのに対しMk.7は最大の性能を発揮するのがあまりにも遠距離すぎ、実用射程距離内では大和のヴァイタルパートを貫通できない。そしてほかの戦艦を攻撃するには過剰な貫通能力を発揮していた。大和キラーとなるためには帯に短し襷に長しという印象である。

 実際に大和と交戦した場合にはその性能はほぼ互角に近いものの攻防性能で若干大和が有利という計算になると思われる。

機動力

 モンタナの実際の速力がどの程度になるかは不明であるが28ノットという推測であり26ノット程度は最低でも発揮可能なはず。あくまでもほかの戦艦の戦列に加わるべき戦艦であることを考えれば十分な機動力であり、大和が同程度の速力であることを考慮すれば戦艦に求められる機動力というのはこの辺の数字に収束するのであろうと思われる。
 モンタナの航続距離がどれぐらいなのかは詳細不明なもののサウスダコタ級が10,000浬を超える航続力を持っていたことを考えれば同程度の航続力は備えていたはず。これも太平洋という広い戦場を考慮した日米海軍の思想の重なりでもあり、戦術機動力と戦略機動力両面における日米海軍戦艦の優秀さを示すものでもある。

所詮は「大和キラー」

 ここまで比較してきて戦艦モンタナは大和に対抗できる程度の性能は発揮している。モンタナは決定力に欠けるという点こそあるもののライバルとしてはそれなりに機能するわけである。しかしそれはあくまで大和に対抗できるという程度の性能でしかない。大和を上回る性能を発揮するわけではなく、大和にあったような「世界最強の戦艦」としての強みはない。
 またモンタナの主砲はSHSをそれなりの初速で発射していることで散布界が広がってしまい命中精度という点で劣る。カタログスペックを重視した結果の実用性の低下という問題点を孕んでしまった。

 実際に大和と殴り合えば不利とはいえあれだけの巨弾が降り注げば大和といえど無傷とは言えない。命中すれば着実にダメージを与え続けるだろう。行動不能にすることこそ厳しくても少しずつ戦闘力を削っていけるはず。互角の性能の軍艦が殴り合えば不確定要素によって有利不利は多少変動することを考えれば大和を沈める可能性もある。
 しかし所詮はその程度で、日本海軍が51cm砲を搭載した改大和級を完成させた暁にはモンタナはこれに対抗する手段を持たない。莫大なコストをかけて作った割には今後登場するはずの日本海軍の超戦艦たちに対抗する手段がなくなる。
 アメリカ海軍は太平洋で日本海軍と殴り合うことを考えていた。その最終決戦において敵の主力艦に対し決定打を与えられないモンタナ級は金剛のライバルとして建造されたアイオワ級のような圧倒的優位を持っているわけではないというのは評価が下がると言える。
 一方で大西洋ヨーロッパの戦艦群でこのモンタナ級に対抗しうる戦艦はイギリス戦艦ヴァンガードですら困難なレベルであった。モンタナ級の敵は太平洋にしか存在しなかったのだ。

 そう考えればある意味戦艦という存在が恐竜化していき兵器として巨大化しすぎたという一面でもあり、モンタナは莫大なコストをかけて建造したわりには性能設定を誤ったことで戦艦としての存在価値が中途半端になってしまった結果の産物であった。戦艦とはその程度の兵器だし、でもその防御力は異常で空母複数で殴りかからないといけないぐらいには無視できない。所詮はその程度の装備だったのである。

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