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思い出の恋模様

「ごめん、ちょっと行ってくる。」

深夜0時を回る頃。20歳になる彼の誕生日ケーキを作って待っていた私を置いて、あっさり出て行った。驚きすぎて、状況が呑み込めない。

私は圧倒的に男がわからない女だった。高校のころ、初めて付き合った男との別れは墓所の前だった。近くにカフェも移動手段もないわたしたちは、道路脇にある墓所のベンチで話し込むことが多かった。今考えると、そんな場所を選んだ自分たちに若干どころか結構引くし、意味不明だ。ほかにもあっただろうと。でもその頃の自分は、その違和感になにも気づかなかったし楽しかった。そして雪の降る真冬、凍える中3時間以上待たされた後、ふられた。3か月だった。

こんな色気ない思考の女に彼氏ができ、自分もやっと「大学デビュー」なるものを果たせたと勘違いしていた矢先だった。数日前から計画し、ケーキのスポンジや生クリーム、トッピング用のイチゴを購入して当日に臨んだ。彼にも、ちゃんと今日のお祝いのことを伝えていたはずだった。なのにである。

サークルの友人たちに呼ばれたんだそうだ。しかも、彼の誕生日を祝うという話。
なぜ行ったんだ。仮にも彼氏なら彼女が家で自分の誕生日を祝おうとケーキまで用意していたら普通行かないだろ

結局、深夜2時を回る頃に戻ってきた。「ごめん」だけだった。

この件を皮切りに、割とあっさり関係が崩れていく。どうやら彼にはほかに思い人がいたようだ。同じサークルの女性で最初は関心がなかったそうだが、相手方の圧倒的なアプローチと熱意に徐々に心が動いていったのだと言う。そしてその彼女は、授業中いつも私の隣に座っているかわいらしく清楚な人だった。

そんなことは露知らず、のんきに酒を飲みながらケーキを作って待っている女は一切太刀打ちできなかった。

半年が経った頃。彼はいきなり現れた。物理的な目の前である。一切の連絡を絶ち、道ですれ違ってもお互い素知らぬふりをする関係だったはずなのに。そして開口一番、「彼女を好きかわからない」と。

驚きと蘇ってくる怒りでのどが少し震えた。何を言ったか覚えていないが、わなわなする声で罵った。すると最初の懇願するような表情はみるみる曇り、最後は無言でどこかへ立ち去っていった。

今思えば、彼は赦しを乞うていたのかもしれない。そういう甘えのようなものだったのかもしれないが、フラれたショックで10キロ痩せた私には、彼を受け入れる気持ちも余裕もさらさらなかった。後にこれを「失恋ダイエット」と名付けることとなる。

これが現旦那と出会うまでの「生涯独身」を貫こうと思ったきっかけである。かなりヤワな話で恥ずかしいが、そんなことで深く傷ついた。恋愛に関しては、かなりウブなのかもしれない。だから、もう恋愛なんかしなくていい生活に清々している。

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